第十章 帝国編

第364話 開戦

 アグリお姉様に捕まって、体力と魔力を回復させるために随分時間がかかってしまった。

 聞きたくもないのに、昔話を聞かされて、うんざりしていたが、まぁ暇つぶしにはなった。


 やっと全回復したボクは今までとは違う不思議な感覚を覚えていた。


「怠惰を、大罪魔法をあなたのような方法で克服した子は初めてじゃないかしら」


 九十九階層の扉が開いて、麒麟のオウキがボクを出迎えてくれる。


 ずっと待っていてくれたのだろうか? 必死に顔を擦りつけてくるので、優しく撫でてやる。


「ただいま」


気位の高い幻獣が懐いて可愛い。


「克服したのかどうかはわからないけど、クマも、オウキも、バルニャンもボクに取っては可愛い奴らだからね。仲良くしていくよ」

「そう、行ってしまうのね」


 アグリお姉様は、少し寂しそうな声を出す。

 だけど、その姿は微塵も堪えている様子がないから、大丈夫だろう。


「そろそろ子供が生まれるからね」

「あら、それはおめでたいわね。だったら、あなたにプレゼントをあげるわ」

「プレゼント?」

「ええ、転移はあげちゃったから、これは私個人としてよ。まずは情報ね。帝国が王国に宣戦布告をしたみたいよ。カウサルは、ああ見えて真面目な男だから、ずっと魔王のことを気にしていたんでしょうね。私たちの姿が消えて、自分が動かなければいけないとか思っているんでしょうね。こっちのことは任せていればいいのに」


 アグリお姉様は、カウサル帝王の話をするときはどこか懐かしむように、楽しそうに話をする。


「ボクには関係ない話だよ。ボクは家族を守って、ダラダラと子供達と昼寝したいって思うだけだから。それにボクがやらなくちゃけいないことはもう終わったからね」


 どうしょうもないシステムを止めることはできた。


「そうかしら? 確かにあなたは塔のダンジョンを攻略した。だけど、試験は残ったままよ」

「九十九階層のボスを倒すと数年間は弱体化する。知っているでしょ?」

「本当に。その知識をどこから持って来るのかしらね? その通りよ。あなたたちの代が続く間は大丈夫でしょうね。私たちの時がそうだったから」


 魔王がいなくなった世界を滅ぼすシステムは、ルールに従って破壊してしまえば平和が訪れる。

 

 ボクは家族の平和を守るために、世界の平和を手に入れたわけだ。


「できれば、ノーラちゃんとも子供を作ってあげて頂戴。あの子にも幸せを教えてあげて」

「何を当たり前のことを言っているのかな? ボクが嫁として認めたなら、全ての嫁はボクの手で守って幸せにするに決まってるじゃないか」


 彼女たち、一人一人の顔を思い浮かべる。


「あなたは本当に怠惰なのかしらね? 不思議な魅力がありすぎよ。だから、さっきのプレゼント。私を一度だけ呼び出す権利をあげるわ」

「呼び出す権利?」

「ええ、本当に困った時に私を呼びなさい。あなたの力になることを約束するわ。この《強欲》のゴードン史上最も強いと言われた最強の乙女、アグリ・ゴルゴン・ゴードンをね」


 ムキムキの腕を見せてポーズをとるアグリお姉様。

 その姿は最強に相応しい。


「なら、ノーラが出産する時には、名前をつけにきてやってきてくれ。あんたが親だからな」

「なっ! 本当にあなたは欲がない子なんだから。さぁ行きなさい。もうあなたはどこにでも行けるでしょ? そうそう最後に!」


 最後と言って、アグリお姉様が強引にボクを抱きしめる。


「我が義息子よ。強くなってくれてありがとう。次の世代をお願いね。そして、最後に残った。あのバカのことも」


 そう言ってアグリお姉様は九十九階層の扉を閉めて姿を消した。


 これから五十年間、試練の塔のダンジョンはその役目を機能させないように沈黙する。


「自分が核となって試練のダンジョンを休眠させようとしていたなんて、バカな大人たちばっかりだ」


 ボクは転移を使って塔のダンジョンを出た。


「リュークでありんす!」

「リューク!」


 真っ先に向かったノーラの執務室には、ノーラとシーラスが待っていてくれた。

 二人から状況と、流れた月日について聞いた。

 どうやらアグリお姉様の言葉は正しかったようだ。

 

 カリンの出産が近づいている。


「いつでも、迷宮都市ゴルゴンとカリビアン領のリューは行き来は自由だ」


 ボクはノーラ、シーラス、ルビー、ミリルの四人を連れてリューへ戻った。


 会っていない間にヒナタは、ノーラの仕事を手伝うようになり。

 現在は、副代表まで勤めている。


「ノーラお姉様! どうぞゆっくりとしてきてください」


 そう言ってもらい、ボクは四人を連れてリューへと戻った。

 丁度、カリンの陣痛が始まったばかりで、彼女の元へとかけつける。


 タイミングとは恐ろしいものだ。


 カリンのお世話をしながら、月日を過ごしているとシロップ、リンシャンも陣痛に入る次々と回復術師の手伝いに駆り出される。


 この世界でも出産は母子共に危険な行為であり、回復術師は麻酔科医のような役目を担う。

 痛みを和らげ、体力を回復させ、怪我を治すことで、母子共に安全に出産ができるお手伝いを回復術師が行うのだ。


 リンシャンの時にはミリルが取り上げ、ボクが回復術師をした。

 赤い髪をした可愛い女の子で、リンシャンに似た吊り目だった。名前はリンリンと名付けた。

 

 シロップの子も女の子で白い髪に獣人を表す耳と尻尾が生えていた。ドロップと名付けた。


 二人とも無事にお産を終えて、ボクは回復術師として三人のお世話に走り回ることになる。


 バルニャンはダンジョン鉱物をつかって、量産型バルを発明して、子守を頑張ってくれている。


 そんなボクらに、嬉しい知らせは続くものだ。


「ノーラ、シーラス、ココロが妊娠?」


 順番的には同級生たちかと思ったが、こればかりは相性としかいえない。

 ミリルと、その師が三人の今後を経過観察してくれることで安心できる。


 だが、幸せな時間というのは長く続かないものだ。


「お久しぶりです。リューク様」


 リューに戻って一ヶ月ほど。


 大粒の雨が降り頻るリューの街に、懐かしい顔が訪ねてきた、会うのは一年ぶりくらいになる。


「タシテ君、会いにきてくれたのかい? 久しぶりだな」

「お探ししました。迷宮都市ゴルゴンによって、ヒナタ様に話を聞かなければ、ここに帰ったことを知ることはできませんでした」

「すまないね。連絡が遅れて」

「いえ、小鳥たちもリューク様の所在は追えきれていませんから、こちらの落ち度です」


 久しぶりに会うタシテ君は、くたびれた顔で笑った。


「君が来たということはそういうことなんだね」

「はい。開戦致しました」


 帝国との本格的な開戦を告げに来た。


「それで?」

「状況は芳しくありません。王権派と貴族派は、各々で軍を組み決戦に挑みました。ガッツ指揮官の奮闘虚しく、王権派の陣営から崩され、アクージ領内に帝国を侵入を許しました」


 結局、ユーシュンはテスタ兄さんを口説けなかったのか。


「テスタ兄さんは?」

「テスタ様、バドゥ様がいたおかげで王権派の騎士以外には大きな被害は出ておりません。帝国も深入りして痛手を追うことを避けたようです」

「そうか」


 ボクは妻たちのお世話を終えて、一人ゆっくりとしていた。


「リューク様」


 タシテ君が膝を折り、頭を下げる。


「どうか、ご協力いただけないでしょうか! テスタ様が優秀でも、数の暴力、そして帝国の無茶な策略によって王国は劣勢でございます。今のままでは王国は滅びます。アクージ領から我が領土は隣接しており、敵が拠点に選ぶ場所に我が領土も」


 タシテ君は顔をグシャグシャにして懇願する。


「王権派が指揮する軍に参加されたエリーナ様、アンナ様、クロマ嬢が危険です!」

「そうか……」

「リューク様! どうか!」


 ボクはタシテ君に向かって指を鳴らした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


本日より、本編再開です^_^

どうぞよろしくお願いします!!!


そういえば、人物紹介とか合わせて100万字を超えたそうですw

書籍化は加筆もしているので、100万文字では終わらないだろうなぁ〜w


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