第491話 魔王の間
《side憤怒の魔王カイロス》
玉座で、人を待つのはいつぶりだろうか? 魔王城へ侵入してくる者たちの気配を感じる。
全ての守護者が倒されたことを意味している。
これは何度目だっただろうか? もう忘れてしまった。
それほどまでに何度も体験した事象だ。
世界を何度繰り返し見たことだろう。
世界を何度滅ぼしてきたことだろう。
世界を何度蘇ってきたことだろう。
《憤怒》は怒りを力に変える。
我は魔王だ。
魔王という呪いとして生まれ、魔王として何度も世界を渡ってきた。
この世界は何度も滅んでいる。
そして、我はその全てで魔王であった。
「此度、死んだとしても同じだ。また世界は繰り返されるだけだ」
これまで多くの者たちが世界を救うために我を倒しにきた。
倒しにきた者たちの中には、我を倒すだけの実力を持つ者もいた。
我を倒した者もいた。
勇者が魔王が殺したとしても、世界が滅べば魔王として生活が戻ってくる。
果てない不滅の時を過ごす悠久の時間。
「クロノスも戻っては来ないか、世界中に散らばった大罪魔物たちも消滅した。今までは何かが違うのか?」
世界中を映し出すことができる水晶の中には、通人族と魔物が全世界で戦いを繰り広げている。我が生み出した魔物たちが駆逐されていく。
我と共に生まれた天王が倒れた。
奴が作り出した、天使族は滅び、聖なる武器と呼ばれる我を倒すためだけに作られた武器が残された。
神魔人が封印された塔のダンジョンも攻略された。
塔を攻略しただけでなく、我とぶつけることで、我に神魔人を滅ぼさせるとはな。
機械神も機能を停止した。
大罪同士をぶつけ合って消滅させると通人族も考えたものだ。
三魔将も、大罪魔物も滅びた。
「ふむ。これまでとは随分と違っているな。本来は我が倒れた後に機能するはずの全ての世界を滅ぼす事象が機能を失ったか」
魔王として、我が死んだとしてもその後にどこかのダンジョンが暴走して世界を滅ぼしてしまう。人々は、それを繰り返していることにも気づかない。
我だけが永遠に時を巻き戻り繰り返される。
様々な時代を生きた。
最初は無自覚に勇者と対峙する日々だった。
世界中に感じる《憤怒》によって世界を蹂躙して滅ぼすことばかり考えていた。
だが、いつしか繰り返す日々に気づくようになった。
そして、いつしか勇者が強くなり、我を倒すほどになった。
我を倒しても世界を滅ぼす試練を突破できないので、また世界はやり直す。
そして、いつしか世界を滅ぼす機能を突破できても、クロノスが全てを元に戻してしまうようになった。
結局、何千、何万の時を超えて、全てを失敗に終わらせてきたのだ。
その間に、また通人族たちは我を倒せるだけの勇者がいなくなった。
我自身も強くなったのもあるが、通人族たちが我がいることに慣れて、何代時を重ねても強くならなくなったのだ。
少し前に現れた世代は惜しかった。
機械神を使って、我を封印しようとしたプラウド・ヒュガロ・デスクストス。
己の大罪魔法を制御しきれないで、暴走してしまわなければ、我を封印して永遠の平和を手に入れられたかもしれない。
同じようにダンジョン戦を挑んできた。
アグリ・ゴルゴン・ゴードンは、ダンション戦を挑む時点で負けている。
今まで我を倒した勇者は全て、ダンジョンとは関係ない外での戦闘であった。
ダンジョンの中で戦ってしまえば、我に負ける様子が全くなくなってしまう。
この永遠に続く戦いが終わることを何度も願った。
だが、結局世界は同じように繰り返すのだ。
我が全てを滅ぼして、世界から誰もいない状態にしてしまおうか?
此度の者たちが我に勝てないようなら、それも一興と判断する。
「魔王!」
此度の勇者たちが魔王の間に侵入してきた。
男女五人に神獣を連れているなど珍しい。
「よくぞここまでやってきたな。勇者一行よ。まずは貴様らの実力を褒めてやろう」
これは長年、何度もこの部屋に訪れる際に我が放つお決まりのセリフだ。
聖剣を持った勇者。
聖女の力を宿した女。
魔法使いの男。
遠距離攻撃を得意とする女。
癒してとなる女。
不意に、我は大罪魔法の小僧が足りないと感じたが、仲違いでもしたのであろう。
「勇者よ。貴様に問う。ここまでよくぞやってきた。褒めてやろう。だが、貴様の力で我を倒すことはできない。どうだ? 世界の半分をお前にくれてやる。天王は死んだのだ。その領地をお前の物とするがいい。我の下僕となれ」
どっちでもいい。
今までこの質問を何千回としてきた。
応じた者もいたが、結局飲み込まれて死んだ。
「魔王の言うことを聞くはずがないだろ?!」
「そうか」
此度の勇者は拒否するタイプであったか、それもまた一興。
我を倒すだけの実力があるだろうか? それならば面白いが。
「そこの聖女、貴殿はどうだ?」
「あり得ません! 私は通人族至上主義教会に生まれ、ずっと魔王を倒すため手伝いをするために生きてきたのです!」
聖女とはいつもそうだ。
つまらない生き方しかできぬ。
「魔導師の者よ。貴殿はこの場にくるほどの賢者だ。貴殿ならわかるのではないか?」
「申し訳ありません。魔王様、私はあなたと過ごす日々よりも面白いことができる人を知っていますので、魔物を生み出すだけのあなたは必要ではありません」
魔物を生み出すだけか、間違ってはいない。
「我よりも面白いことができる者?」
「そんなことどうでもいいだろ?! 俺たちはお前を倒すためにここにきた。俺は勇者ダン。お前を殺す者だ」
「そうであるな。ならば、始めよう。通人族の勇者よ。我を倒してみよ」
お前たちが最後の通人族だ。
全てが終わった後は、世界が消滅しないように、世界を滅ぼそう。
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