第330話 いざ、塔のダンジョン 2

 ハヤセの不可解な強化手段は効果を発揮した。


 レベル100を超えている黒竜を倒したダンは自信をつけた。

 破竹の勢いで階層を進んでいく。

 元々、絆の聖剣の効果で《不屈》がある以上は防御など考えないで攻撃ができる。

 全ての力を百パーセント、攻撃に集中ができる上に聖剣は魔物に対して、最も効果的な武器なのだ。どんな魔物に対しても効果を発揮してくれる。


「グアアああああああ!!!」


 七十九階層のボスが咆哮をあげて倒れていく。

 

 八十階層からは、一階ごとに敵の数は少なくなっていく。


 九十階層からは、一体のボスモンスターが各階層に存在するだけだ。


「ぐっ! くそ!」


 ダンの聖剣を持ってしても切れない甲羅を持ったベヒーモス。

 それをオウキが踏みつけて倒した。


 流石に八十九階層まで上がってくると、いくら覚醒して強化したダンでも一人では魔物を倒しきれなくなってきた。

 八十階層からは、オウキも戦いに参戦して、ボスモンスターに挑むシーンが増えた。援護にハヤセのダーツとシーラスの魔法が飛んでいる。


 ボクはノーラを見つけながら、クウに膝枕をしてもらって戦いを見ていた。


「これで九十階層だ」


 塔のダンジョン、頂上は百階層までだと言われている。

 だが、百階層に到達した者がいない以上、それが本当なのか、どうなのか? 


 ただ、二日間戦い続けて九十階層までたどり着いたのは上出来だ。


 八十九階層のボスを倒したことで、一旦戻るための魔法陣が現れた。


「ダン。次が目的地だ」

「何? 九十階層に行くのか? 次元が違うぞ。マスタークラスと呼ばれていて、冒険者としてのランクもSSランクを超えた。SSSランクだと言われている」


 五十階層を超えた時点でSランク認定を冒険者ギルドから受けられる。

 ダンは、学生時代にSランク認定を受けた冒険者だった。

 その時は実力に見合わないと言われたものだが、今では十分にその価値のある男になった。


「わかっている。だが、ボクは行く」


 ボクは個別鑑定で、すでにSSSランクの称号を得ている。


 Sランクは元々たいしたレベルではない。

 魔物たちは限界突破を持っていてレベル100を超えているものばがりだが、攻略の仕方次第で、レベルが低くても攻略ができてしまう。


 ダンを連れてきた一つの要因は、聖剣の力にある。


 塔のダンジョンで発見された絆の聖剣は、この塔を攻略するためのキーアイテムだ。ダンが、ここまで成長していたことが幸いして楽に上がってくることができた。

 

「もしもボクが帰ららない時には、エリーナ王女。アイリス嬢に決着を促すように言ってくれ。それではな。ダンの成長した姿に素晴らしかった。ここまでの露払いだけで、十分に役目を果たしてくれた」


 ボクは馬車に御者に乗り込み。

 ダンとハヤセを下ろした。


 転移魔法を使えば、外に出られる。

 ここからは、ダンに露払いをしてもらう必要もない。


「ちょっと待てよ!」

「なんだ? お前は八十九階層までボクを送ってくれた。十分な働きだったぞ」

「そんなことを聞きたいんじゃない! 一緒に来て欲しいとなぜ言わない?」

「はっ?」

「……俺は、数年前に親友を亡くした。戦友であり、友だ。いつかはあの背中を越えたいと思ってやってきた。だが、あいつは勝ち逃げしたままだ。だからこそ、今度はお前には死んでほしくない。お前にまで勝ち逃げなんかされてたまるかよ」


 ダンは聖剣を抜いて、ボクへと構えた。


「なんのつもりだ?」

「お前が嫌でも、俺は次の階層へついていく」


 真剣な目をして、ボクの顔を見つめてくる。


「好きにしろ。だが、死んでも自己責任だ」

「わかってるっての」

「女は守れよ」

「おうよ」

「しょうがない人っす」


 なぜか帰ろうとしないダンとハヤセを連れて、90階層の門を開く。


 すでに黒竜からレベル100オーバーしか存在しない。

 そんな中でレベルが違うという九十階層。


「あれが?」

「綺麗っす」


 ダンの質問に私は空を見てしまう

 

 真っ白な羽を生やした大柄な男が目を閉じて、祈りを捧げている。


 見るからに天使のような姿をした魔物。

 美しい見た目に、六枚の羽が神々しさを表しているようだ。


「塔を攻略せんとする者よ。汝らに覚悟を問おう」

「なんだ!」


 魔物が普通に話すことも異常だが、それにまともに答えるダン。

 ボクは頭を抱えたくなったが、成り行きに任せることにした。


「私らは、何を欲して塔を登る」

「そんなの決まっているだろ! 塔の攻略だ!」

「ふん、浅はかな。貴様らのような愚者はここで死んでしまうがいい」


 この受け答えはどのような言葉を返しても、死んでしまうがいいに繋がる。

 だから、あいつに関しては質問を受けた時点で。


「グハッ!」

「なっ! バル! 卑怯だぞ!」

「お前は本当に馬鹿か? 目を閉じて構えてもいない相手にどうして攻撃しない?」


 ボクは大罪魔法を込めた魔弾を持って、魔物天使を撃ち抜いた。


「なっ! なんの……グハッ!」


 バカはお前だ。


 だが、これで終わるほど甘くもない。


「我にここまでの手傷を負わせたこと、誇るがいい」


 第一段階にある程度攻撃を加えると、第二段階に形態変化を開始する。 

 この時に攻撃ができたら、楽なんだが全ての攻撃を無効化してしまう。


「させるか!」


 今度はダンが、第二形態に変化する天使の魔物を攻撃するが、無効化されてしまう。


「なっ! 俺の聖剣でも斬れないだと!」

「くくく、浅はかな人間よ! 思い知るがいい」


 全身が真っ黒に染まった堕天使の悪魔が降り立つ。


「今度は悪魔だと!」

「ダン、そろそろ黙れ」

「うっ!」

「ノーラの力を解放する」


 目の前の悪魔には再生能力があり、倒すにはそれを上回る力が必要になる


「ノーラ! 反転!」


 ボクは腕輪に施された力を反転させた。


 


 

 

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