第489話 それぞれの戦い 8

《sideダン・D・マゾフィスト》


 リュークたちと別れて、俺とハヤセは二人で魔王城の扉を封印している塔へと向かっていた。


「ハヤセ。俺たちは塔を攻略できると思うか?」

「何を心配しているっすか? ダンは戦うことしか、価値がないっす。負けることを考える意味がないっす」


 それもそうだ。


 ハヤセが言うことはいつも正しい。


「よし。攻略に行こう!」

「了解っす!」


 俺たちは二人で塔の扉を開いた。


 塔の中は上に上がる階段になっているのかと思ったが、空間が広がっていた。


「あら、私のところやってきたのは、どんな犬かと思えば、男女合わせたペア犬なのね。いいわ。私はどっちでも相手にできるから、二人まとめて躾けてあげる」


 そう言って現れたのは真っ黒なボンテージ衣装を身に纏って、右手に馬を叩くための鞭と左手に火炎を生み出すグローブをつけている妖艶な女性だった。


「なっ、なんだお前は?!」

「ふふふ、あら、可愛い犬ね。そんなに怯えていい反応をするから教えてあげるわ。私のことはサディス女王とでも呼ぶがいいわ。駄犬の調教師をしているの」


 鞭をしならせて地面に穴を空ける。

 かなりの威力に唾を飲み込む。

 あれで叩かれたらさぞかし。


「なっ、何をしているんだ!?」


 ボンテージから見える体はグラマラスで美しい。


「ダン! 何を惑わされているっすか?」


 いきなり後頭部に魔弾を撃ち込まれて、自分がおかしくなっていたことに気付かされる。


「すっ、すまない。なぜかあの雰囲気に惑わされてしまっていたようだ」

「ふん、本当に駄犬っすね。あんな作り物の女性モドキに興奮したっすか?」

「あら? あなたはとても酷いことを言うのね。私の体は正真正銘、魔王様から頂いて作られた物よ。別に偽物ではないわ」


 豊満な胸を持ち上げる。


「はっ、その程度の胸を自慢されてもどうでもいいっす」


 俺の背中にハヤセの爆乳が当たって抱きしめられる。


「ダンはいつも私の体を見ているっすよね? なら大丈夫っすね?」

「ああ。すまない。どうやら幻覚か、色欲の呪いでもかけられていたようだ。昔から異常攻撃に弱いからな」

「全く、ダンは戦う以外に脳がないくせに弱点が多すぎっす」


 ハヤセが気付け薬に、魔弾を脳天に打ってくれる。


「くぅ〜これが最高に効くぜ」

「ふふふ、随分とイチャイチャしている姿を見せてくれるじゃない。いいわ。あなたたち。本当に良い」 

「誰の犬に向かって躾けるって言ってるっすか? お前如きではダンを調教することはできないっす」


 ハヤセがハッキリと告げる。

 ボンデージ美女が怒りを表して鞭をしならせる。


「はっ? 舐めてるのかい? 小娘!?」

「この駄犬は私のものっす! あなたには躾けられないっす!」

「へぇー、すでに躾けられた犬ってことね。いいわ。私のペットとあなたの駄犬。どっちが上なのか決めようじゃないの!」


 ムキムキな筋肉ダルマが三人現れる。


「ふふふ、私の可愛いワンちゃんたち! あの子たちを始末しておしまいなさい」

「キタキタキタ! こういうのが一番分かりやすくて助かるぜ!」


 俺は聖剣を抜き放って、ムキムキ筋肉ダルマたちを切り刻む。


「どうだ!」

「あら? その程度なの?」


 俺が切り伏せたムキムキ筋肉ダルマたちは、切られたところを再生しながら、筋肉の膨張率上げていく。


「中途半端な攻撃じゃ。この子達の筋肉防御を突破できると思わないで頂戴!」

「くっ!」

「何を動揺しているっすか。あんなのただの筋肉っす。ダンは私を思えば思うほどに力を強くなるっす。それとも筋肉ダルマを倒せないっすか。私への思いはその程度っすか?!」

「いいや。不安にさせたならすまない。そうだな。俺の力はハヤセを愛せば、愛するほどに強くなる」

「そうっす。だから、もっと愛情を注入してやるっす」


 ハヤセが履いていた靴を脱いで、生足で俺の股間を蹴り上げる。


「ぐっ!」

「駄犬はこれが一番好きっすね」

「くくく、ハヤセ。最高の一撃を放ってくるぞ」

「さっさといけっす」

「おう!」


 全身から光が放出するほどの力が漲ってくる。

 ハヤセから最高の愛を受け取ってしまったからな。


「なっ! なんのあなたたち。人前で恥ずかしくないんですの?」

「魔物が何を言ってやがる。ああ、俺は何を誤解していたんだろうな。俺にはハヤセがいる。お前は結局魔物なのに、変なことを考えた。もうどうでもいい」


 今まで感じたことがないほどの光が聖剣に集まっていく。


 この戦いが終わったら、絶対にハヤセにいっぱい愛してもらうんだ。


「ひっ!」

「全部切り裂いてやるよ!」


 膨大な光は全てを切り裂く刃として、サディスと手下のムキムキマッチョな魔物たちを消滅させる。


「よくやったっす」


 清々しいほどに最高の一撃を放った俺に、ハヤセが高出力の魔弾を後頭部に放ってご褒美をくれる。


「ふぅ、頭から血が出て、昇っていたのがスッキリしたぜ」

「本当に変態で、駄犬っす」

「わん!」


 どうしてなのか、ハヤセに腹をむけて吠えたくなってくるぜ。


 ハヤセ、踏んでくれないかな? 蹴るでもいいから。


 そしたら、もう一発打てると思うんだけどな。


「ほら、塔を攻略したっす。封印を時にいくっすよ」


 魔王までお預けだな。 


 魔王の時にはもっと大きな一撃を放ってやる。

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