第311話 他の動き 終

《sideクーガ・ビャッコ・キヨイ》


 アオイノウエから神都に来れば、面白い物が見られると文を受け取って王都にやってきた。

 神都に来ると、いつも邪魔するハク兄貴の屋敷に向かったが、兄貴の姿はなくて仕方なく城へ向かった。

 

 帝国との戦いを報告する次いでもあり城を訪れると、巨大な雷が城を破壊して天守閣が崩れる。

 見上げた先にはありえない光景が広がっていた。

 

 伝説の霊獣、麒麟。


 その姿を見た者は幸福が訪れるというが、まさか皇国の神都に現れて雷を落とすなんて。

 これじゃ皇国と敵対しているようなもんじゃねぇか?!


 だが、どうして麒麟が現れた? 各地を守る霊獣たちは、依代となる者がいて初めて化現できる。

 だが、麒麟は何を媒介にした? 俺は嫌な予感がして城を駆け上がった。


 そこには事切れた親父と、術を使ったハク兄貴。空を見上げるバルがいた。


 麒麟がハク兄貴に攻撃を仕掛け、城を破壊して飛び去って行こうとする。バルはそれを追いかけた。


 二人の会話を聞いていれば、ハク兄貴が、いやハクが反旗を翻して、親父を生贄に麒麟を召喚したことになる。城を破壊して、親を殺したハク。


 飛び去っていく麒麟を見て、俺の足は竦んでいた。


「あっ、あんな化け物、白虎だって勝てねぇよ!」


 いくら白虎の力を借りようと麒麟を相手にできるとは思えない。荒ぶる雷鳴を何度防げるかわからない。


 それなのにバルは麒麟の前に立ち塞がった。


「麒麟と戦えるっていうのか?」


 確かにバルは強い。だが、雷に触れることも、あの鱗にダメージを与えることもできるはずがない。

 だが、俺の予想など全く意に返すことなく、バルはその身に武装鎧神楽とは異なる全身鎧を纏い、麒麟を殴り飛ばした。


「ありえねぇ!」


 唖然とする光景。


 だが、おかげで竦んでいた足に力が宿る。

 俺はしなくてはいけないことがある。


「バカはお前だ! この間にワシは」

「どこにいくつもりだ? ハクの兄貴」


 俺は城の瓦礫から這い出てハクに声をかける。

 居並ぶ侍たちを白虎の力で守ることができた。


「なっ! どうしてお前がここに? 白虎」

「ハァ、帝国との戦いを報告に来たら、まさかハクの兄貴が反乱を企てているとはな。あの戦いが終わったら、わかっているよな」


 麒麟とバル。


 俺にはできない戦いを他国の者に任せてしまっているのは情けない。


「うるさい! ワシは皇太子ぞ! 貴様の言うことなぞ誰が信じるか!」

「それはここにいる侍たち全員だろ?」


 俺は麒麟の雷から守った侍たちを見る。

 彼らは俺の後ろに立って、ハクを睨みつけた。


「バカな! 貴様らは皇太子の言うことが聞けないのか!」

「聞けませぬ。もう皇王様が亡くなられ、あなたは皇王様を殺した反逆者だ!」


 一人の侍が声をあげれば、他の侍たちも「そうだ、そうだ! お前は反逆者だ!」 そう言って声を荒げた。


「わっ、ワシにこんなことをしてただで済むと思っているのか! ワシは皇太子であるぞ! 神の子じゃ! ワシこそが神であり一番偉いのじゃ!」

「ウルセェよ。バカ兄貴! お前はもう兄貴でもねぇ。おい、ハク。親父はな。確かに愚王だったかもしれねぇ。だけどな、それでも俺たちの親父だったんだよ! 殺していいわけねぇだろ!」

「うるさい! うるさい! うるさい! 貴様に何がわかる白虎。好きに生きて好きに暴れ回るお前に。皇太子をしている私の気持ちがわかるはずがないだろうが!」


 俺たちは一触即発の状態で互いに力を解放する寸前。

 

 麒麟が力を解放した。


「なっ!」

「なんじゃと!」


 圧倒的な力は息をすることも苦しい。

 これはもう神の力だ。

 人が抗えるような力じゃない。


 畏怖によって、動くことができない。


「!!!」

「!!!」


 だが、それを超える圧倒的な魔力。


 それを放った相手に俺は唖然としてしまう。


 俺はとんでもねぇ化け物に喧嘩を売っていた。

 格が違いすぎる。


「あっ、あは、なっなんじゃあれは?! あんなものどうやって戦えば勝てるというのじゃ! 王国にはあんな化け物がいるのか? 皆はその力を測れなかったというのか? ……トラよ」


 膝をついて、涙を流すハク。


 上空では麒麟がバルに服従するように頭を下げた。


「ワシは大馬鹿者であった。相手の力量を見定めることもできないまま、戦いを挑むとは。己が手に余る力を使おうとして、皇国を破滅に向かわせようとしていた。ワシが見誤っておった」


 あまりにも圧倒的なバルの強さにハクが崩れ落ちた。


「随分と素直じゃねぇか」

「当たり前であろう。あの力を見せられて、抗える者がこの皇国にいると思うのか? ワシは、メイやヤマト、五大老の言葉を信じ。手を出すなと言った忠臣の言葉を無視した。本当に大馬鹿者だったのじゃ」


 急激に老け込んだハクは、先ほどまでの野心に満ちた顔はどこにもなく、打ちひしがれて真っ白な灰になっていた。


「そうか。ひったてい! 下手人ハク・キリン・キヨイは皇王殺しの罪である!」


 実の兄を捕まえる役目をやらされた。

 ここまでくればアオイノウエが俺をここに呼んだ理由まで理解できてしまう。

 

「すまぬ」


 横を通り過ぎるハクの言葉に、俺は奥歯を噛み締めた。


 上空にいたバルと麒麟の姿はいなくなっていた。


「これからどうすんだよ!」


 俺の言葉に答えてくれる者はいなかった。

 代わりに侍たちから向けられる不憫に思う瞳が、父親と兄を同時に失った今の俺には辛く、煩わしく思えた。


 麒麟が去った空は雨が降り始め、火の手が上がっていた城は鎮火した。


 俺は親父の亡骸を抱き上げて屋敷へと戻った。

 

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