第495話 時のクロノス

 真白な髪に白い目、真っ白な肌に目鼻立ちがはっきりとした美少女。


 時を止めた世界で、幾つの歴史を見てきたのだろう。

 何十年、何百年では数えられいだろう。


 一つの歴史が終わりを迎えるのにどれだけの歴史を必要とするのか? それとも時を戻すきっかけが存在するのか? 例えば魔王が死んで、世界が滅べば時を戻してやり直すのか? それともそこには法則性が存在したのか?


 魔王に到達できない勇者がいたなら、その世界を諦めて世界を元に戻すことになってしまう。


 そのきっかけによって世界は時を戻していく。


 クロノスは全ての始まりを知っていて、天王と魔王を生み出した存在ということになる。


「クロノス。お前は自分が消滅する未来を知っているか?」

「……ありえない」

「どうしてそう思う?」

「それは世界の真理だから。例え、ここで貴様らが我を滅ぼうそうと、いつか世界は滅びる。その時に世界はまた元に戻って世界をやり直す」

「お前が存在しなくても? そしてそこに存在するボクはボクなのだろうか?」

「何?」


 ボクはクロノスの言葉である考えを持つようになる。


 此度のボクは、キモデブガマガエルと呼ばれたリュークの記憶を持ったまま、異世界から転生してきた人間だった。


 それもここが大人向け恋愛戦略シミュレーションゲームと知っていた。

 どんなイベントが起きて、どれだけリュークがキモい存在に成長するのか知っていた。


 だが、それを回避するために、美容を頑張って顔を綺麗にして、魔法を覚えて、死なないために体を鍛えた。

 

 そして、クロノスや魔王に対抗するために、バルを生み出して、ダンを育ててきた。


 多くのヒロインたちを触れ合い、その場で生きている人たちと交流を持った。


「今回は転生者として生を授かった。だけど、次のボクは元のリュークなのか? それとも、また今のボクと同じなのか?」

「何を言っているの? 今回はイレギュラー、貴様は過去には戻さない」

「戻さないか、だけどここで消滅したクロノスに何ができる? 世界が滅びた時に戻ると言ったな。それは本当にそうか? この世界はお前がいなくても元に戻るのか? 塔のダンジョンが暴走することも、津波も大爆発も起きない。他にも未曾有の危機が訪れたとしても、ボクらはどんな困難も乗り越えてみせる」


 ボクが生きている限りは、どんな困難だって、みんなと共に乗り越える。

 

 だけど、ボクが死んで何年も経って、世界が滅びた時に、ボクが生まれた時に戻るのだろうか?


「それは何か矛盾していないか? ボクとしての人生を全うして死んだことになる。一度の人生を全うして満足しているんだ。世界が滅んでしまったとしても、自分が自分ではない人生を知らないまま過ぎていったとしてもどうでもいい。なぁ、クロノスお前はずっと記憶があるのか? お前を消滅させた奴がいて、お前の記憶が飛んだことはないのか?」


 オウキが、クマがクロノスに挑みかかりながら、ボクはクロノスに問いかける。

 クロノスはボクから質問を受けると度に、体を硬直させて、動きを止めた。


「貴様は! 貴様は何が言いたいのだ! 我が作り物だとでもいいのうのか?! 我こそが世界を創りし者であり、世界の管理者! 我が消滅したとしても世界は我が始めた場所に戻っていくだけに過ぎない」


 なるほど、つまりはセーブポイントに戻ってやり直すと言うことか? さて、それはどこなんだろうな。


「なら、お前を消滅させれば、セーブポイントがわからなくなるわけだ」

「セーブポイント? 何を言っておるのだ?」

「多分だけど、ボクがこの世界に呼び出されたのは、もうこの世界を終わらせるためなんだと思っている」

「終わらせる?」

「そうだ。クロノス、お前は役目を終えるんだ。ボクはこの世界の人間ではない。だから、お前にとってのイレギュラーであり、世界を終わらせられる存在なんだろうな」


 ボクの言葉にクロノスが完全に動きを停止させて、オウキの蹴りを受け止めた。


「ぐっ」

「なぁ、クロノス。お前に問い掛けたい。お前は繰り返される時を続けたいのか? それとも終わりを迎えたいのかどっちだ? 魔王カイロスは消滅した。そして、お前が時を戻さなければ生き返ることもない。それは魔王カイロスが望んだ答えでもある」


 魔王は苦悩していた。


《憤怒》の呪いによって戦うことを宿命づけられた存在。


 だが、それに疲れた奴は終わりを迎えたいと思っていた。


「だが、お前はどうだ? お前自身は消滅を望むことはないのか?」

「戯言をベラベラと!!!」


 鎌を振り上げたクロノスが、時を超える斬撃を飛ばしてくる。

 魔力を封じられた空間では、肉体の力と能力だけが勝敗を分ける。


 今のは時を超えるように見えるが、スキルとして発動されたものだ。


「バルニャン!」

「マスター!」


 ボクはバルニャンにクッションへ変化してもらう。

 魔力の塊であったバルニャンは、肉体を手に入れて、変化することでクッションになれる。


 そして、ボクはバルニャンに乗っていつも通りの姿勢を保った。


「なっ! ふざけているのか?! どうして寝転んでいる!」

「なんだ。知らなかったのか? ボクは《怠惰》なんだ。どんな時でも、それは変わらない。お前がいくらラスボスであっても、ボクはボクの信念を曲げるつもりはい。

として、貴様と対峙する。ボクは勇者じゃないから、卑怯な手も使うし、疲れたら休むよ。オウキ、クマ。あとは頼むね」


 ボクは疲れたので、バルの上で眠ることにした。


  


 

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