第318話 式典参加者 1
《side聖女ティア》
式典への招待状を受けて、私は深々とため息を吐き出した。
新たな聖なる武器の兆し、それを所有している者の情報。
また、王国へ行かなければいけないのかと思うと気が滅入ってくる。
王国にあまり良い思い出がありません。
「ふぅ〜 気乗りしないわね」
私が王国に興味をなくした要因として、リューク・ヒュガロ・デスクストスの死が関係している。
正直な話、絆の聖騎士ダンへの興味は微塵もありません。勇者としての資質は確かに備えているかもしれませんが、男性としての価値が全く感じられないのです。
私の興味を惹きつけたのは、リュークでした。
彼の知謀と策略、大胆な判断力、そして、怠惰に過ごしたいと言いながらも誰よりも先じて動ける行動力。
他の男性などミジンコのように感じさせる素晴らしさがありました。
さらに、あの容姿。
あれほど美しく魅力的な男性がいるでしょうか? 百九十センチを超える身長は細いだけでなく、しっかりと鍛え抜かれた筋肉が引き締まっており、体に触れた時の男らしさは、今でも忘れることはできませんでした。
一人で慰めたことは一度ではありません。
「ふぅ、どうして死んでしまったのでしょうね」
「これはこれはティア様ではありませんか?」
「ロリエル。あなたはいつも芝居かかっていて、面倒な話方をするのね。普通に声をかけられないのかしら?」
十二使徒のロリエルは、顔は良いのに絆の聖騎士ダンと同じく、魅力を一切感じられない男性だ。
「私のような美しい者は常に舞台に立っているアクターなのですよ」
「はいはい。それで? 何か用かしら?」
「今度の式典に私も同行させていただけないでしょうか?」
「あなたが? 珍しいわね。あなたは王国剣帝杯で敗北して、王国に行くのは嫌じゃないの?」
ロリエルはエリーナ王女を昔から愛していたそうだ。
だけど、求婚して、氷漬けにされて、盛大に振られて帰ってきた。
しかも強引に迫ったことで、強制送還されて帰ってきたのだ。
どこまで恥の上塗りをすればいいのだろうか? 私はロリエルのメンタルが素晴らしいと思いながらも、ため息を吐いてしまう。
「もちろん嫌なことなんて何一つありません。むしろ、式典にはエリーナ王女も参加するって話じゃないですか? そんな場所に私が行かない道理がない!」
「いや、むしろ、来られたら迷惑だと思うけど」
私なら絶対に迷惑だ。もしも、ダンに求婚を迫られたら虫唾が走る。
「またまた、私のような美しい者を嫌う人などいないですよ。それじゃ、迷宮都市ゴルゴンに旅立つ際には一声かけてください」
勝手に話をして、勝手に帰っていくロリエルは相変わらず面倒な男だ。
お祖父様が亡くなって、現在は聖女派と新教皇派で対立が起きている。
十二使徒たちは私についてくれているけれど、新しい教皇は王国のアイリス様を聖女へ付けようと策を弄しているようすだ。
聖女アイリスは、王国と皇国の戦争の際に、敵味方関係なく回復の魔法を施して、救済したと言われている。
元々、皇国の玄武領と言うところは問題があると、通人史上主義教内でも話題に上がっていた。
戦争を仕掛け、玄武領の民は苦しみから解放してくれた聖女アイリスを崇め、大陸全土に聖女アイリスの名声を轟かせてしまった。
「アイリス様ご自身は、そういうことを望むタイプには見えなかった。どこもかしこも名声にあやかろうとする者がいて面倒ね。私だけが勇者と共に戦える力があるのに、わかっていないのかしら?」
もしも、私と聖剣が力を合わせなければ、魔王の脅威が訪れた時に対処できなくなってしまう。
極力、顔を合わせたくはないけれど、いざと言うときは力を貸すつもりだ。
「ふぅ、リュークが私の傍らで教祖になってくれていたら、どれほど幸せだったことでしょうね」
いない人のことを考えても仕方ないと思いながら、私の胸にはリュークの面影が残されている。
こんなにも恋焦がれる人と出会えるなど思いもしなかった……。
♢
《sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス》
王国第一騎士団が訓練を行う施設に入ると、フリーとダンの剣がぶつかり合っている音が聞こえてきた。
今年のアレシダス王国卒業生たちが、続々と卒業を決めて、それぞれの進路に旅立つ中で、王国第一騎士団にも新たな顔ぶれば入隊してきていた。
「ムーノ兄様、お邪魔するわね」
「エリーナか。どうかしたのだ?」
「迷宮都市ゴルゴンで、図書館設立の式典が行われることは聞いているのでしょ?」
「ああ、ユーシュン兄上が、デスクストス家が皇国との戦争を終えて戻ってくるから王都を離れられないと言っていたな」
「ええ、その代わりに私が派遣されることになったの」
「そうだったのか」
「ええ、アンナ、クロマ、ダンとフリー、それにハヤセを連れていくつもりよ」
「少数だな。大丈夫か?」
「ええ、ダンの指揮で数名の騎士も同行してくださるようだから、大丈夫だと思うわ」
今回の式典は、王国の名物になるかもしれない大きな施設が完成したことを祝うための式典だ。王国の貴族たちが集まる手筈になっている。
リュークも式典には参加すると言っていたので、私が行かないわけには行かないのだ。
「エリーナも王女として内政や外交を手伝っているのだな。教国から聖女ティア様も来られるそうだ。私とガッツ元帥はデスクストス家の動向を見極めねばならぬ。そちらも十分に注意して行くのだぞ」
「もちろんです。兄様もどうかご無事で」
「ああ。約束しよう」
迷宮都市ゴルゴンまでは、一週間ほどの馬車移動が必要になる。
リュークが居れば、バルニャンのクッション性でお尻も痛くないのだが、今回はバルニャンなしで向かわなければならない。
「ハァ、私もバルと一緒に行けたらいいのに」
「うん? 何か言ったか?」
「いいえ。それでは失礼します」
稽古の邪魔をする必要はないと判断して、ムーノ兄上に報告を終えると私は訓練所を後にした。
季節は変わり、雪が降り始めた王国はしばしの静けさを迎えていた。
私は迷宮都市ゴルゴンの方角を見て、リュークに会えるまでの道のりが険しいことに気持ちがどんよりと重くなった。
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