第319話 王都は新年

 久しぶりに王都ダンジョンへ転移してやってきた。

 年越しを迎えたばかりの学園は、穏やかでのんびりした雰囲気をしている。


 ヒナタの母親は元々病弱な体で長く生きることは難しい。

 ただ、栄養を摂り、少しでも長生きできるようにミリルの指導の元で生活改善をしていく。

 その前にノーラに会って、ノーラの母親について話してあげて欲しい。


 王都にいる間は、ダンジョンマスタールームで過ごしてもらい。

 ボクは皆を置いて、クウとシーラスの迎えにいくことした。


 今回の図書設立を喜ぶ者として、シーラスは研究者の立場から行きたいと思っているはずだ。

 本来は、森ダンジョンの管理があるが、ボクの支配下に入っているので問題が起きることはない。

 それに学園も学生剣帝杯を終えて、休みの時期に入っている。


 シーラスを連れ出すのに絶好の時期である。


ーーーコンコン


「はい? どなたですか?」


 扉が開かれて、ボクの顔を見たシーラスは驚いた顔を向ける。


「リューク!」

「久しぶりだね。半年ほどになるかな?」

「ええ、あなたがカリビアン領に向かってからだから、それくらいになるかしら?」


 そっと研究室の扉を閉めて、鍵をかける。

 もう、誰も来ることはないと思うが念のために。


「会いたかったよ。シーラス」

「もっ、もう、こんなのダメよ。いきなり」


 口では拒否を言いながらも、ボクが抱きしめても拒むことはない。

 ボクはそのままシーラスを抱きしめて研究室の大きな机に座らせる。

 小柄なシーラスを座らせると高さが丁度良くなる。


「リュッ、リューク」

「困った顔をしたシーラスはとても可愛いよ。君は君のままいてほしい。君は真面目で研究が好きで、ボクと共通するところがあるから大好きだよ」


 キスをすると、真っ赤な顔になるシーラス。

 初めてじゃないのにいつまでも変わらない反応が可愛いね。


「もうもうもう、リュークはいつもそのような言葉で私を。わっ、私の方が年上なんですからね」

「うん。だけど君はとっても可愛いから、ついね。今日はイチャイチャもしたいけど、君を誘いに来たんだ」

「誘い?」

「ああ、一緒に迷宮都市ゴルゴンに行こう」

「えっ! どういうことです?」

「ノーラが作った世界最高の図書館。それが迷宮都市ゴルゴンにできたんだ! それに塔のダンジョンの攻略を協力して欲しい」

「塔のダンジョン攻略??? そんなことができると本気で思っているんですか?」


 今回のダンジョンは、今までとは違って攻略難易度が跳ね上がる。

 今までもダンジョンは、ボクなら余裕で倒せる相手だった。

 だけど、塔のダンジョンは、50階層を超えるとランクが一気に跳ね上がる。

 特に90階層以降は、ボクでも攻略できるのかわからない。


 そして、100階層。


 そこで待ち受けるダンジョンボスは、どんな相手で倒せるのか不明だ。


 本来のシナリオで魔王と戦わないという選択を迎えた際に、現れる裏ボス。


「本気だ。攻略するために君の力がいる」

「わかりました。そこまで私を求めてくれて、断るはずがありません。お供いたします」

「ありがとう」


 ボクはもう一度シーラスを強く抱きしめた。

 今度はシーラスもボクを受け入れて抱きしめ返してくれる。


「塔のダンジョンでは何が起きるのかわからない。ただ、強いだけの力では攻略できない場所も出てくるかもしれない。その点、シーラスがいてくれればボクとは違う発想を期待している」

「どれだけ役に立てるのかわかりませんが、頑張ります」


 ボクは学園からシーラスを連れ出して、森のダンジョンへ連れて行く。


♢ 


 もう一人、クウの迎えに行かなければならない。

 彼女は帰る家がなくて、未だに寮にいるはずだ。

 ボクが女子寮へ向かっていると、黒の塔から人影が飛び降りた。


「なっ!」

「主人様!!!」


 三階の高さから飛び降りたのは、金髪のウサ耳巨乳美女だった。


「クウか?」

「そうです!」


 半年前にあった時よりもさらに成長した姿は、獣人特有なのか? 急成長を遂げたクウはナイスバディーの女性へと成長を遂げていた。


「迎えに来るのが遅くなってすまない」

「それは大丈夫なのです。シロップ様からお手紙を頂いておりましたので」

「そうだったのか。今回の旅にはクウを同行させるようにシロップに言われていたんだが、クウはいいのか?」

「もちろんです。主人様のお側がクウの居場所ですから」


 控え目恥ずかしがり屋だったクウが、大人へと成長して物事をハッキリと告げられる人間になっている。


 ウサ耳がピクピクと動いてモフモフが可愛い。


「そうか、それでじゃ行こうか」

「はいです!」

「ちょっと待ってください! バル様!」

「うん? ああ、クロマ。君もまだいてくれたんだね」

「はうっ! 生バル様。ありがたやありがたや!」

「ふふ、君は相変わらずだね」


 ボクはクウから離れてクロマを抱きしめた。

 彼女は面白い反応をするので、結構好きだ。


「ピェ!!!!! いっ、いきなりのハグ!!! もう死んでもいい」

「死なれたら困るけど、君はエリーナ直属メイド隊に所属したと聞いたからね」

「はい! そうなんです。卒業後はリューク様の元へ行こうと思ったのですが、エリーナ様とアンナ様が強引に。シクシク」


 嘘泣きだね。君の実力なら二人から簡単に逃げられただろうに。

 ゲームの世界で怪盗サウザンドとして名を馳せる彼女は逃げ足の天才だ。


 そんな彼女が逃げないということは、エリーナとアンナのことを気に入ったのだろう。


「ありがとう、クロマ。君の実力を信じているから、二人を守ってやってくれ」

「バル様に直接頼まれてしまいました!!!」


 ボクはハグだけでなく、キスもプレゼントしておく。

 クロマとはなかなか話す機会がないので、もっと親密になりたいが、彼女は彼女で自由を愛する性質がある。それを縛ることはボクにはできない。

 

「命に変えても二人をお守りします。新年のご挨拶がしたくて待っておりました。明けましておめでとうございます」

「もうそんな時期か。あけましておめでとう」


 クロマは挨拶をすると、ボクたちを見送ってくれた。


「主人様、わっ、私もおめでとうございます」

「ああ。おめでとう」

 

 ボクが祝いの言葉を口にすると、クウが目を閉じて待っている。

 出会った頃は痩せ細って小柄な少女だったのに、立派な女性に成長した。


 ボクは優しくクウにキスをしてあげる。

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