第320話 式典参加者 2
《sideクウ》
私は耳も体も全てを失って死に行く存在でした。
それが、主人様のおかげで命を助けて頂き、主人様の元を離れたくないと告げました。すると、主人様が私を迎えに来てくれるというのです。
これほどの幸せがあってもいいのでしょうか?
「いいなぁ〜、リューク様が来てくれるなら私だってそっちに行ったのに」
同級生のクロマとは、リューク様に想いを寄せる者同士。
他のお姉様たちとは違って、友人として接することができている。
「それにしてもクウはヤバいよね?」
「何がですか!?」
いきなり人をヤバい呼ばわりするのはやめてほしいのです。
私はリューク様に愛していただくために日々努力を重ねているのです。
シロップ様のように凛々しく。
リンシャン様のように心を支え。
カリン様のように妻として。
私の憧れの正妻様なのです。
「いや、獣人がアイリス様のおかげで蔑まれなくなったと言ってもさ。ウサ耳もウサ尻尾も堂々と出してさ。あの無邪気なルビー様ですら隠していたのに。それに最後の方は、その悩殺ボディーで何人の男子生徒を切り刻んだことか」
「人聞きの悪いことを言わないでください! 私がこの学園に来た目的は、主人様のお世話をするためだったのです! だけど、主人様がせっかくのチャンスだから学生を楽しみなさいと言ってくれたので、一年間通っていただけです。本当は主人様の側にいたいのに」
「本当に一途だね。まぁあれほど強烈な男性を知って、他の男なんて目に入らないのはわかるけど」
私にとっての主人様は、私の人生そのものです。
あの日、耳を切られ、死を予感した私を胸に抱きしめ、救い出してくれた主人様。そして、私の体を元に戻してくれて優しく頭を撫でてくれた日のことを今でも忘れたことはありません。
「とにかくリューク様には私も会うんだからね」
「クロマも主人様に選ばれた女性だから当たり前ではありませんか?」
「そこも不思議なんだけどさ。普通は男が色々な女性と関係を持ってたら嫌じゃないの?」
「クロマは嫌なのですか?」
「全然! むしろ、リューク様なら当たり前だと思っているよ」
「でしょ。なら質問する意味ないじゃないですか。私はあの方に全てを捧げているから、あの方のために死ぬことに躊躇わないです」
もしも、その時が来たなら、この身を持ってお守りする覚悟があります。
♢
《sideアイリス・ヒュガロ・デスクストス》
皇国との戦を終えて、わたくしは新年のご挨拶をするために王都へ戻ってきましたの。年越し前に終えることが出来て、本当によかったですの。
テスタお兄様は、皇国で研究することがあるということで、まだ皇国に残っておりますの。
わたくしは信者たちに対して、聖女のお勤めを果たしますの。
新年の挨拶や、お布施の受け取り、回復魔法を施し(わたくしは誰にもしませんの)、挨拶にくる貴族をひざまづかせますの。
「ふぅ、年末年始は忙しいですの」
「アイリス様が聖女として務められて、すでに三年が経ちます。すっかり信者方はアイリス様を聖女として認められています」
「そんなのどうでもいいですの。わたくしはリュークに頼まれたから引き受けただけですの」
そのリュークも死んでしまって、代わりになる男性たちが寄ってはくるけれど。
リュークを超える男には出会えていませんの。
顔だけならチューシンも綺麗な顔をしていますの。
強さなら、ディアスポラは今まであった男性の中で一番ですの。
だけど、リュークが持っていて、二人には無いものがありますの。
「それと新年のご挨拶が済みましたら、今度は迷宮都市ゴルゴンへ式典の参加依頼が来ています」
「参加依頼?! 皇国に出かけて帰ってきたばかりですの。ちょっとはゆっくりできませんの?」
レイやキキを愛でる時間もありませんの。
ただ、久しぶりにあの子に会うのは嫌ではありませんの。
母方の従姉妹であるノーラは、オリガとは違って昔から顔をよく合わせていましたの。
ただ、変わった子だと思っていたら、突然図書館を作り出すなんて、本当に突拍子もないですの。
「わかりましたの。ノーラのためなら仕方ないですの」
「ありがとうございます。出発は三日後で一週間ほどの旅になります」
「わかりましたの。その三日間はお休みにしますの。よろしいですの?」
「もちろんです。アイリス様の体調が最優先です。ゆっくりとお休みになられてください」
それだけを告げるとチューシンは、事務仕事が残っているから立ち去りましたの。
「レイ、お風呂の用意をしてくださいなの?」
「かしこまりました。アイリス様」
「キキ、一緒にお風呂に入りますの」
わたくしが呼ぶと、可愛いお猿さんが、側によってきてわたくしの手に頭を擦り寄せますの。着ている服を脱がして上げて、一緒にお風呂に浸かりますの。
キキは従順でとても可愛らしいですの。それにレイもわたくしに尽くしてくれる良い従者ですの。
わたくしもそろそろ結婚を考える歳になりましたの。
だけど、リュークのことが忘れられなくて、婚期を伸ばしていましたの。
ヤマトの一件が決着しましたから、そろそろ心を決めても良いかもしれないですの。
「今回の式典が終われば、考えても良いかもしれませんの」
リュークの無念を晴らして上げたことで、気持ちに踏ん切りをつけて、わたくしは新たな恋に生きるんですの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます