2・彼女への気持ち


「ねえ、哉太。帰らないの?」

 有希の声で現実に引き戻される。

 甘えた声で背中にへばりついてくる彼女。

 以前なら、守ってあげたいと感じていた。

「する?」

と問う彼女の腕を哉太は振り払う。

 いつもの冗談かと思いながら。

「早く帰って彼氏と仲直りしろ」

「哉太、つめたぁい」

 彼女の間延びした声に少しイラついた。

 佳奈なら……と思ってしまう自分がいる。


────馬鹿だな、俺。とっくに終わったことだろ。


 有希に向け、仕事の邪魔だと冷たく言い捨てると、PCのモニターに再び目を移す。心の中は佳奈のことでいっぱいだった。

 そう、あの頃の思い出で。


 あの日以来、自分は佳奈が気に入っていた。

 自分でも驚くほど強引で、某メッセージアプリのIDを無理やり交換させた後、事あるごとにメッセージのやり取りを望んだ。


”今、何してるんだ。サークルに来い”

 今考えれば、どうかしてる。

 相手の都合を無視し、従わせようとするなんて。

 もちろん佳奈からは拒否のメッセージ。

”今忙しいから、無理”

”何してるんだよ”

”彼氏の相手”

 嫉妬しなかったわけじゃない。

 引き離したいと思ったのも事実。

”そんなのどうだっていいだろ。早く来いよ”


 恋が上手く行くなんて、思ったことはない。

 現に、自分は有希に告白して振られている。

 それなのに、未だに甘えてくるのは自分が弱いせいだと思っていた。恋を失うだけではなく、友人としての有希を失うのが嫌なのだ。

 有希の時は簡単にあきらめることが出来たのに、佳奈には止められなかった。


 しまいには、

『真面目だけど強引でドSな生徒会長みたい』

と佳奈に言われてしまう。

 なんだ、それはである。

『萌えるよね』

と言って、彼女は笑った。


 暫くして、彼女と同時期にサークルに入会した佳奈の友人だという男が退会する。二人が仲が良いのかどうかもわからないまま。

 友人という割には、サークル内で会話をしないのだ。

『彼、辞めるの早くないか?』

と素朴な疑問を彼女にぶつければ、

『一志、ちやほやされてないと駄目な人だから』

と言う返答。

 親しそうな物言いに、何とも言えない気持ちになったことを覚えてる。

『恋人って彼?』

 それは勘だった。

『恋はしてないけどね。アイツには』


 彼女はとても嫌そうな表情をしたが、否定もしなかったため、確信する。

 相手は彼なんだと。

 彼は人あたりは良かったが、あまりサークルに顔を出さなかった。


 彼が辞めた理由にはちやほやされなかったこともあるだろうが、佳奈がみんなと仲良くしている様子がなく純粋にサークル活動をしているだけなのを見て、安心したことも含まれる。

 そして自分が彼女に好意を抱いているように感じるのが、気に入らなかったようだ。


────むしろ、それが一番の原因かもしれないな。

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