幕間 2 決闘

《sideアグリ・ゴルゴン・ゴードン》


 これは私たち三人しか知らない話。


「勝負の決着はどちらかが、動けなくなるか、参ったというまで。でいいかしら?」


 闘技場を貸切、観客はなし。


 この場にいるのは、私たちだけ。


「ガハハ、どうでもいい。殺すだけだ」

「殺す」


 カウサルとプラウドの二人は何かと競うようになって、どちらが強いのかと話題に上がることが多くなっていた。

 私の提案でそろそろ決着をつけてはどうかということで闘技場を取った。


「はいはい。どっちも殺させないわよ。殺しそうになったら、止めるからね」


 二人の実力は均衡している。


 だけど、私の力で止められないほどではない。


「こいつではなく、お前とやったほうがいいのではないか?」

「舐めないで頂戴。プラウドは強いわよ」

「うむ、よかろう。こいつを倒して、お前も倒すとしよう」

「あら、荒々しいわね。嫌いじゃないわよ」


 投げキッスを返してあげるけど、無視されてしまう。

 釣れないわね。


「いい加減に始めろ」


 プラウドのイライラとした声に私は距離を取る。


「それじゃ始めて頂戴!」


 私は二人が思い切り戦えるように闘技場から観客席に飛び移って眺める。


 互いに剣を構える二人。


 カウサルの力を知らない私は二人の決闘が楽しみでしかない。



《sideプラウド・ヒュガロ・デスクストス》


 子供の頃に、《傲慢》の大罪魔法に目覚めた。


 大罪魔法は、所持しているだけで、欲望が強くなり、態度や性格が強く反映されると言われている。


 そんなものに振り回され、飲み込まれることを良しとはしなかった。


 だからこそ大罪魔法に頼らない力を求め、剣術と闘気を鍛えることに時間を注いできた。


 剣術は面白い! 魔法のように簡単にできてしまうことはなく。

 一振りごとに己が研ぎ澄まされていくのを感じられた。


 七歳の頃には魔物を倒すために領地で冒険者登録を行なった。

 多くの魔物を相手に研鑽を積みレベルを上げてきた。

 それでも上位の魔物と対峙した時に味わう絶望感。

 それを乗り越えた際に味わう充実感と達成感は快感であり、己の肉体を鍛える喜びを知った。


 戦いの中で闘気を知り、己のモノとしたのは十歳の頃だった。


 アレシダス王立学園に入学する頃には、剣術も、闘気も、魔法も、極めるレベルに達していた。


 敵になりえる人物は一人だけになっていた。


 観客席に移動して、こちらを見下ろす最強。


 生まれながらに強者として、天才だった。


 努力をしなくても強い。


 自分がどれだけ努力を重ねても、幼き日に始めて拳を合わせた時に味わった敗北。それを忘れたことは一度もない。


「何を見てるんだ! ザコが!」


 重戦車のような巨体が、普通のロングソードよりも長く太いバスターソードを片手で振り回している。スピードも遅くない。


 パワー、スピード、そして歴戦の戦士たちを思わせる風格も私と同格。


「だが、お前と私では明確な違いがある」

「何を言ってやがる!! ウオォォォォ!!!!」


 強引に巨大な剣を振りかぶり、闘気が乗った一撃は人を殺すのに十分な力を含んでいる。避けてカウンターを決めるのは簡単だ。


 だが、それでは傲慢ではいられない。


「ふん!」


 だからこそ、剣をぶつけ合う。


 体格? パワー? 力量?


 そんなものは関係ない。

 

 意地だ。


 私こそが最恐である。その自負を元に全てを受け止める。


「はっ!」


 カウサルの剣を弾き返して、追撃に転ずる。


「面白いじゃねぇか!」


 デカい図体は目障りで、いちいち絡んでくる鬱陶しい男。


 剣術を知って、極めようと思った時。


 たどり着いた境地は、凌駕という言葉であった。


 相手の剣術を理解して、その上をいくことこそが凌駕の剣。


「ガハハ! 剣だけだと思うなよ!」


 カウサルが、その巨体を先ほどよりも早く動かして剣を横薙に振るう。

 芸のない一撃だと剣を受け止めようとした瞬間。

 反対側から、太く巨大な丸太で殴られたような衝撃が私の脇腹に突き刺さり、体が吹き飛ばされた。


 背骨が砕けたのではないかと思う痛み。


 吹き飛ばされて二度三度とバウンドしてから止まる。


 受け身をとって、立ち上がれたのは意地だ。


 不意打ちに何の対処もしていなかった。

 ドラゴンと対峙して、尻尾で吹き飛ばされた時の無様な光景を思い出される。


「ガハハ! 戦い方が綺麗なことだ!」


 カウサルの笑い声で意識がはっきりとする。


 奴の姿は右手で剣を振るい。

 左足で蹴りを放つ姿勢から戻すところだった。


 そうか、私は蹴られたのか。


 その威力で吹き飛ばされた。

 オーラで全身を纏っているのに、ここまでダメージを負うと? 


 ああ、そうか。


 認めよう。


 こいつもアグリと同じ人種だ。


 天才。

 怪物。

 人外。


 そう呼ばれる者か。


「どうだ! 痛かろう。参ったというのであれば、これ以上の追撃はやめてやろう。その代わり、明日から細々と生きるのだな。我に道を譲り、コソコソと生きよ」


 はっ? 貴様は誰にものを言っている。


「ひれ伏せ! 下郎が!」


 《傲慢》が私の中で暴れ回る。


「貴様に見下されるオレではない!」


 白に近い銀色の魔力が吹き出していく。


 大罪魔法は、力の制御が難しい。


 だが、そんなことはどうでもいい。


「ほう、空気が変わったか、いいだろう。ならば、我の力を見せてくれる」


 それは見たこともない青い光。


 だが、わかる。


 大罪と同種か、それ以上の魔力。


「くくく、お前だけが魔力を纏えると思うなよ」

「面白い!」


 互いに魔力を高め、纏い、肉薄する。



《sideアグリ・ゴルゴン・ゴードン》


「ふふ、妬けちゃうわね。男同士でイチャイチャと。だけど、ああなったら決着はつかないかもね。同種の力に同等の力量。スピードと技術はプラウド。体力とパワー、それに体格はカウサル。どちらも己の土俵に引きずり込もうとして、血湧き肉躍らせるなんて、ゾクゾクしちゃうわね」


 決着は語られない。


 三人だけの秘密。


 だけど、この日を境に三人で行動することが多くなり、三年次のアレシダス王立学園で起きた二つの偉業を達成することになる。



「頼む。マーシャル領にきてくれないか?」


 

 それは、ガウェイン・ソード・マーシャルによる魔物の行軍を退ける要請から始まった。

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