3・両想いで片思い


 あの日以来、二人きりを避ける佳奈。

 それは偶然だと思っていた。

 だが、人前でしか話しかけてこない彼女に、哉太はいつしか違和感を覚える。


────サークルでしか会わない彼女。

 違う、サークルでしか会えなかったんだ。


 見えない鎖でつながれた彼女は、飲み会はもちろんのこと昼間の食事会にすら来なかった。

 用があると言って断るから、サークル活動をしている時間に合わせたこともある。

 しかし彼女は一度も参加しなかった。


────違う、できなかったんだ。

 サークル活動の現場以外に行くことが。


 あの頃は嫉妬していた。彼女がアイツを優先することに。

 だが、間もなくそれが勘違いであると知る。

『通話はめてっていったじゃない』

「でも、メッセじゃ埒あかないだろ」

 佳奈はいくらサークル活動に誘っても、忙しいの一点張り。

 理由を聞けば、彼氏の相手と繰り返すだけ。

 好きじゃないといっていたはずなのに、と矛盾を感じ心がかき乱された。

 哉太は思ったことをそのまま口に出してしまう、オブラートには包まないタイプ。


「好きじゃないって言ってたくせに、優先するのか?」

『彼氏を優先するのはおかしいことじゃないでしょ?』

 何時でも佳奈を束縛するその男が、憎かった。

 自分から佳奈を好きになる権利どころか、友人としての権利も剥奪するその男が。

「好きじゃないのにか?」

 我ながらシツコイとは思う。

 でも、彼女が望まない、好いてさえいない相手に拘束されてるのはおかしいと思ってしまう。

『一日五十ッ回は死ねって思っているし、五秒に一回は別れたいって思ってるわ』

「なんだよ、それ」

 彼女は深いため息をつき、

『そのままの意味』

と答えた。

「なあ、佳奈。俺が別れさせてやるよ」

と哉太が言うと、

『やくざの抗争みたいになりそうだから、いい』

と冷たい返事。


────一体、俺はどんなイメージなんだよ!


「一志は、とてつもなく面倒な男だから、刺激しないで」

『そんなこと言ったって』

「あと、言葉通じないから」

 彼女の部屋からはいつでも洋楽が流れていた。

 同じアーティストの曲なのは分かる。ボーカルの声が同じ人のように感じていたから。しかし、自分は邦楽派。

『流暢な日本語だったが、ああ見えて外国籍とか?』

「ううん。宇宙人」


────なんだ、それは。宇宙人なんているわけないだろ。


 哉太は真面目だった。

「佳奈、それなんて曲」

『ん?今かかってるやつ?”Girls like You”。彼、良い声よね。って洋楽なんか聴かないじゃない』

 彼女の呆れ声。

 哉太が自分が良いと思ったものしか興味がないことを知ってか、彼女が何かを奨めてきたことはない。

「佳奈、また音楽の話しよう。サークル来い」

 趣味なんて合わないのに、哉太は彼女と話がしたかった。前のように。

『有希さんと遊んでなよー』

「は?」

 それは初めての喧嘩の始まり。

 どこか遠くで、鐘がなったような気がした。

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