第496話 呪い

《side時のクロノス》


 ふざけるなよ。


 ただの通人族風情が神である私を愚弄するなどあり得ない。


 しかも何故寝転んでいるんだ! 何故、戦いに参加しないんだ! 

 大見得を切ったくせに戦っているのは、麒麟と《怠惰》の化身ではないか?!


 私は時の神クロノスである。


 私が何度も繰り返すことに疲れた? ふざけるなよ!


 私こそが時なのだ。


 時を司る者に終わりが来るはずがない。

 いつか滅びはやってくる。

 ここで負けたとしても滅びは来るのだ。


 だが、ここまで私を愚弄して終わらせるわけにはいかない。


「鬱陶しい!!!」


 纏わりつく麒麟と《怠惰》の化身を振り払う。


 力でも、魔法でも、私は神として最高峰にいるのだ。

 この程度のことは造作もない。


「よかろう。確かに今の我はこの空間に囚われ、魔法が使えぬ。これがダンジョン戦として貴様が用意したフィールドならば、見事であると言ってやろう」

「それはどうも」

「だが、それがどうしたというのだ? 魔法が使えないのであれば、私を滅ぼすことはできんぞ。殴るのか? 蹴るのか? それで肉体的な死を与えたとして、私が滅んだと言えるのか?」


 どうだ? 私はその程度で、死なぬ。滅びぬ。朽ち果てぬ。


「お前、自分で言っていて情けなくないか?」

「何!」

「お前が情けないから答えてやる。ここがダンジョン戦である以上は、勝敗の決し方は貴様を倒す以外にも存在する」

「なっ!」


 こやつは最初から私と戦う気がないのか? くそ! 言葉巧みに騙されていたというのか? 私は自らの背後にある黒曜石を見た。



《sideリューク》


 どうやらやっと考えに至ったようだ。


 ダンジョン戦に置いて、勝敗を分けるのは、ボスを倒すことではない。


 いかに、効率よく相手のダンジョンコアを破壊するかによる。

 これはタワーディフェンスゲームに近いのだ。


「くっ!」

「どうして、ボクがいきなり寝転んだと思う? どうして戦いをオウキとクマに任せたと思う? どうしてバルニャンをクッショにした? お前はボクの行動一つ一つをもっと考えるべきだと思うぞ。あまりにもアホすぎる。これならば、天王や魔王を相手にしている方が盤面を操作してくれて面白いほどだ。《暴食》のルピナスの方がまだ強い」


 ボクは時のクロノスを挑発してヘイトを自分へ向けさせる。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!」


 発狂するように、怒りをぶつけるクロノスは、威厳のかけらも存在しない。

 我が儘な子供のように、ただ叫ぶだけだ。


「もういい」


 だが、怒りを爆発させたクロノスは雰囲気が変わる。


「なんだ? やっと殺される気になったのか?」

「ああ、そうだな。私の負けだ受け入れよう。貴様は、我と会話をしながらも姑息にダンジョンコアを破壊する工作をしているのだろう。ご苦労なことだ。その一手を持って終われを倒す。ふむ、理に叶っておるな」


 どこか諦めにも似た穏やかな口調に、むしろボクの警戒心は上がっていた。

 クロノスは何かをしようとしている! だが、それが何をしようとしているのか理解できない。


「なんだ? 死ぬ前の悪あがきでもしようとしているのか?」

「ふむ。そうだな。これは悪あがきだ。あまり褒められた所業ではない。貴様が正式にダンジョンを攻略しないのと同じく。私も時のクロノスとして貴様に殺されてやることに抗おうではないか」


 何を言っているのかわからない。

 クロノスは何を望む何をしようとしている? 警戒を強めるが、今のボクはダンジョン戦を行っているために魔法は使えない。


 オウキもクマも肉弾戦で、クロノスを破壊しようとしているが、先ほどから進展が見られない。


「魔法は使えないこの場所で、されど神として矜持は真っ当しよう。この命を持って貴様に呪いをかける。リューク・ヒュガロ・デスクストスよ。貴様は見事であった。勇者を囮にして魔王を倒し。これまでの道筋を整え、全てが完璧であったと認めよう。だから、これは私からのプレゼントであり呪いだ」

「ミニバルニャン! ダンジョンコアの破壊はまだか?! オウキ、クマ! クロノスを止めろ」


 何をするのかわからないが、嫌な予感がする。


 まるで触れてはいけない場所に触れてしまったような感覚。


 クロノスの雰囲気が変わってからは何かがおかしい。


「継承する。私は今より時のクロノスの力を、リューク・ヒュガロ・デスクストスへ。これより繰り返させる時は私には訪れない。その力の全てを貴様にくれてやろう。これは魔法ではない。呪いだ」

「ぐっ!」


 強制的に何かの力が、ボクの体の中へと流れ込んでくる。


「おめでとう、時の魔王リューク。貴様はこれより先。未来永劫死んでも死んでも時をやり直すのだ。くくく、お前が私や魔王カイロスを憐れんだことをその身に受けるがいい!!!」


 クロノスはボクに力を継承させると、朽ち果てその時を終わらせた。






 

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