第492話 勇者VS魔王 前半

《sideダン・D・マゾフィスト》


 魔王の間に向かっている途中で、リュークが足を止めた。


「リューク、どうしたんだ?」

「ダン。ここから先はお前がリーダーになれ」


 いきなりそんなことを言われて、俺は驚いてしまう。


「何を言ってんだよ! ここまでお前がリーダーだろ! 魔王を倒すその時まで、俺たちのリーダーはお前だ」

「いいや、勇者はお前だ。大罪持ちであるボクが一緒に行くわけにはいかないんだ」

「なんだよそれ!」

「ダン、ボクにはボクのやることがある。任せるぞ」


 リュークの言葉に俺は胸を打たれる。

 あのリュークが俺に任せてくれる?


「……わかった。お前はお前の好きにしてくれ! 魔王は絶対に俺が倒す」

「ああ、任せた。タシテ君、ナターシャ、ハヤセ、ティア。ダンを支えてやってくれ」

「かしこまりました」

「わかりました〜」

「了解っす」

「私もこちら側ですか?」


 ティアだけは納得していないようだったが、リュークのいうことを全員が承知して俺たちは魔王がいるという魔王の間へと入っていく。

 

「よくぞここまでやってきたな。勇者一行よ。まずは貴様らの実力を褒めてやろう」


 魔王の存在感に圧倒される。


「勇者よ。貴様に問う。ここまでよくぞやってきた。褒めてやろう。だが、貴様の力で我を倒すことはできない。どうだ? 世界の半分をお前にくれてやる。天王は死んだのだ。その領地をお前の物とするがいい。我の下僕となれ」

「魔王の言うことを聞くはずがないだろ?!」

「そうか」


 俺はハッキリと拒否を口にする。

 魔王を倒して平和な世を手に入れられればそれでいい。

 世界の半分など必要ない。


 ハヤセと生きていくための家と環境だけがあればいい。


「そこの聖女、貴殿はどうだ?」

「あり得ません! 私は通人族至上主義教会に生まれ、ずっと魔王を倒すため手伝いをするために生きてきたのです!」


 ティアも拒否を口にする。


「魔導師の者よ。貴殿はこの場にくるほどの賢者だ。貴殿ならわかるのではないか?」

「申し訳ありません。魔王様、私はあなたと過ごす日々よりも面白いことができる人を知っていますので、魔物を生み出すだけのあなたは必要ではありません」


 タシテはリュークのことを言っているのだろう。


「我よりも面白いことができる者?」

「そんなことどうでもいいだろ?! 俺たちはお前を倒すためにここにきた。俺は勇者ダン。お前を殺す者だ」

「そうであるな。ならば、始めよう。通人族の勇者よ。我を倒してみよ」


 魔王がゆったりとした動きで立ち上がる。


 手には漆黒の魔剣を持って真っ赤な魔力が吹き出す。


 まるでリュークを相手にしているような威圧感を感じる。


 あの日、入学式でリュークに対峙した時から、何度もリュークと対峙することを想定してきた。

 あの時に感じた絶対的な敗北感を今でも忘れたことはない。


「《勇者》ダン・D・マゾフィスト。参る」

「《憤怒》の魔王ガイロスである」

 

 青白い光を放つ聖剣と、赤い魔力に真っ黒な刀身を持つ魔剣がぶつかり合う。


 リュークの時のような圧倒的な敗北感はない。


 打ち合えている。


「くくく、一撃目を受け止められて嬉しいか?」

「何?」

「勇者よ。我が何年も魔王をしていると思う?」

「何が言いたいんだ?」

「我は幾万、幾億の者たちと刃を交えてきた。そんな我が貴様の強さを測ってやろう」


 吹き出す魔力は圧倒的な威圧を放ち、熱風のような熱さを感じる。


「ふむ。レベルはすでに限界突破を超えている。どうやら聖剣を二つ合わせて完成させた際に超えたようだな。剣術は並。レベルは高。能力の総合評価A。ふむ、貴様の強さは今までの強者たちに比べれば平凡だ。その程度でよくここまで登ってこれたものだな」


 好き勝手に言ってくれるものだ。


「貴様では我を倒すことはできないだろうな」

「ハァー」

「むっ? なんだ?」

「お前は何もわかっていないな。俺が凡人なんてことは随分前に教えられてんだよ。俺は本物の天才を知っている。しかも天才のくせに常に努力をして、新しいことに挑戦して、尊敬しかできない奴だ。そいつに追いつくために俺は死ぬ気で自分を高めてきた。それでも足りないんだ。なぁ、魔王あんたは天才か? その幾万、幾億の人間を相手にしてきている間に努力はしたのか? ずっと待っていたんじゃないのか?」


 俺が凡人なんてことは、リュークに何度も教えられてきたんだ。


 それでも俺はリューク以外には、心から敗北したって思ったことはない。


「お前がいくら俺を吹き飛ばそうと、俺は負けない」

「ふん、口ではなんとでも言えるが、どうだ? 勇者よ」


 なんでだろうな。


「お前は全く怖くない」

「ほう。ならば、示してみせよ」

「ああ、そのつもりだ。ハヤセ」

「小手調べは終わりっすね。まずは、ダンと私でいくっす。皆さんは見ていてくださいっす」


 ハヤセが魔銃を構えて、俺に何発か放った。


 まだ小手調べだな。肩と足にしか撃ってもらえない。


 出力的には、二十パーセントぐらいか。


「まぁいい。行ってくる」

「ダン。頑張るっす」


 最後に一発、後頭部に放たれた一撃で力を入れる。 


 さぁやろう。


 魔王退治だ。

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