第308話 謁見

 ハク・キリン・キヨイに呼び出されて、こちらの用意ができたことを伝えると、日程を告げる招待状が届いた。


「それで? 礼儀作法はできるんだろうね?」

「うん? 覚えるよ。バルが」

「どういうことだい?」

「バルニャン!」


 クッションだったバルニャンが女の子に変わって、チヨ婆の前に現れる。


「うわっ! なんだいこのガキは?!」

「うん? ボクの魔導具?」

「なんで疑問系なんだい!」

「とにかく彼女に礼儀作法の一通りを覚えさせてくれればいいよ。ボクの前で授業をやってくれると助かる」

「バル様は覚えないのかい?」

「ああ、ボクは大丈夫だ」

「よくわからないが、わかったよ」


 チヨ婆にバルニャンを預けて一通りの礼儀作法を叩き込まれる。


 ボクはその光景をユヅキの膝枕をしてもらいながら眺め、リン、シロ、ルビはアオイノウエにお座敷遊びや三味線などの楽器を習っていた。


 三味線はリンが一番上手かった。

 踊りはシロが、遊びはルビが得意でそれぞれの役割が上手い具合に分担されている。


「あんさんら、しばらくお座敷に出てはいかがどす? もちろん芸子として、お客様には一切触らせないことを保証します」


 ボクへ問いかけてきたアオイノウエに、彼女たちの意見を尊重すると答えた。

 今までもボクは彼女たちに強制したことはない。


「三人はどないどす?」

「私はしてもいいぞ。バルが謁見を終えるまでは私たちは暇だからな」

「いいにゃ! 遊ぶのも踊るのも面白いにゃ!」

「二人のことは私が守りますでの、大丈夫ですよ」

「よし! 決まりどすなぁ。せやったら着飾って、今晩からよろしくお願いします」


 アオイノウエに引っ張られて三人が出て行ったので、ボクはミソラと一緒にゴロゴロとして過ごした。



 謁見の当日がやってきて、新調した着物に着替えて髪を整えてもらう。

 

「はぁ〜見惚れるほどの良い男だね」

「私もこれほどの男性を見たことがないわぁ〜」


 チヨ婆とアオイノウエに褒められながら、嫁たちの前に姿を見せる。

 彼女たちも芸子の衣装を着ているので、いつもとは違う美しさがあり、輝かしい。ユヅキやミハルも綺麗に化粧をしてもらっていた。


「みんな綺麗だね」

「主様、その姿はズルイです」

「いつもより精悍だぞ」

「かっこいいにゃ!」

「素敵です」

「だっ、旦那様かっこいいのです」


 全員から称賛をもらって玄関で見送られる。

 チヨ婆が用意してくれた籠に乗って城へ登城した。

 お供はトビがしてくれる。

 本日は見すぼらしい着物ではなく、綺麗な着物に着替えて案内をしてくれた。


 次第に近づいてくる城は、王国のレンガ調の城とは違って、木造の大きな屋敷にも見える。


「ハク皇太子殿下にお呼びにより馳せ参じられた王国冒険者バル殿である!」


 トビが門番に対して声を張り上げれば、門番は待っていたとばかりに屋敷の中へと案内される。

 門を潜れば、敷地内に川が作られており、跳ね橋が下されて城の中へと入ることができる。


 敷地内に入って玄関に来たところで籠が止まる。


「バル様、籠はここまでになります。ここからはご自分の足でお願いします」


 城に入った辺りから体に怠さを強めている。

 陰陽術の一種で、呪い的な何かがあるのだろうと予測ができる。

 ただ、バルニャンを体内に取り込んでいるから、呪いもボクには通じない。

 ベイケイに陰陽術を習っておいてよかったね。


 屋敷の中へ入ると客間へと通されて、広い和式の部屋で待っていると呼ばれて謁見の間へと入った。


 居並ぶ武士たちの間をまっすぐに通って、お館様と呼ばれる人物の前にきてバルニャンが礼儀作法に則った挨拶をする。


「お初にお目にかかります。王国筆頭冒険者バルにございます」


 ピンと伸びた背筋が、ゆっくりと下げられ、お館様への敬意を表す。

 全てはバルニャンが覚えた礼儀作法を勝手に体が行ってくれる。


「よくぞ参ったでおじゃる。バル殿。我が十二代皇王キヨマロ・アマテ・キヨイでおじゃる」


 皇国ではお館様が名乗りを上げることが、最上級のおもてなしとされているらしいので十分に上手く行ったようだ。


「最上のおもてなしありがとうございます。本日は、ハク・キリン・キヨイ様の招待により参りました。ご招待ありがとうございます」

「良い良い、本当に良いぞ。よし、冒険者バル殿。我の物になるが良い!」

「はっ?」

「最上の喜びであろう? 我の物になれるのだ!」


 皇王の発言に侍たちだけでなく、ハクも動揺を見せる。


「お館様何を言われるのですか?」


 これは想定外の発言のようだ。


「お許しいただけません」


 皇王の発言に対して、ハッキリとした拒絶を告げる。皇王は驚きつつも、瞳が怪しく光を放つ。


「ここは皇国、我の意向が通らぬと思っておるのかえ? デアエ! デアエ!」


 皇王が片手を挙げると、見えている中庭や入り口になっていた襖の向こうに侍が刀を構えてボクを取り囲む。


「この城は我のテリトリーでおじゃる。陰陽術は準備が必要でおじゃる。しかし、準備を終えられた場所の力は絶大でおじゃる」


 顔を隠していた垂れ幕を掻き上げて顔を出した。


「選ぶがいい。我の物となるか、死を選ぶのか?」


 突きつけられる扇子。


 ボクは笑って皇王に返事をする。


「どっちも選びません。生きて帰らせていただきます!」

「痴れ者が! それが許されると思うな!」


 振り下された扇子を掴んで、皇王の首を絞めた。


「がっ、がは」

「バル殿! なんのつもりだ!」


 ハク・キリン・キヨイが立ち上がって怒声を上げる。


「ああ、ずっと言いたかったことがあるんだ」

「なんだ?」

「どうしてお前たち皇国の支配者たちはバカばかりなんだ? あまりにも賢い者が少なすぎる。もっと世界に対して目を向けたらどうだ?」


 ボクの発言にプルプルとハクの体が震える。


「貴様は許さん!!」


 怒髪天を突くほどの、怒声が部屋の中に響いた。


 

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