第493話 勇者VS魔王 後半
《side《憤怒》の魔王カイロス》
何が起きている?
明らかにやってきた勇者はこれまでの、どんな者たちよりも平凡でたいした強さを感じなかった。
それなのに倒しても倒しても向かってくる。
傷を負えば、仲間が助け。
また向かってくる。
戦いをしているのは、たった一人の勇者だけだ。
これまでの勇者パーティーは、勇者を中心に助け合いながら向かってきた。
だが、このパーティーは何かがおかしい。
勇者を除いた四人が全員サポートに回っている。
そうかと思えば、魔導銃を持っている狙撃手が勇者を撃ってダメージを与えるのだ。意味がわからない。
「ほら、ダン。傷はナターシャが治しましたよ。私が幻覚をかけてあげますね。魔王があなた好みの美女に見せますよ」
意味がわからない! どうして仲間に幻覚魔法をかけるのだ! 勇者のくせに幻覚魔法にすんなりとかかっているだと!!! ありえないだろ?! 勇者なら異常攻撃に耐性が強いはずだ!
「えっ? バフ魔法ではなくデバフ魔法を使うのですか? シビレや毒で苦しむタイプ? そっ、そんなことしても良いのですか?」
聖女まで戸惑っているではないか。
他の三人が何やから仕掛けている。
勇者にダメージを蓄積させているようにしか感じない。
どうなっている? 時間が経つごとに勇者はきた時よりもどんどんボロボロになっていく。
ボロボロになっていくのに、強さだけは異常に増している。
「くっ!」
最初に受けた一撃など嘘だったと言われた方が信じられるほどに、一撃が重い。
我の魔剣が軋んで、聖剣は大丈夫なのか?
「どうした魔王? ボロボロじゃねぇか」
お前よりは全くボロボロではないわ!
なんなのだこいつは、信じられない。
あの最強と呼ばれたアグリ・ゴルゴン・ゴードンですら神魔人化しても我には届かなかった。
それなのに、此奴の剣は我に届くだと!
「ぐっ!」
「入った!」
「舐めるなよ! 人の勇者如きが!」
切り裂かれた右腕が宙を舞う。
だが、こんなことたいしたことではない。
異常なのだ。
この状況や環境が。
まだ、倒した上で蘇って再起動するように戦いを行うならまだ理解できる。
そのような復活形式の勇者は存在していた。
しかし、こやつは倒しても倒しても何度も挑んできて鬱陶しいと感じるのは同じだ。だが、こやつはそんな者たちとは明らかに違う。
泥臭く、仲間からの攻撃を受けて力を強めるとはどんな人種だ?
「うざったいわ! 《憤怒》よ。この怒りを力にせよ!」
この戸惑いを怒りに変えて、我は真なる姿を取り戻す。
「なっ! 魔王の姿が変わっただと!」
「これが我の完全体だ。《憤怒》魔王カイロスの真の姿である」
まさかこの姿を晒すことになるとは思いもしなかった。
このような凡庸な勇者に我が……。
意識など全て《憤怒》に捧げる。
♢
《sideダン・D・マゾフィスト》
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」
「おいおい、マジかよ」
「くっ! ダンの幻覚が解けてしまいました」
「タシテ様、大丈夫っすよ。ナターシャ、ダンを癒して欲しいっす。ティア様、全ての強化魔法を私とダンにかけて欲しいっす」
ハヤセの声が聞こえる。
「ダン! 最後の戦いはやっぱり二人でやるっす」
「ああ、俺たちは二人で一人だからな」
「そうっすよ」
ハヤセが俺の横に立つ。
リュークが言っていた。
俺の力は大切な人を護る力だって。
「ハヤセ。最高の一撃を頼む。そして、俺の後ろにいてくれ。絶対にお前を護る」
「了解っす。私の全部をダンにあげるっす」
ハヤセの魔力が最高潮に溜まっていくのを感じる。
俺はハヤセを愛している。
絶対に護ってみせるんだ。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」
魔王の口に魔力が、生命力が、全てのエネルギーが集中していくのを感じる。
とんでもないエネルギーが集まっている。
俺は聖剣に想いが集める。
これまで一緒に戦ってきた者たちを、リュークを、ハヤセを、世界を護る。
「いくっすよ!」
ハヤセが俺の股間を撃ち抜いた。
「ハウっ! キタキタキタキタ!!! いくぞ! 聖剣の最大出力だ! 全力斬り!!!」
人生の中で最高の一撃を聖剣に乗せて、俺は魔王に向かって放った。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」
魔王もこちらに向かって攻撃を放った。
俺が放った聖剣の刃とぶつかりあう。
「いけーーーーーーーーーーーー!!!」
「いくっす!!!」
「ダーーーーーーーーーン!!!!!」
「任せたのです〜!」
「倒してください!」
全員の想いが俺の心に集まって剣へと届く。
「魔王!!!!!! お前を倒す!!!!!!」
互いの力が爆発して、俺たちは光の放流に巻き込まれた。
あとは頼んだ。
リューク……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます