幕間 6 実力

《sideプラウド・ヒュガロ・デスクストス》


 デスクストス家は、王国ができた初代から公爵家として、繁栄してきた。

 だが、王国の成り立ちよりも以前。

 デスクストス公爵家は、もっとも魔王の血脈を色濃く受け継ぐ一族であることも聞いている。


 だからこそ抗い、剣の道を極めようとした。


 ゴードン侯爵家も似たように血を受け継いでいる。


 逆にアレシダス王家は魔王との血脈がほとんどない一族であり、マーシャル家もアレシダス王家の血脈を色濃く受け継いでいる。


 互いの血筋はいつの頃からか、争い険悪な雰囲気を持つようになった。


 その溝が修復できない所まで来てしまった。


 父が義理の母である王家の娘と離縁したのだ


 父は《色欲》を宿し、色に狂うお方であった。

 数多くの女性と噂を持つ人で、アレシダスの血を嫌っている風でもあった。


 だが、子供ができたのはオレのみ。


 オレの母は優しく聡明な人であった。

 だからこそ、父が求める色に答え、美しく、それでいて控えめに過ごしていた。

 正妻であるアレシダスの妻を押し除けることなく、穏やかにひっそりと過ごしたことで、父に愛された。


 疎ましいアレシダスの妻を離縁してしまうほどに。


 アレシダス家としては、面目は潰され。義母はずっと愛されなかったことに悲しみと怒りを感じていた?


 だが、オレからすればどうでもいい。


 親同士の世代のいざこざなど、子供に受け継がせるなと言いたい。


 だが、義母はとんでもない行動に出た。


 最後だからと父を寝屋に誘った。


 父は義母を哀れに思い寝屋を共にすることにしたが、それが罠であった。


 義母は父を道連れに心中を図った。


 それも用意周到に部屋の香に毒を混ぜていたのだ。

 やはりデスクストス家の血は呪われている。


 私はアレシダス王立学園を卒業する前に、当主となって公爵家を受け継いだ。


 離縁された義母の行いは、アレシダス側に責任があるということで、デスクストス家に咎めはなし。

 だが、同時に貴族派と王権派の対立は明確なものとなってしまった。


 また、父を失った悲しみは、オレの母にまで及んだ。


 ずっと大人しく父の言うことを聞いて、一番の寵愛を受けていた母は、病によって他界した。


 両親を失ったオレを支えたのはゴードン侯爵であった。


 ゴードン家から妻を娶ることで、後見人としてオレの支えとなり、貴族派の支柱が揺るがぬようにしてくれた。


 また、父が手掛けていたネズール家との密約を知り、オレはすぐさまネズール家に支援を送った。

 そのおかげででゴードンに続いて、ネズール家、アクージ家、ブフ家が、次々と忠誠を誓ってくれた。


 このままでは、この国は破滅に向かう。


 魔王の脅威にアレシダス王家では対抗できない。


「おい、いよいよ五十階層だ。誰も攻略したことがない部屋なんだぞ。呆けていて大丈夫か?」


 五十階層の扉を前にして三人でコーヒーを飲んでいた。


 アグリが入れてくれるコーヒーは美味い。


 香りが程よく気分を落ち着けてくれる。


「問題ない。お前こそ、ここまで登ってくる間に浮かれているんじゃないのか?」

「それはそうであろう。《勇者》は今まで我が欲しいと思っていた力を全て授けてくれるのだ」

「あらら、カウサルは単純ねぇ。確かにここまでカウサルが一人で倒してきたから、レベルも独り占めじゃない」

「ガハハハ、すまんなぁ、敵が弱過ぎて簡単に倒せてしまうのだ。今ならば、貴様らとやっても負けぬぞ」

「はいはい」


 目の前で共に冒険をしている二人は力も近く、背中を預け合える相手だ。


 このような自分に誰かと共に過ごす時間が訪れる日が来るなど考えてもいなかった。


 この塔のダンジョンから出れば、オレは貴族として、そして貴族派筆頭として活動を開始することになっている。


 アグリは、迷宮都市管理をするため、ゴルゴンの領地に専念するようになる。


 だからこそ、こうして三人で過ごすのは塔のダンジョンが、自分が自由にできると最後の時ということになる。


「ふぅ、そろそろ行きましょうか?」

「うむ。黒龍とやらがどれだけのものか試してやろう」

「力を試すには丁度いい」


 三人で扉を開けば、そこは塔のダンジョンとは思えない広大な敷地に、空が存在している。


「GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


 侵入者に対して、威圧を含んだ咆哮は、それだけで今までの敵とは違う存在であることを示してきた。


「くくく、良いぞ! 魔王に近しい圧を感じる。だが、あの時ほどではない」

「そうね。暗く重い圧を感じるけど、レベルが上がって新たな力を手入れたかしら? 怖くはないわね」

「ふん。所詮は黒いトカゲ風情だ。行くぞ」


 オレは二十階層で手に入れた双刀を抜きはなつ。


 これらは蒼炎と名付け、氷と炎の付与魔法を保持している。


 《地》の属性魔法、《傲慢》の大罪魔法。


 二つの属性魔法に合わせて、氷と炎という属性を得たことで、剣術に魔法を合わせる戦い方がより強化されたことになる。


 カウサルは、新たな属性魔法を習得して、アグリは何か特殊な力を手に入れたと言っていた。

 

「蒼炎よ」


 火を起こして黒龍を警戒させて、氷で叩きつければ、ダメージを大きく当てられる。


「ガハハ!デカい図体をしているのだ。どこからでも攻撃が通ってしまうぞ」

「本当ね。どうしてこれで誰も突破できないのかしら?」


 黒龍を圧倒していると、黒龍の体が光り始める。


「ブレスがくるぞ!」


 散開してブレス攻撃に備える。


「そんなモノ、我には無意味!」


 《勇者》の力を手にしたカウサルが、ブレスに向かっていく。


 圧倒的な質量を含む黒龍の攻撃!


 それを受けてカウサルが消滅する。


「リセット」


 消滅する前にカウサルが属性魔法を使うと、無傷のカウサルがそこに立っていた。

 

 《勇者》の力だそうだ。


 それは《傲慢》を待つオレとは異なり、だが異常な力に思えた。

 

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