第317話 強さ
青龍のダンジョンを使って、カリビアン領の深海ダンジョンへ転移する。
久しぶりの自宅に帰ってきた。やっぱり落ち着くね。
宮殿を作られた当初は驚いたものだが、慣れてくると家として認識できるものだ。
「お帰りなさい! リューク!」
そういってリューの宮殿に入った瞬間にカリンに抱きしめられる。
「カリン。待っていてくれたの?」
「ええ、そうよ」
「ふふ、嬉しいよ」
ボクはカリンを抱き上げて、一緒にバルに乗る。
「いつも仕事をしている時間でしょ? 大丈夫なの?」
「今はリベラが代わってくれているの」
「リベラが? 珍しいね」
「ええ、リューク。報告があるの」
「報告?」
「その前にリュークに聞いておきたいんだけど、今後の予定を聞かせてくれる?」
カリンがボクの予定を聞くのは珍しい。
いつもはボクにはやることがあるだろうからやりなさいと言うのに、今回に限っては予定を聞いてきた。
カリンが聞きたいなら正直にいうけど、何かあるのかな?
「今後は皇国で見つけたノーラの血縁者を、ノーラに会わせるために迷宮都市ゴルゴンへ行こうと思っているんだ。図書館もできる頃だろうからお祝いも兼ねてね」
「そう、ノーラもそれは喜ぶでしょうね」
「うん。もう一年以上会えていないからね」
「そうね」
ボクがノーラのところに行くと伝えるとカリンは少し残念そうな顔をした。
「何か気になるなら、行かないでいようか? ボクはカリンの側にいる方が」
「ダメよ。リューク」
「えっ?」
「前にもいったでしょ。あなたは多くのことを成す人なの。そして、多くの子たちを幸せにするの。だから一週間だけ、私と過ごす時間が欲しいわ。私も休暇をとったから」
「なんだ。そういうことか、もちろん構わないよ。一週間はカリンのために使おう。二週間ほどリューに滞在してから、王都を経由して迷宮都市ゴルゴンに向かうよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
珍しくカリンの方から甘えてくる。
働き詰めなカリン。ボクが帰ってくるタイミングで休みをとってくれたのかな? それはそれで嬉しいな。
「カリンは何かしたいことはある?」
「うーん、普段が忙しいから、できればのんびりしたいかな」
「そうか、ならボクは久しぶりにカリンの料理が食べたいな」
「そうね。私もリュークに料理を作ってあげたいわね」
久しぶりに穏やかで怠惰な生活を過ごせることになった。
ヒナタ親子をミリルに預け、リベラとリンシャンが領主の仕事を代行していた。
シロップが育てたメイド隊は、ボクが帰ってきたことで本来の主人を得て張り切って働き出した。
シェルフが海の状況を説明に来て、自慢するように話すのがうざい。
カリン、ココロ、ミソラ、ユヅキ、ルビーと一緒に日向ぼっこをして、アカリが作ってくれたソーラーパネルや風車を使った電気製品のアイディアを話す。
リューで過ごす日々は楽しい。
忙しくはないが、適度に来客の処理をしている間に日が経っていく。
いつまでもこの時間を過ごしていたい。これが本来の幸せだと感じていた。
だけど、時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
二週間の時が経ってしまい、ノーラと約束した日が近づいている。
そろそろ出発しなくてはいけない。
「今日だね」
朝方に目が覚めると、カリンが横に寝ていて互いの目が合う。
ボクは今日の昼に出発しなくちゃならない。
カリンの髪を優しく撫でると、カリンは気持ちよさそうな顔をする。
「そうね。とても穏やかで幸せな時間だったわ」
「それなら」
「ダメだって言ったでしょ。あなたの時間はとても貴重なの。私のわがままで、あなたの貴重な時間を使わせてしまったわ。だから、今度はノーラのために使ってあげて」
「塔のダンジョンに挑戦しようと思っているんだ」
「そうなのね」
ボクは本来の目的をカリンに伝えた。
これは将来、王国に起こる危機を先んじて回避するために絶対に必要なことだ。この世界のバッドエンドはいくつか存在するが、その一つはエンディングの後にやってくる。
ダンでは、それを回避することはできない。
それは闇堕ちしたダンが攻略するはずだった裏ルートだから。
「いつ帰れるのかわからないのね」
「すまない」
「いいえ、わかっていたことよ。あなたは飛び出せば、事を片付けるまでは戻らない。今までもそうだったのだから」
「カリン?」
起き上がって朝日を浴びるカリンはいつも以上に綺麗に見えた。
「愛しているわ。リューク」
「ボクもだカリン。君を愛しているよ」
そっと、後ろから抱きしめる。
「だから、必ず帰ってきてね」
「ああ、約束する。ボクは死んだりしない」
「信じているわ」
ボクらは夫婦の会話を終えて、旅の支度を始める。
午後になり、旅支度を終えたボクの元に今回の同行者が顔を揃える。
ヒナタ親子。
ミリル。
ユヅキ。
ルビー。
五人が馬車へと乗り込んでいた。
「本当に今回は来ないのかい?」
ボクが質問を投げかけたのは、リンシャンとシロップに対してだ。
カリンと協力して領主の手伝いをするということで、リンシャンとリベラから同行ができないと言われた。
シロップは、メイドたちの指導強化があるため、今回は王都にいるクウを同行させて欲しいと言われてしまった。
「リューク」
「カリン。行ってくるね」
「ええ、その前に伝えておきたいことがあるの」
「うん?」
「報告があるって言ったでしょ」
カリンがボクを抱きしめてくれる。
そっと、耳元で囁くように「赤ちゃんが出来たの」と告げられた。
「えっ! えええええええええ!!!!!!!
「ふふふ」
「どうして旅立つ日に!!!」
「だからよ。そうじゃなかったら、あなたは私に気を遣ってゆっくりと過ごしてはくれなかったでしょ。それとリンシャンとシロップも」
「えっ?」
ボクが二人に視線を向けると、二人とも嬉しそうな顔を向けてくれた。
「そうか、凄く嬉しいよ!!! ボクの妻たちは強いね!」
ボクは泣きたいような、笑いたいような変な顔になってしまう。
「こんな幸せなことが待ってるなんて、確かに当日じゃなければ、ボクは行くことを躊躇ったと思う。いや、今でも行きたくない。だけど、それは君たちに望まれていないんだね」
「ごめんなさい。だけど、喜んでくれて嬉しいわ!」
「メッチャクチャ嬉しい!!! 三人ともありがとう!!! 絶対に体を大切にして元気な子を産んでくれ! もしも、君たちがピンチなら、ボクは世界の果てからでも飛んでくる! 約束するよ!」
ボクは一人一人を抱きしめてお礼を伝えた。
「主様」
「シロップ。ボクは凄く嬉しい! 君がずっとボクの側にいてくれたから幸せだった。それを次の世代に教えてあげられることが嬉しい」
「私も嬉しいです」
シロップがボクの胸で泣いてくれた。
「リューク」
「リンシャン、ありがとう。君がボクの心に寄り添ってくれて、君が子供とボクを心から愛してくれる人だって知ってる。だから、君との子を心から愛しているよ」
「ああ、私もだ。私の夫はリュークだけだ。何があろうと、私はこの子を守る」
リンシャンは力強くボクの瞳を見つめ返した。
彼女は変わらないな。
死ぬその時までその意志を貫き通すのだから。その瞳を知っている。
「三人とも、行ってきます。本当は行きたくないけど、ボクはボクのしなくてはいけない事をしてくるよ」
「行ってらっしゃい。リューク」
「行ってらっしゃいませ。主様」
「行ってこい。リューク」
アカリ、ココロ、カスミとも別れを告げて、ボクらはオウキが引く馬車に乗り転移した。
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