第490話 それぞれの戦い 終

 ダンとタシテ君と別れて、聖女ティアと共に三つ目の塔へ向かって歩みを進めていた。


「お仲間のことを信頼されているのですね」

「信頼か〜、う〜んどうなんだろう。多分、そうかな?」

「多分?」

「タシテ君って、戦闘は得意じゃないんだよね。後方で情報を集めたらり、裏工作したり、そういう裏方向きな技能と性格だから、あんまり戦いをさせたくないんだ。だけど、ダンと張り合うっていうか、あの二人はあの二人で認め合っているんだよ」


 ボクはタシテ君のことを、心から親友だと思っている。


 まぁ、ダンのこともそうかもしれないが、彼らの得意分野は全然違うところに存在する。


「勇者ダン様は戦闘が得意ですよね?」

「ああ、そうだね。逆にダンは裏方としての能力は皆無かな。諜報活動はできない。戦略を練っても上手く実行できない」

「そうなのですか?」

「うん。だけど、現在の地上で魔王と対等に戦えるのはダンだけじゃないかな? 通人族最強ではあると思うよ」

「それはリューク様と戦ってもですか?」


 ダンと戦闘を行って負ける気はしない。

 だけど、命のやり取りをして、完全にダンを殺せるのか? そしてハヤセをボクが殺そうとすればダンは何があっても立ち上がるだろう。


「勝てるだろうね」

「えっ?」

「意外かい?」

「いえ、そんなにもハッキリ言われたことが驚きだっただけです。てっきり、勇者ダンに花を持たせるような言い方をされるかと」

「はは、絶対にそんなことはしないよ。ダンだからね」


 ある意味で、ボクは二人に心を許していると言ってもいい。

 タシテ君は友人として、ダンはどんなことがあっても負けない主人公として、信頼を置いているのかもしれない。


「それだけ信頼されているということなのですね。少しだけ妬けてしまいます」

「それだけ長い時間を過ごしてきたからじゃないかな?」


 ダンとは入学式のチュートリアル戦から。

 タシテ君とは一年次の学園剣帝杯から。


 もう長い時間を過ごしてきた。


「ふふ、素敵ですね」

「そうかな? ほら、塔に着いたよ」

「はい。こんなにも緊張しないで戦いに挑めるなんて、思いもしませんでした」

「緊張か〜あまりしたことないね」

「そうですね。緊張しているところを見たことがありません」

 

 ティアに笑われながら、ボクたちは塔を開いた。


「フンス!」


 扉を開けると無数のマッチョたちが裸でポーズを決めていた。


 咄嗟に扉を閉めてしまう。


「どっどうされたんですか?」

「あ〜うん。あまりにも見苦しいから、ちょっと目を背けたくなって」

「見苦しい?」

「のぞいてみる?」

「はい!」


 ティアに扉を開けて中を覗かせるとすぐに扉を閉めた。


「あれはなんなのですか?!」

「うん。多分マッチョ。お姉様のところにいっぱいいたからね。見慣れてはいるんだけど、あまり得いじゃなくてね。大量のムキムキな男はちょっと苦手でね」

「あれを得意な方がおられるのですか?」

「うーん、ダンならあの中に入ってもなんとかしそうだけどね」


 こんな時にバルが居てくれたら全て倒してくれるんだけど仕方ない。


「魔法を使ってみるよ」

「はい!」


 オートスリープを使ってムキムキマッチョたちを眠らせてみる。


「フン!」


 寝てはいる? 寝てはいるがポーズを決めている姿がキモい。


「ティアは攻撃魔法ってある?」

「一応、聖なる魔法は攻撃にも使えます!」

「よし、やってみよう」

「はい! ホーリー!!!」


 ティアの放った聖なる光で、マッチョたちが眠りながらもがき苦しんでいく。

 やっぱり見た目は人に見えるが、中身は魔物ということだろう。


「フンスフンスフンスフンス!!!」


 裸マッチョたちが苦しんでいる姿を扉を閉めて待っていると中から呻き声が聞こえてきた。正直何一つ見たくなもないし、聞きたくもない。


「終わりました!」

「ありがとう。どうやら塔には、ボクらが苦手としていることや関連することが登場するみたいだね。ボクはお姉様のことが一番苦手だって思っていたから、マッチョが大量に出てきたんだと思う」

「確かに、私もたくさんの男性に囲まれるのは苦手ですね」


 扉から一歩も動くことなく二人の魔法で全ての魔物を倒したところで、塔の中は一掃された。

 どうやら倒すとマッチョたちはいなくなるようだ。


 塔の中に入って封印を解除する。


 他のところがどうなっているのか気にはなるが、ボクとしては問題なく塔を攻略できてよかった。


「さぁ戻ろうか」

「はい! 皆さんは大丈夫でしょうか?」


 ボクらが魔王の封印された扉の前に辿り着くと、他のメンバーもたどり着いていた。


「やぁ、早かったんだね」

「リュークはいつものんびりだな。歩いている姿が見えたぞ」

「ゆっくりと休憩をさせていただきました」

 

 ダンとタシテ君はしっかりと役目を果たしてくれたようだ。


 魔王城以外でも、きっとこれまでの仲間たちが勝利してくれていることを信じて、先に進むしか今のボクらにはできない。


「さぁ、行こうか」

「おうよ!」

「かしこまりました。リューク様のお望みのままに」


 魔王城の中へと侵入していく。


 

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