第363話 降伏勧告

《sideユーシュン・ジルド・ボーク・アレシダス》

  

 その日、朝の用意をしている際に朕の元に慌しい者が駆け込んで来た。

 緊急連絡用の出入り口を使ってよいとは行ったが、本当に使うとは相変わらずの阿呆だ。


 ガッツは血相を変えて汗だくでここまで来たようだ。


「ユーシュン王! 帝国から書簡が!」


 騎士たちを朝の稽古でもしていたのだろう。

 正装もしないで、礼儀も何もあったものではない。

 しかし、ガッツがこれほどまでに慌てる様子に、私は書簡を受け取り内容を読むことにした。



《降伏勧告》


 アレシダス王よ。


 平和的な解決を求め、紛争を終結させるために、ここに降伏勧告を提案する。

 我々は紛争の解決に対する共通の関心事を持つと信じている。

 状況を改善するための措置を講じることを望む。


 降伏の条件についての詳細は以下の通りである。


 条件1:王国は全面的な降伏を帝国に申し出よ。その際にユーシュン王を含めた王族血縁者である男は皆斬首とする。並びに王族の女は全て帝国へ差し出し降伏と服従を誓わせよ。

 条件2:王族を失うためアレシダス王国は解体。貴族たちは位を返上し、帝国の一市民として頭を下げよ。そして、全ての財産を差し出すものとする。

 条件3:以上二点を持って、アレシダス王国はイシュタロス帝国に降伏したと認めて属国になることを許す。


 これらの条件に同意いただける場合、紛争を行うことなく、新たな協力のチャンスに向けて共に前進する用意がある。


 降伏に関する詳細や疑問点はこれ以上は存在しないため協議の余地はないものとする。


 懸命な判断を持って平和と協力のために共に歩める道を願っている。


 初代帝王カウサル・バロックク・マグガルド・イシュタロス。



 朕は、書簡を読み終えて地面に投げつけた。


「なっ、なんだこれは!」

「ユーシュン、落ち着け」

「これが落ち着いていられるか?!」


 降伏勧告と言いながらも、全面降伏な上に民に奴隷になれと宣言するなど、どうやって受け止めろというのだ。王族の男には死を。女には人質であり、奴隷になれというのか。


「こんなことが許されるわけがないだろ!」


 貴族たちは全ての爵位や領地を奪われるのだ。

 こんなことを言って黙っていられるはずがない。


「ガッツ、全ての貴族を集めよ。上位貴族には強制招集だ」

「テスタも呼ぶのか?」

「緊急事態だ。王国内で争っている場合ではない」

「わかった」


 ガッツはどこか嬉しそうな顔をして飛び出していった。あいつは昔から言い争いをしながらもテスタを認めていた。


「クソッ! どうしてこんなことに」


 テスタが起こしかけた内戦を皇国との争いに変更できた。それは裏でリューク・ヒュガロ・デスクストスの死を利用した計略通りだった。

 だが、ここ数ヶ月は、リュークと連絡が途絶え帝国の動きも知ることが出来なくなった。


 帝国はタイミングを見計らったようにやってきた。


「朕は乗り越えられるのか?」


 貴族たちが集まるまでの間に、朕は王国に備蓄された武器や食糧、戦力の有無を確認する作業を始めた。



《sideリューク》


 ボクが目を覚ますと、上半身裸のお姉様がボクを見ろしていた。


「お姉様?」

「あら〜起きたばかりなのに、相変わらず肝が据わっているのね」


 ムキムキマッチョな綺麗なボディーをしたお姉様は、前に会った時よりも若返っていた。


 文字通りツヤツヤとして、全身に輝きがある。


「別に、状況を理解しているだけだよ」

「ムフフ、あなたは本当に聡く賢い子ね。もっとダン坊やのように慌ててくれたら面白いのに」


 どうやらダンの《不屈》の活躍を見ていたようだ。


「随分と無茶をしたのね」


 ボクは《神》を倒し終えたようだ。


 百階層、そこはダンジョンマスタールームであり、ボクの目的地だ。


「そうかな? 神だけならもっと簡単に倒せると思っていたけど、やっぱり現実は甘くないね」


 片目と片足を失った筈だが感覚がある。

 ボクは再生魔法をかけていないのに。


「だってぇ〜、私がアレを倒した時は、三人で力を合わせたものよ」

「三人?」

「そうよ。あなたのお父さんと、もう一人の友人とね。それなのにあなたは一人で倒してしまうんだもん」


 お姉様が、塔のダンジョンを制覇していることは間違いない。


 ボクの前に久しぶりに現れた表記が、それを教えてくれている。


《侵略を開始しますか?》


《目の前に地下迷宮ダンジョンのダンジョンマスターがいます》


「ダメよ。受けてあげない」

「む〜」

「ふふ、そんな可愛い顔をしてもダメよ。そうね、代わりに昔話をしてあげるから、ゆっくりと休みなさい」

「昔話?」

「そうよ。私がまだ乙女になる前の話。そして、あなたのお父様の話よ」

「興味ないけど」

「可愛くないわね」


 ボクにとっては、ゲームの中で語られることのない話。


 そして、これは様々な出来事が絡み合い。

 

 事件が起きるきっかけとなった話。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


これにて、第九章を終了します。

第十章に入る前に、幕間として、過去編+帝国侵略前夜編を挟みます。


第十章、帝国編へはその後にお送りしたいと思います。


少し回り道をしますが、楽しんでいただけるように書きますので、どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る