幕間 7 挑戦

《sideカウサル・イシュタロス》


 「リセット」


 黒龍のブレスを受けても、無傷で立っている自分の力に全能感を覚える。


 属性魔法勇者、この力は圧倒的な力を秘めている。


・リセット

・カリスマ

・ブレイブ


 リセット、死ぬほどのダメージを受けたことで、それまで受けていたダメージを全てリセットしてくれる。


 カリスマ、他者に対して能力の付与ができる。さらに、相手から羨望を集めることで自身の能力を跳ね上げることができる。


 ブレイブ、自分よりも強い相手と対峙した際に不退転の決意をすることで、強さを上乗する。


「我は引かぬ。どんな敵であろうと挑んでやろう! 我を崇め讃えるがいい!!!」


 二十階層で手に入れた。


 《勇者の剣》は、我の心を反映してくれる最高の武器だった。


 これまでの我は、国から逃げた負い目を抱えていた。

 敗北者、弱者、逃亡者、そのような言葉が自身の脳裏に刻み込まれて、己が心に自信を持てずにいた。


 それは勝敗を分ける際に、最後の踏み込みができなかった。

 初めてプラウドと勝負をした際に勝敗を分けたのは、我が心にこそ弱さがあったのだ。


 弱き心があったからこそ、我は敗北者になってしまった。


「ウオォオオオオ!!!」

「筋肉ダルマが吠えたわよ!」

「ふん、囮に使うぞ」


 互いに塔のダンジョンから得た武器を構えて、二人が左右から黒龍に向かって走っていく。


 我は正面から魔力を高めて、黒龍へ切り掛かる。


 不退転、どんな敵であろうと正面から対峙して切り伏せる。

 

 その気概があれば、我は誰にも負けぬ。


「ガハハハ!」


 巨大な黒龍が、小さな人間に圧倒されておる。


 なんと愉快で、なんと心地よいことか!


「GYAAA!!!!」


 咆哮をあげる黒龍は、断末魔の悲鳴をあげて消滅した。


「終わってみれば呆気ないものよ」

「あんたはただただ突っ込んでただけでしょ。その戦い方じゃ勝ちきれなくなるわよ」

「ふん《勇者》を攻略できるやつなどおらんよ」

「驕るなよ」


 我らは誰も成しえなかった黒龍討伐を成功させた。

 

 塔のダンジョン五十階層。


 それを走破した時点で、当時は冒険者ギルドでS級の認定を受けられた。


 自他共に認める実力者。


 我々は、迷宮都市ゴルゴンの冒険者ギルドで有名な冒険者になっていた。


「あの、そろそろ三人のパーティー名を決めていただけないでしょうか?」


 冒険者ギルドの受付に言われた言葉に三人は顔を見合わせる。


「ふん、そんなもの決まっておろう! カウサルと愉快な仲間たちだ!」

「あんんたバカなの? センスが無さすぎ! エレガント・ストリームよ」

「お前らは話すな。オレたちはフリーダムだ。今のオレたちにはピッタリだろ?」

「えっと、どれにされるのですか?」


 結局、プラウドのフリーダムが採用されてしまったが、カウサルと愉快な仲間たちの方がよかったのに。


 それからの我らは破竹の勢いで快進撃を続けた。


 連日、記録を更新していく我々を迷宮都市ゴルゴンでは、新進気鋭英雄フリーダムともてはやされた。


 三人で酒を飲んだ後は、それぞれが好きに過ごしていく。

 我は連日女性たちに囲まれ、安らぎのひとときを過ごした。


 その時の我々は自信に満ち溢れていた。

 

 このまま三人ならば、塔のダンジョンを走破できる。


 そんな期待感が、周りだけでなく我の中にも芽生えつつあった。


 レベルがカンストして、いつの間にか我らは塔のダンジョンの九十階層に到達しようとしていた。


「くくく、誰もやり遂げていないことを成す。これほどの達成感があるとはな」

「はいはい。これ以上は強くなれない。ここからは自分たちの修練と経験だけがものをいうのよ。油断しないでいくわよ」


 九十階層の扉を開くと、天から降り注ぐ光が舞い降りて、白い羽を六枚持つ天使が浮かんでいた。


「あれが!」

「そうね。不気味な気配を感じるわね」

「先手はもらうぞ」

「おい!」


 我が制止するよりも先に、プラウドはかけだしていた。


 くっ、遅れをとった。


 あいつはいつもそうだ物怖じしないで、どんどん先へと進んでいく。

 こちらが一歩前進したと思えば、ストイックに強さを求めておいていこうとしてくる。


「塔を攻略せんとする者よ。汝らに覚悟を問おう」


 魔物が言葉を発した!

 異常だが、魔王と対峙した今ならわかる。

 この天使も魔王クラスということだ。


「汝らは、何を欲して塔を登る」

「そんなの決まっているだろ! 塔の攻略だ!」

「ふん、浅はかな。貴様らのような愚者はここで死んでしまうがいい」


 我の答えに天使が攻撃態勢に移行する。


 だが、まだ態勢を整える前の天使をプラウドが強襲した。


「グハッ!」

「なっ! プラウド! それは流石に卑怯だぞ!」

「馬鹿が、目を閉じて構えてもいない相手とどうして攻撃しない?」


 剣で天使の首を切り落としたプラウドだったが、天使はまだ死んでいない。


「なっ! なんの……グハッ!」


 プラウドが首を掴まれて投げ飛ばされる。


「我にここまでの手傷を負わせたこと、誇るがいい」


 形状が真っ白な天使から、真っ黒な悪魔へと移行していく。


「さっさと寝てなさい!」


 アグリが鉄扇で攻撃を仕掛けるが、攻撃が無効化されてしまう。


「なっ!」

「くくく、浅はかな人間よ! 思い知るがいい」


 全身が真っ黒に染まった堕天使の悪魔が勝ちほこったように笑みを作る。


「面白いじゃねぇか!! 魔王に勝つためなら、こんなやつに負けるわけにはいかねぇ!!!」

 

 我は勇者の剣に力を注ぎ、二人を強化した。


 同時に、不退転の決意をしたことで力が跳ね上がる。


「我が倒す!!!」


 悪魔に我は肉薄した。

 

 

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