第361話 塔のダンジョン攻略 終

 アイリスとシーラスが意識を失い。

 ダンが誰よりも傷ついた。

 ノーラは攻撃から逃れたが、もう戦える状態ではない。


「ハヤセ、オウキ。もしもボクが負けて死んだなら彼女たちを頼んだ」

「わっちは戦えるでありんす!」

「ああ、そうだな。ノーラ。みんなを守ってやってくれ」

「リューク!」


 ボクが別れを告げている間も動かない《神》。

 逃げたとしても追いかけて来ないだろう。

 だが、次に来た時には、もっと強くなってボクたちを出迎える。


 だから、背中を見せるわけにはいかないよね。


 あ〜あ、大罪魔法が体を蝕むことがなくなっても、結局ボクの心には《怠惰》がいる。


 働きたくないな。

 動きたくないな。

 戦いたくないな。


 だけど、ボクがやらないと訪れるべき終わりがやってきてしまう。世界を終わらせたくない。

 ボクが面倒でも動かないといけない理由ができてしまったからね。


 カリンが、リンシャンが、シロップが、ボクの子を産んでくれる。

 アイリスが、ノーラが、シーラスが、ボクのために戦ってくれた。

 アカリが、ミリルが、リベラが、ボクのために働いてくれている。

 ルビーが、ユヅキが、アンナが、クウが、ボクの世話をしてくれる。

 エリーナが、ココロが、ミソラが、カスミが、ボクと一緒にのんびりしてくれる。


 この世界を守るために、怠惰でいられない。


「神すら殺す。ヒーローができないなら、悪が断つ」


 結局、悪になったのだって、自分の我儘を押し通して、自分が守りたい大切な人だけを守るためだ。


「リューク?」


 ボクはアイリスに、シーラスに、そしてノーラにキスをする。

 ノーラから暴食の腕輪を受け取り力を借りる。


 暴食の腕輪を抜いたノーラは力を失って座り込んだ。


「行ってくるよ」


 ボクは九十九階層へ侵入できる扉を閉じる。


「リューク!!!!」


 ノーラが手を伸ばして名を呼んでくれた。


 扉は閉めるとボスを倒すまで開くことはできない。

 これで誰にも邪魔はされない。


 ボク以外を傷つけさせなくて済むんだ。


 最初からわかっていた。


 人魔神の第一形態は、ダンだけでも倒せる。

 第二形態は、アイリスたちが力を合わせれば倒せる。


 だけど神は、誰にも倒せない。

 いや、倒せるかも知らないが、一緒に戦えば誰かが絶対に死んでしまう。


「誰も殺さないで、攻略するためには無傷でここまできたかった」

「くくく、相棒は俺っちでいいのかい?」

「ああ、むしろ、お前がいてくれて良かったよ。キモデブガマガエルのリューク」


 クマがキモデブガマガエルのリュークの姿でボクの横に並ぶ。

 バルはクッションの姿から、ボクが纏う鎧へと変化を遂げた。


「武器になれよ。《怠惰》よ」

「任せろ、相棒!」


 紫の球体がボクの周りに浮いている。


「好きに使えよ。《怠惰》に型はねぇ。お前が使いたいように形状を変えてやる」

「最高だな。なら、ボク以上に働いて動いてもらうぞ。小手調べだ」


 ボクが魔力を高めて魔力砲を放てば、《神》が光のレーザーで相殺する。

 

 神と悪魔。


 ボクは神を倒す悪魔になってやるよ。


「魔王なんかでボクの器を決めさせるか、ボクは神殺しのリューク・ヒュガロ・デスクストスだ」


 体術の全てはバルに任せる。

 敵の攻撃を避けてダメージを与える。


 遠隔操作で、放たれる武器攻撃や、相手から魔法攻撃の防御は怠惰のクマに任せる。


 だからボクがすることは、《神》を倒すための策を思い出し、手段を作り上げる。


「暴食の腕輪よ。ボクの力を喰らいつくせ!」


 本来の《神》は攻略可能パーセントは二〇%だ。


 どれだけ最強の装備と最強のメンバーを揃えて、全ての事件を解決したヒーローが経験を積んで来たとしても、やっと攻略できる数字が足ったの二十だ。


 製作者は頭がおかしんじゃないか? こんなチート級の化け物を作りやがって。しかも攻略を失敗するたびに、前回の方法を神側が学んで強くなるとかおかしいだろ。


 最初の一回に全てをかける。


「くっ! 相棒。出力が足りねぇ。もっと魔力をよこしやがれ」

「マスター。押され始めています。手数が足りません」


 わかってるよ。一人で攻略できるような相手じゃない。一人の魔力で倒せる相手でもない。


 それでも、誰も死なせたくないんだ。


 一人も大切な人を死なせないために、ボクが選んだ選択はこれだけだ。


「お前たちの力ももらう!」

「なっ! くくく、そういうことかよ。いいぜ。くれてやる飲み込めよ」

「マスターのご命令に従います」


 クマもバルも暴食の腕輪に飲み込まれていく。


 生身の体だけになったボクは《神》対峙した。


「よう、神様」


 バルとクマによってダメージを受けている《神》は最初の輝きを失いつつある。


「最終段階だ」


 ボクは自分自身が貯められるだけのエネルギーを暴食の腕輪に吸収させた。


 その力を開放する。


 自分の体に力が流れ込んでくる。


「ここからは全て手動だからな」


 今までバルに任せてきた戦闘を全て自分で行う。


「あ〜面倒だ」


 クマが生み出した球体のような力を作り出して、《神》の攻撃を防御する。

 一歩、また一歩と近づいていく。


「やっと辿り着いた」


 《神》に触れられる距離に辿り着いて、《神》の体に拳を当てる。


「もしも、お前に感情がある化け物なら、ボクは勝てなかっただろうな。お前がただのシステムで裏ボスを超す強さだと言われても裏ボスにならなかった要因は、お前はただのシステムだからだ」


「UGOOOOO!!!!!!」


 力を爆発させるように《神》が力を開放する。


「ドン!」


 ボクの声と同時に《神》体に特大の穴が空いて、頭と胸を消滅させる。

 神が放とうとした力は霧散するが、今度は体を修復するように回復していく。


「HPが高くて復活するんだろ? お前の全てが終わるまで何度でも消滅させてやる」


 神を消滅させるほどの力は何度も続かない。

 

「防御力が高すぎるだろ!」

 

 一撃放つたびに大量のエネルギーが奪われていくのがわかる。


「ハァハァハァ、キツイな」


 何度倒したのかわからない。

 暴食の腕輪に溜め込んだエネルギーも底をついた。

 バルもクマも生み出す力はもうない。


「魔力も上手く吸収できなくなってきたな」


「UOOOOOOO!!!!!!!!」


 それまでじっと攻撃を喰らっていた神が口を開いて吠えた。


「やっときたかよ」


 これは敵が断末魔の叫び。


 つまりは最後の瞬間。


「あと一回でいい。魔力よ!」


 もうボクも限界だ。


 これが最後の魔力吸収。


「《怠惰》よ! 神を討ち滅ぼせ」


 荒々しく暴走する《神》が迫ってボクは体術で応戦する。

 それでも強引に掴まれた腕が引きちぎられ、目玉もくり抜かれる。


 止めることなんてできない。


 ボクは残された手を《神》の口へと突っ込んで《怠惰》の魔力を爆発させる。

 

 スマートにカッコよく勝つことなんて考えない。

 命も惜しくない。

 ボクはヒーローじゃないから、全てを守るなんてでなかない。


 だけど、悪として全てを手に入れてやる。


 ボクが死んでも《神》を倒せるなら、大切な人たちを守れるならボクの命をくれてやる。


「終われーーーーー!!!!!!!」


 全力でオートスリープアローを打ち込んだ。


 ボクにはもうこれしか残されていない。


 怠惰も、魔力も、体も、ほとんど終わってる。


 少しずつ魔力を回復させながら、自動で飛んでいくオートスリープアローにダメージを与える効果を付与して放つしか、もう動くこともできない。


 弾幕を打ち終わった先には《神》はいなかった。


「ふふ、無茶な子ね」


 ボクは意識を失う。

 聞き慣れた声を聞いた気がした。

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