第498話 リュークの最期
チュートリアル戦は、入学式で本来リュークがダンのライバルとして悪役貴族としての力を誇示しようとして挑む。
それに対して、ゲームを開始する主人公は、リュークを返り討ちすることによって戦闘のやり方を学ぶためのイベントだ。
だが、あのイベントでボクからダンに戦いを挑むことなく、ダンがボクに敗北したことで全ての分岐は変わってしまったように思える。
もしも、ボクが戦いを挑んでいれば、もしもボクがダンに敗北していれば……。
だが、そんなことを今更考えても仕方ない。
ダンは強くなった。
勇者と呼ばれるほどの力を手に入れた。
「勇者ダンよ。いざ、尋常に」
「魔王リューク! 勝負!」
ダンが聖剣を抜き放って、向かってくる。
前回はバルを憑依させて迎え討った。
1分でダンを倒してしまった。
「バル、あとは頼んだ」
今回も同じだ。
ボクはダンと戦うつもりはない。
体をバルに預けて、全てを任せる。
どんな戦いが繰り広げられるのか、視界だけを共有しておく。
「リューク!」
全身に闘気を纏ったダンが聖剣を構えて向かってくる。
その剣筋は、昔とは違って荒々しく、鋭く、そして、世界一の剣豪となった最強の剣だ。
「はっ! ふっ! やっ!」
一撃一撃が重く速く。
ダンの一撃がボクの服を切り裂いた。
かつては一瞬でバルに倒されていたダンがボクの服を切り裂いていく。
「どうだ! 今の俺はお前に刃を届かせられるんだ!」
ダンが叫び声を上げる。
そんなダンに対して、バルはボクの体を軽く動かして準備運動を開始する。
ダンが成長しているように、ボクの体は限界突破を迎えて、圧倒的な身体能力と自分なりに独自の格闘術を完成させた。
「ふん」
「なっ!」
ダンの体が宙に浮く。
腹、胸、顔に三連撃を放って、体の中心にある急所を三連突きを放ってダメージを与える。
「効かん! くくく、リューク。お前は知らないだろうが、俺は新たな力を手に入れたんだ。お前から受けるダメージはハヤセから受ける物と同じぐらいに心地よいな。全然痛くないぞ!」
さらに続けて、蹴りやパンチを放って闘気を纏わせるが、今までのダンではない。
「どんどんこいよ!」
こちらが攻撃を仕掛けるたびに強くなっていく。
ダンは本当に強くなった。
だから、こちらも思いっきり戦える。
「右手に《怠惰》を! 左手に《睡眠》を」
物理攻撃ならダンがボクの上に行ったと認めてやる。
だけど、魔法ではまだ負けてやるつもりはない。
「なぁ、リューク。俺はずっと異常魔法に対して、ずっと弱かったんだ。最初はアイリス・ヒュガロ・デスクストスだった。それから搦手である異常魔法に対して負け続けた。だから、聖剣よ」
ダンの聖剣が青白い魔力を放出する。
その瞬間に、ボクの両手に生み出された力が消滅していく。
「!!!」
「これはリューク。お前専用に編み出した俺の魔法だ。《増加》の力によって、《勇者》の魔法、魔法無効化の力を《増加》している」
そうか……。
ボクの全てを乗り越えたというわけか……。
「さぁ、俺を倒すのは肉体のぶつかり合いだけだ!」
ボクはバルを解除する。
代わりに鎧へと変化させて、漆黒の鎧から爪が伸びて武器を装備する。
「決着をつけるぞ! リューク!」
「ダン。よくここまで成長したものだ。さすが勇者だと言わせてもらおう」
爪を振り上げて、ダンの体を切り裂く。
鎧を切り裂こうと聖剣がボクに振り下ろされる。
互いに、どんどん傷が増えながら血飛沫が飛んでいく。
だが、明らかにダンのダメージは喰らってもすぐに血が止まるが、回復魔法を使って治していくこともできない。
ここまでか……。
「ダン」
「なんだ? リューク」
「お前の勝ちだ」
「えっ?」
「気は済んだ。お前は俺を超えてNo.1だ」
ダンが油断している際に奇襲をかければ、負けることはないだろう。
だが、今更そんなことはどうでもいい。
「バル! 契約を解除する」
漆黒に染まっていたバルはピンクに戻った。
「マスター!」
「良い。みんな最後まで見届けてくれてありがとう」
ボクは膝を降り、ダンに向けて首を差し出す。
「やれ! ダン」
「うっ、うわああああああああ!!!!!」
ダンが聖剣をボクの首へと振り下ろした。
これが走馬灯なのだろうか? 今までボクがこの世界からしてきたことが全て思い出される。
とんでもない幸せな人生だった。
「良い人生だった!!!」
ボクは最期に笑うことができた。
……
…………
…………………
「やったのか?」
ダンの声が聞こえてきた。
だが、ボクが目を開くとキモデブガマガエルのリュークが立っていて、その頭には魔王と同じ角を生やしていた。
「えっ?」
ボクが顔を上げるとリュークの首が飛んでいく。
「クマ?」
ボクが《怠惰》の化身を呼べば、声にならない口元は……。
『俺様がリュークだ!』
《怠惰》な、キモデブガマガエル……リューク・ヒュガロ・デスクストスは死んだ。
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あとがき
どうも作者のイコです。
次の話でエンディングになります。
《あくまで怠惰な悪役貴族》は私に取って誇れる代表作になってくれました。
全ては読んでいただいた読者の皆様のおかげです。
どうぞ最後までお付き合い頂けますよう。
よろしくお願いします。
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