第329話 いざ、塔のダンジョン 1

 ボクはノーラにはめられた暴食の腕輪を解放するため、塔のダンジョンへ向かうことにした。

 その際に、ノーラにこんなことをした者のたちを見つける捜索部隊と、領地を守る部隊に分けることを考えた。


 捜索部隊。


 エリーナ

 アンナ

 クロマ

 ミリル

 フリー


 彼女たちには聖女ティアに味方しながら。

 その実、教国の調査をしてもらうことにした。

 聖女ティアが失脚して損をするはずの教国ではあるが、同時に教国内に得をするものが居れば犯人として一番怪しい。

 だが、他の宗教によるテロ行為も考えられるので確定はできない。


 そこで、領地を守る部隊だ。


 アイリス

 レイ

 チューシン

 アクージ

 ルビー

 

 ノーラの従者たちにも、領地に入り込んだ宗教関連の関係者を炙り出してもらうことにした。

 また近くの者たちで、手引きをした者はいないのか調査を頼んだ。


「おいおい、遅いんじゃないか?」


 塔のダンジョン前でダンとハヤセが待っていた。

 ボクはオウキが引いてくれる馬車に乗り、ダンを見下ろす


「そうか? 御者を頼めるか?」

「おう。うん?」


 御者をダンに任せて、ボクは荷台に映る。

 荷台には、ノーラとシーラス、クウが乗っている。

 シーラスには、ボクと同じ仮面をプレゼントしておいた。ハヤセは気づいているようだが、ダンはシーラスにも気づかない。


「それは、ノーラ・ゴルゴン・ゴードンか?」

「そうだ。今回の塔ダンジョンへの挑戦は彼女のために向かう」

「ダン先輩、これはエリーナ様からの正式な依頼でもあるっす」

「わかってるよ。今回はお前と共闘だなバル。初めてだがよろしく頼む」

「ああ、ある程度の場所までは、馬車を引いてくれるオウキが敵を威圧で払ってくれる」


 ダンが麒麟のオウキを見て、少しだけ驚いた顔をする。前に来た時は、ボクのオートスリープを使ったがそれすらいらないのは楽だ。


「バル、急ぎましょう」

「ああ」


 シーラスに促されて、ボクらはダンジョンの中へと入る。塔のダンジョンは一階ごとに魔物の種類が変わって、難易度も上がっていく。


 だが、霊獣である麒麟のオウキによって威圧された魔物たちはこちらに近づいてこない。


「どこまでいくつもりだ?」

「まずは、五十階層まではノンストップでいく」

「なっ!」

「どうかしたのか?」

「あそこには黒竜がいるんだぞ!」

「それがどうした?」


 前に来た時よりもボクらのレベルも上がっている。

 黒竜を倒せる推定レベルは七十だ。

 今のレベルがカンストした状態なら、黒竜は雑魚でしかない。


「ビビっているのか?」

「はっ? 誰がだよ。ビビってねぇし!」

「ならば、問題あるまい」


 ハヤセのレベルは知らないが、ボク、シーラス、クウ、ダンのレベルはカンストしているので、黒竜の相手など問題ない。

 70階層ぐらいまでなら、レベルがカンストしていれば余裕で上がることができる。


 だからこそ、ノーラが暴れても良い場所に辿り着くことが先決なのだ。


 最悪はボクとダンで抑える必要があるが、できればノーラの力が暴走することで倒せるような魔物が出てくるまではノーラの力を温存しておきたい。


 基本的にはオウキが魔物の相手をしてくれて、たまにバカな魔物が近づいてきた時はダンが光の剣を使って倒していく。


 遠距離攻撃は便利だと思うが、ハヤセがいるおかげで連発もできるようになった。

 ダンは戦闘面では随分と頼りになるよう成長したものだ。


 アレシダス王立学園に通っていた頃に塔のダンジョンに来たときは、頼りないやつだったのにさすがは主人公だな。

 

「そろそろ五十階だ。ダン、一人で黒竜を倒してみろ。危なくなったらオウキが助けてくれるから。やってみろ」

「手助けなんかいるかよ」


 前の時は命をかけて五十階層の黒竜と戦った。

 聖剣を強引に使って倒したわけだが、今回はどうなるのか? 


「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 盛大な咆哮によって出迎えらた黒竜。

 前回であれば命の危機に直面して、恐ろしいと思ったものだが、今では可愛くすら見えてしまう。


「絆の聖剣よ。俺に力を」


 愛する者を守るために発動する絆の聖剣が、ダンの呼びかけに応じるように光を放ち初めてエネルギーを貯めていく。

 

 前回来た時よりも数倍の力を聖剣に凝縮して、放たれたことで黒竜がダメージを負う。


「なかなかやるじゃないか」


 だが、黒竜を倒しきれていない。


 オウキに目配せをする。

 いつでも飛び出せるように。


「ハヤセ! いつものを頼む」

「了解っす!」


 ダンの呼びかけにハヤセが応じて、二人のコンビが何か仕掛ける様子を見守る。何をするつもりなのか?


「いくっすよ!」


 そう言ってハヤセが取り出したのは、ダーツだった。


 あんな小さな物で黒竜にどうやって対処するのか?


 そう思っていると、ハヤセが放ったダーツはダンの後頭部へ突き刺さった。


「はっ?」


 あまりにもな光景に驚いていると、ダンがプルプルと震え出す!


「クゥ〜!!! やっぱりこれだぜ! ハヤセ! お前の愛が俺を強くする!」


 先ほどの数十倍の光が放出されて、聖剣へと集まっていく。


 唖然として見ていると、黒竜のブレスとダンが放った光の刃がぶつかり合う。


「ハヤセ!」

「いけっす!」


 さらに、背中、肩、足に合計五本のダーツが突き刺さる。


 あのダーツにどんな意味があるのかわからないが、ダーツが刺さるたびにダンの光は強くなって黒竜を圧倒して見せた。


「へへへ、黒竜を俺たちの手で倒してやったぜ」


 勝利して、ダーツが突き刺さったまま帰ってくるダン。


 ハヤセは当たり前のようにダンからダーツを引き抜いていく。

 血が飛び出しているが、二人とも気にしていないようだ。


 これは? 新たな強化方法なんだろうか? ボクは不可解な二人の行動を、取り合えず見なかったことにした。


「よくやった。次に進むぞ」

「おうよ」


 オウキに目配せして五十階層を抜けた。


 

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