第360話 塔のダンジョン攻略 9

 暴食の腕輪によって強化されたノーラの攻撃が人魔神を捉える。

 ダンの犠牲によってダメージを受け流すことができたので、初めて攻撃が通った。


「ダメージが入った!」


 ダンが叫び声を上げる。


 ノーラに続いて、仕掛けを発動したシーラスの魔法が四方から花を咲かせて人魔神を包み込む。


「ハヤセ! 俺にも」

「了解っす!」


 ダンは五度目の復活を果たして、ハヤセからダーツを撃たれて突撃を開始した。懲りないやつだ。


「バルニャン! ダン以外の全員を捕まえろ!」


 ボクの命令に従って、クションタイプのバルニャンからロープが伸びてヒロインたちを引き戻す。


 ノーラの鉄扇とシーラスの魔法によって、一定のダメージを受けた人魔神の外壁にヒビが入った。


「オラっ!」

 

 全員が引いて、固まる人魔神に向かって、絆の聖剣に溜めた光の刃が直撃する。


「どうだ!」

「ダン! 離れろ!」

「えっ?」


 グチャ! 


 ダンが潰れる嫌な音が響く。


 今までは壁へ吹き飛ばされて激突していた。

 だが、ダンの体は地面に叩きつけられて人魔神に踏みつけられた。


 弱々しい青年の姿はどこにもなくなり、光の刃を受けて現れた人魔神の全身は、真っ赤に染まった肌、新たに四本の腕を生やしたことで六本に増えた腕、顔は三つに増えた。


「なっ! なんですの?」

「第二形態だ。第一形態は自動防御システムだ。攻撃を受けたことで第二形態へ移行したんだ。魔人モード阿修羅。人の顔と、魔人の顔と、神の顔を持つ」


 ボクの説明に全員が息をのむ。


「さっきまでは小手調べだったって言うんでありんすか?」

「ああ、第一形態はただの防衛行動をとるだけだった。だが、第二形態は侵入者を排除するために攻撃行動をとる。ダンが攻撃を受けて踏みつけられているのも、攻撃手段が変わったからだ」


 ダンだから大丈夫だと思うが、他の者なら一撃で殺されていたかもしれない。


「あまりにも簡単に倒せると思いましたの」

「そうですね。先ほどまでは歯応えがありませんでした」


 アイリスとシーラスは、やる気に満ちて戦いを赴こうとする。


「うおおおおおお!!!!」


 だが、真っ先に飛びかかったのは、黒い羽に黒い爪を生やしたノーラが突撃を仕掛けた。

 物理攻撃においてノーラは世界最強と言ってもいい。


 赤鬼の魔人を相手に取っ組み合いの殴り合いを始めた。


「あっ! ノーラ! ズルイですの!」


 アイリスは全身からフェロモンという名のピンク色の世界を作り出す。


 赤鬼は戸惑うように空気が変わったことを察知し、ピンク世界に見える幻覚を殴るが、何も捕まえることができない様子で戸惑いを表す。


「ふふ、二人とも戦いの中で成長していますね」


 シーラスは何もないところから雲を生み出して、続いて太陽を作り出した。

 自然を操る姿は、シーラスも新たな力に目覚めたようだ。火消しを行った時からコツを掴んだな。


「深淵を舐めないでほしいわね」


 シーラスの全身から魔力が溢れ出した。

 ボクから学んだ魔力吸収を、ボク以上に上手く使っているように見える。


 物理。

 大罪。

 深淵。


 それぞれが違う形ではあるが、ボクの側にいる中では最強クラスのヒロインたちだ。


「花よ! 咲き乱れなさい」


 シーラスは部屋の中に花畑を作り出して、赤鬼になった魔人の力を吸い上げて、花へと転換させる。


 潰されて意識を失っていたダン。


 ハヤセが弾丸を打ち込んで気付けをする。

 ダンが意識を取り戻して魔人と距離をとった。

 やはり生きていたか。


 武器の性能で死なずにいるが、明らかに三人よりも見劣りしてしまう。


「死ぬでありんす!」

「墜ちるんですの!」


 シーラスの魔法によって、弱まった魔人をノーラの一撃とアイリスの回し蹴りが襲う。


 だが、二人の攻撃を受けながらも、阿修羅は六本の腕によって二人を掴んで投げ飛ばした。


「バル」


 ボクは空中にバルを作り出して、二人を壁に激突しないようにエアーバックを作る。


「GUAAAAAAA!!!!」


 ダメージを受けたことで怒りを表した魔人がシーラスをターゲットに動き出す。

 動く圧力だけで、ダメージを与えてくる威圧を含むのは化け物だ。


 最強クラスの三人を以ってしても、小さな傷を与えるのがやっとだ。


「面白いですの!」

「全部ぶつけるでやるでありんす」

「いいわね!」


 シーラスは逃げることなく魔人を迎え撃つ。


「俺を忘れてんじゃねぇ!!!!」


 シーラスに迫る魔人の背後からダンが雄叫びを上げて絆の聖剣を振り下ろす。


 ダンの動きなど気にしていなかった魔人は、ダンが作り出した光の刃を受けた。

 うしろに手を伸ばそうとした魔人の腕を斬り飛ばした。


「動きが止まっていますの」

「死ぬでありんす」

「スキだらけですよ」


 ダンの一撃に続くように三人がそれぞれ腕や足を吹き飛ばした。


 たたみかけられたダメージにトドメを刺すために、ガラ空きになった魔人の胸に、ボクは魔力を込めた魔弾を打ち込んだ。


 一点に圧縮した怠惰な魔力を含んだ魔弾は、魔人の胸を遠距離から撃ち抜いた。


「GUNNNN」


 唸りながら吐血する魔人が膝を折る。


「離れろ!!!」


 先ほどと同じような現象が起き始めた。

 ボクが声を上げる。

 だが、四人が魔人に近すぎて引き寄せることができない。


 ダン、アイリス、シーラスが、魔人の爆発に巻き込まれた。


 ノーラはその身体能力で避け切った。


「アイリス! シーラス!」


 ボクが名前を呼ぶと、アイリスとシーラスは意識を失った様子で地面に倒れている。二人を回収して荷台に乗せた。

 

 ダンの今まで見た中で一番の出血量に、ダンが爆発を最小限に抑えてくれたことが伺いしれる。


 バルによって回収させて、ハヤセに預けた。

 七度も立ち上がってくれたダンには休んでもらう。


 阿修羅は、先ほどまで真っ赤だった肌は真っ白になっていた。


 人と魔人の顔は消滅して、無表情な神の顔だけが残る。

 白い羽を背負い、頭の上に輪っかを浮かべる神を模した化け物が出現する。


「あれは何っすか?!」

「 神 」


 ボクは最終形態に移行した人魔神と対峙する。


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