幕間 3 魔王
《sideガウェイン・ソード・マーシャル》
親父から魔物の行軍が開始された報が届いた。
俺は生きた心地がしなかった。
また、マーシャル領が蹂躙されて、領民が殺される。
領民が死んでいく恐怖から解放されたくて、強力な助っ人を求めた。
「頼む! マーシャル領を助けてくれ」
転校してきたカウサルは、いつの間にかプラウドやアグリと行動を共にするようになっていた。
どうして三人がつるんでいるのか知らないが、確実に俺が知る中で彼ら以上の人物を知らない。
最近はレベルを上げるためなのか、高ランクダンジョン走破を目的に行動していることもイライザに教えてもらった。
プラウドは子供の頃から魔物を討伐する冒険者になり、魔物と戦ってきたそうなのだ。
「あんた、男のプライドはないの?」
「ない! そんなものよりも、民を助けたい」
アグリの呆れた声に、俺は正面から答えた。
三人が助けてくれるなら、頭などいくら下げてもいい。
「いいだろう」
「えっ?」
「ガハハ、面白そうではないか! 確か七ランクダンジョンだったな。そろそろ魔物が弱くて張り合いがないと思っていたところだ」
俺が頭を下げると、プラウドとカウサルが同行してくれるという。
二人は強者を求め、戦うことに飢えていたらしい。
俺の申し出を面白いと言って受けてくれた。
「仕方ないわね」
二人が行くということで、アグリも付き合ってくれた。
すぐさま移動の手段である馬を用意して、俺は三人を連れてマーシャル領へと旅立った。
意外だったのは三人とも旅に慣れていたことだ。
プラウドなどは、自分では用意をしない傲慢な奴なのかと思えば。
「貴様の食事は不味い! 料理とはこうやるのだ!」
そういって作ってくれたオーク肉の照り焼きは、特製ソースが使われていて美味しかった。
上流貴族として育ってきたはずなのに、冒険者としてのサバイバル技術が高く。
獲物をとり、食事を作り、酒を飲んで笑う。
カウサルは自国の煮込み料理。
アグリは見た目も綺麗なサラダと、スープの組み合わせにパスタを披露した。
三者三様で、料理が美味くて楽しかった。
「三人とも何でもできるんだな」
「あんたは使えないわね。剣しか取り柄がないじゃない」
「つまらん」
「ガハハハ、雑魚だな」
三人から見れば、確かに俺は弱い。
だが剣術だけなら、プラウドとも打ち合える自信がある。だが、魔法やそれ以外を器用には出来ない。
「おい、そろそろ領に入るんじゃないのか?」
「あっ、ああ」
プラウドを見ていると、マーシャル領との領境に到着していた。
丘の上にある領境は、少しでも魔物が行軍してきた際に有利な位置で戦うためだ。
「おお!! ウジャウジャいるではないか!」
領境を超えた丘から、カウサルは楽しそうに遠くの森までの道を埋め尽くす魔物を見下ろした。
「あら、嫌ね。素材はたくさん欲しいけど。面倒な返り血を浴びるのは」
「どうでもいい。いくぞ」
先陣を切るようにプラウドが魔物の群れへと突入していく。一振りするだけで魔物が舞って薙ぎ倒されていく。
馬上戦においてもプラウドの強さは本物だった。
「ガハハハ! 面白いではないか、誰が一番倒したのか競争だぞ! ドベの奴は今晩の食事係だ」
「あら、それはいいわね。ガウェイン。後片付けまでよろしくね」
「おい! 俺だって負けてねぇぞ!」
四人で魔物の行軍へ飛び込んでいく。
なんと頼もしいことか、先陣を進むプラウド。
右側面を薙ぎ払うカウサル。
左側面を撃破するアグリ。
俺は不慣れながらにサポートに徹して、三人に補助魔法と支援魔法を放っていた。
一団が動きを止めるほどの撃退劇が始まっていた。
行軍をしていた魔物たちが逃げるほどの追いかけに、俺自身も楽しくなってきていた。
四人ならば、行ける! 行軍を押し返せる。
「おい! あれはなんだ?」
プラウドに言われて空に浮かぶ漆黒の悪魔を見る。
「面白い人間たちがいると思って来てみれば、我の血脈たちか。ふむ、お前ら遊んでやろう。かかってこい」
地面に降り立つ存在に俺は畏怖を感じた。
あれは人が関わっていい相手じゃない!
漆黒の髪は腰まで伸びて、真っ白な肌に紅い瞳に見られると息を止めてしまいたくなるほど苦しくなる。
「ガハハハ、そうかお前か。お前が魔王か?」
何かを感じ取ってカウサルが動き出す。
「うん? 貴様だけは毛色が違うようだな。他の者たちは我が血を多少なりとも受け継いでいるようだ。お前はなんだ?」
誰よりも早く反応したのは、プラウドではなくカウサルだったことに、俺も驚いてしまう。
「我はカウサル・イシュタロスだ」
「ふむ、なんだ? 貴様の力を見せてみろ!」
青白い魔力が立ち上がり、闘気と同時に魔力の熱さで湯気が上がる。
「ウオォォォォ!!!」
魔王へ突撃をかける仕掛けるカウサル。
本来は片手で振るっていたバスターソードを両手で持って振り下ろした。
それでも魔王は剣を片手で受け止めて傷一つつかない。
「ほう、私に傷をつけるか?」
それは傷というには、あまりにも小さく皮膚が破けて爛れているだけだった。
「なにっ!」
「ふん!」
掌底を押し返すだけで、カウサルの巨体が吹き飛んでいく。
だが、そのスキを狙ったように、プラウドが左下段からの切り上げ。
アグリの右側からの鉤爪が魔王を襲うが、両者が吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
「あら!」
二人はダメージを負ってはいないようだが、攻撃を弾き返されて驚いている。
「ほう、いい動きをする。しかも傷をつけるか」
左のマントに切れ目が入り、右肩のマントも裂けている。
二人の攻撃は魔王の服を切り裂いていた。
「くくく、あああははっはははははっは! 面白い。面白い世代が生まれたものだ。貴様らは、まだレベルをカンストさせていない。己の可能性も育ちきっていない状態で我に傷をつけた。この憤怒の魔王にな」
魔王は三人に向けて楽しそうに笑う。
「これは褒美だ。存分に戯れるがいい。いつか貴様らの誰かが我を殺しに来てくれる日を楽しみにしているぞ。《創獣》魔法よ」
魔王が振り上げた腕の先から、巨大な魔物が生み出される。
それは今まで見たこともない魔物で、魔王ほどではないが、恐怖するには十分な強さを秘めた化け物だった。
「この魔物を倒せたなら、今回の行軍は終わりにしてやろう。この余興をもって、存分に我を楽しませるがいい」
俺は怖くて踏み出せないでいると、三人が化け物へ向かって飛び出していく。
「怖くないのかよ!」
俺の叫びに三人は振り返ることはなかった。
ただ、三人の声は揃って。
「「「ない!!!」」わ」
三人は本当に魔物を倒してしまった。
それは俺とは違う、遠い存在になっていくような気がして、実際に彼らは今回の出来事を機にアレシダス王立学園に帰ってくることはなかった。
今回の旅が共に笑い合って過ごす、最後だとは思いもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます