第494話 魔王の最後

 ボクはダンに魔王との戦いを任せて、魔王の間に入ることはなく、魔王城の奥へと進むことにした。


「オウキ、魔力の濃度が強い場所はわかるかい?」

「ヒヒーン」

「ありがとう」


 ボクはオウキに乗って、魔王がいる場所から離れていく。

 魔王の間がある更に魔王城の最奥から先にある地下へと降りていく。


 最も地下深くに辿り着いたところで、オウキがボクを降ろしてくれる。


「ここがそうなんだね」

「ブルル」


 扉を開くと大きな、美しく煌めく黒曜石が部屋全体を埋め尽くしていた。


 地震のような振動が魔王城全体を揺らす中で、ボクの前に一つの言葉が浮かび上がる。


《侵略を開始しますか?》


《魔王の住処を支配するダンジョンマスターが目の前にいます》


 久しぶりに現れた表示に、ボクは目を閉じる。


 魔王は、この魔王城を守る守護者でしかない。

 

 天王もそうだった。


 ダンジョンコアである女神アフロディーテを破壊することで消滅した。


「バルニャン!」


 ボクは時空へと閉じ込めていた。

 バルニャンと、クロノスを呼び寄せる。


「ここは!」

「やぁ、時を司る最後のダンジョンマスタークロノス」

「……あなたは?」

「マスター、辿り着いたのですね!」

「バルニャンもよく、クロノスを抑えてくれた」

「いえ、申し訳ありません。私が倒すことができていれば、マスターの手を煩わせる必要はなかったのに」

 

 バルニャンが申し訳なさそうに謝るから、ボクはバルニャンを抱きしめた。


「いいや。あの最強の存在であるクロノスを抑えることができるのは君だけだった。時を司る神とも呼ぶべき存在だ」

「いい加減にしてもらえますか? 私はイライラしているのです! ずっと強引に異空間へ閉じ込められて、ダンジョン戦をさせられたのですからね」


 イライラした口調で、クロノスがこちらへ怒鳴った。


「無機質な存在かと思えば、随分と魔王に似て存在なんだな。クロノス、お前の方が《憤怒》なんじゃないか?」

「これ以上……」

「本当に短気なことだ。何、簡単な話だ。ラスボスは魔王じゃない。君だクロノス」

「……」

「魔王は君が作り出した守護者でしかない。あの、禍々しい魔王を倒したことで誰もが安心する。だが、その後に訪れる破壊と再生は君が生み出している。塔のダンジョンが神の試練として世界を滅ぼす。それを乗り越えても、深海ダンジョンが津波を発生させ、機械神が大陸を滅ぼす爆発を起こす」


 ボクは大人向け恋愛シミュレーションゲームで見てきた全てを語り。

 それでも攻略できないこのゲームの性格の悪さを知っている。


「どうしてそこまでのことをあなたが知っているのですか? それを知っているのは、私と魔王と言われているカイロスだけです」

「それを説明する必要はないだろ。魔王は俺の仲間が倒す。塔のダンジョンはアグリ・ゴルゴン・ゴードンの死によってダンジョンを閉鎖した。深海ダンジョンはボクの支配下においた。本来、深海ダンジョンと同時に活動するはずの遺跡ダンジョンは、プラウド父さんとテスタ兄さんのおかげで機能を停止した」


 ボクは自分が《怠惰》で平和な世界を手に入れるために、随分と忙しい時間を過ごしてきた。

 それも全て、全員が強くならなければ、成し得なかったことだ。


 特に主人公であるダンの強さは絶対に必要だった。


「お前がイレギュラーなのですね。ですが、私は全てを元に戻すことができるのです。なんの意味もありません」

「いいや、それは無理だ。そのためにボクはバルニャンを作り出して、命を与えた」

「どういう意味です?」

「バルニャン」

「はい! マスター!」


 ボクは侵略を開始するボタンを押した。


「ここは?」

「魔王の住処に挑むに当たってボクが作り出した空間だ。この空間は、先ほど君とバルニャンが戦っていた場所と同じでね」

「小細工を」

「どうやらわかってくれたようだね。この空間で時を操ることはできない。いや、魔法使うことはできない。魔力が一切存在しない空間で、君を殺す。そして、魔王の住処にあるダンジョンコアを破壊する」

「出来るとでも? 魔力とは、弱小なあなた方に神が与えた慈悲です。それを捨てるとはバカなのですか?」


 クロノスが嘲り笑う。


「なら、どうしてお前はバルニャンを倒せていないんだ?」

「くっ」

「そういうことだ。ボクは幼い頃から、ずっとこの時のことを想定して、動いてきた。体に染み込んだ戦い方は、魔力を一切必要としないものだ。オウキ、バルニャンそして、クマ」


 ボクは自分からクマが出てくる。

 

 《怠惰》の化身であり、キモデブガマガエルの魂を喰らったボクの分身。


「悪いなクロノス。ボクは一人でお前に勝てるとは思っていない。だから、チームで挑ませてもらう。お前をここで倒せば全てが終わるんだ」

「いいでしょう。出来るものならやってみなさい。私に挑める者がいたのは、どの世界線でも初めてです。楽しませていただきますよ」


 空間の外で、ダンが魔王と相打つほどのエネルギーを放出する。


「魔王が死んだようですね。こちらも終わらせましょう」

「ああ、そうだな」


 ボクはクロノスと対決するために拳を握る。


 時を戻すなんて絶対にさせない。


 この戦いが終わったら、死ぬまでダラダラして生きていくんだから。

 

  

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