第366話 帝国陣営 1

《sideカウサル・バロックク・マグガルド・イシュタロス》


 帝国が小国家郡を統一したとき祝辞が届いた。


 古い名が刻まれている祝辞を見て、我は部屋の中で一人きりだったこともあり、何年ぶりになるのかわからぬ笑みを浮かべた。


 決心はできた。


 あとは最後の歩みを始めるのみ。


「帝王様」

「シドか」

「はっ、全軍、準備が全て整いました。イレギュラーはありましたが、全て予定通りです」

「うむ、行こう」

「はっ!」


 我はシドに導かれて……。


 宮殿の中を歩く音が響く。


 最初は一人だった。


 そして、シドと二人になり、今では大勢の仲間たちが我の家族となった。


 そして、新たな者たちが、また……。


「シド。お前は最後まで我の配下をしてくれるのか?」

「もちろんです。あの時に約束した通り、最後までお付き合いいたします」


 我は古き友の顔を一瞥した。

 シドがいなければ、小国家郡の制圧はもっと長引いていたことだろう。


 四十年……。


 ここまでたどり着くのに、それだけの月日を費やした。


「ならば良い」

「はっ、全ては帝王陛下様の望むがままに」

「うむ」


 宮殿の廊下が途切れ、外へと通ずるバルコニーへ歩み出る。

 シドを除く四人のイシュタロスナイツに、新たに加わった五人目の将軍に出迎えられる。


 そして……。


 バルコニーの向こう側。


 そこには壮観な光景が広がっていた。


 帝国兵、総勢100万名が列を成して並んでいる。


 老若男女など関係ない。


 今まで、我に楯突いてきた数々の国々を治めていた者たちは全て殺した。

 さらに後を継ぐべき者たちも根絶やしにした。


 この場にいる者たちは、先の小国郡統一に際して、滅びた国々に属していた者たちだ。


 そして、我とはまだ家族ではない者たち。


「帝王様、拡声者が魔法を使いました」

「うむ……」


 我は、集まりし100万名の兵士たちを見下ろして、ゆっくりと話し始める。

 それは今後を決める最終決戦へ向けた演説になる。


「皆の者たちよ! よくぞ集まってくれた」


 拡声された我が声がゆっくりと響く。


「貴殿らと我々イシュタロス帝国は長きに渡り、国土をかけた戦いを行ってきた。そして、我々イシュタロス帝国は、小国家郡の制圧を成し遂げた。我々は勝利者だ。しかし、それでも世界は平和にはならぬ」


 ずっと、我の心には家族を失った悲しみと、王国での出会い、そして魔王の脅威を知ったあの時から変わっていない。


「敗北した貴様らを属国として、友好を結びあった。しかし、貴様らと我々では未だに深い絆を結べてはいない。そこで我からの要求として、一つの願いを叶えてほしい」


 これは帝国へ与するための儀式である。


「王国、皇国、教国と戦争を行う。これまで長き渡り帝国を統一する戦いは終わりを迎えた。だからこそ、次なる戦いを行う手伝いをしてほしい。貴殿らには、帝国に与したことを示すために、先兵隊として三カ国を蹂躙してはくれまいか?」


 我の発言に、息を飲む声がいくつも聞こえてくる。

 発狂する者、我へ向けて攻撃を企てる者もいるようだ。


 しかし、全ては無駄。


 発狂する者、反旗を覆す者はその場で殺される。


「我は容赦をせぬ。だが、従う者には褒美として、貴殿らの種族は滅ぼさないことを誓おう」


 あまりにも幼く戦えない者。

 妙齢の女性たちは、帝国の家族として迎え入れよう。


 代わりに老人であろうと、男であろうと、老けた女性であろうと、少年であろうと、戦えるなら戦ってもらう。


「帝国のために戦争をしてくれ。食事も、武器も、報酬も最低限しか渡さぬ。戦争には金がかかる。だが、貴殿らには金をかけぬ。貴殿らはまだ私の信用を得ていない。だから施しを差し出してやる義理はない。欲しければ相手から奪え。


 不満であれば逃げればいい。

 不満であれば戦わなければいい。

 不満であれば何もしなくて良い。


 だが、そんな者がいる種族は、必ず我々イシュタロス帝国の力を使って全て根絶やしにしてやる。

 通人族であろうと、亜人族であろうと、精霊族であろうと、魔人族であろうと、我は分け隔てするつもりはない。


 皆平等に愛して、皆平等に殺そう。


 だが、この戦いが終わって生き残った種族は帝国の民として認めよう。そして、貴様らが手に入れた土地は貴様らの国として再興することを認めよう。もちろん、帝国の属国ではあるが、貴様らの国に間違いはない」


 我が言葉を止めれば、先ほどまでのどよめきは鳴りをひそめ困惑と戸惑い。

 そして、自分たちの未来を想像して希望に満ちた瞳で見上げてくる。


「帝国の民となり、家族となろうぞ。自らの種族のため、どうか命をかけて戦ってほしい。貴殿らには先んじて土地を得る権利を与えるモノとする!」


 我が手を翳すと、《勇者》の属性魔法が発動して、カリスマが発動する。


 100万人の兵士たちから羨望を集め、我の力や、兵士の力が上乗せされていく。


「帝国兵よ!!! 出陣せよ!!!」

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」

 

 100万の兵たちが、自分の国を取り戻すため、歩みを始める。


 我が演説を終えて振り返れば、イシュタロスナイスたちが膝をついて頭を下げていた。


 シドだけが宮殿の中で頭を下げている。


 標的は三カ国ではない。


 魔王、貴様の首をとりにいくぞ。

 

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