第303話 他の動き 8

《side ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロス》


 王国剣帝杯での失態は帝国に帰ってからも、私の心に悔しさと同時に今後の自分の目的を考える機会になった。


 一対一の戦いでは勝てない相手がいる。


 その事実を受け入れられない私ではない。

 だが、他のイシュタロスナイツだったとしても、私があそこまで手も足も出ないだろうか? そして、リュークには兄と姉がいる。

 もしも、その二人がリュークと同じぐらいの人物だったなら、魔の貴族デスクストス家を恐れなければならない。


 帝国はこの事実をもっと深刻に考えるべきだが、あの場にいたのは私だけで証明しようがない。

 何よりも、イシュタロスナイツ第四席ウィルヘルミーナ・フォン・ハイデンライヒ伯爵は今回の責任をとって自ら、イシュタロスナイツを辞任した。


 しかし、その代わりに商売権を獲得した。 

 王国の物流業に力を入れ始め、商売も順調に軌道にのっているそうだ。


 私は空席となった第四席に座り、皇国方面軍の指揮官へと抜擢されることになった。


「ふぅ、ずっと座りたかった将軍の座に着いたというのに、こんなにも気持ちが上がらぬものか」

「ジュリア将軍、失礼します」

「ソレイユか、なんだ?」


 王国剣帝杯で知り合った三人、ソレイユ、ゼファー、レベッカを直属の部下として招き入れた。


「妙な情報を手に入れたのでご報告に」


 ソレイユは吟遊詩人として、様々な場所に赴いて情報収集の役目を担ってくれている。私はリュークに敗北して以降。一人の力に限界を感じた。

 彼らのような優秀な人材を登用して、使うことに意識を向けている。


「妙な情報?」


 直属の部下を持つのは初めてのことだったが、彼らはやはり優秀で役に立つ。


「ええ、王国の皇国攻めが本格化するという情報だ」

「そういう情報ね。それがどうしたのかしら? うん? 待って、本格化するということは王国も皇国も痛手を負うわね」

「そういうこと」


 レベッカとソレイユは年上なので、私に軽口を聞く。

 それも心地いい。リューク以外では初めての歳の近い仲間という感じがする。


「レベッカとゼファーを呼んでくれるかしら?」

「もちろん。もう呼んでいます」


 そう言ってソレイユが扉を開けると二人が廊下で待機していた。


 私は三人と今後の展開を予想して、帝国の利になる動きを始めることにした。


 皇国という国は四つの領と中央区と言われる都がある。

 北は高い山が立ち、それを超えて王国は攻め入ったことは知っている。

 帝国にも隣接する峡谷があるので、もしも王国との戦争を考えるのであれば、注意が必要になる。


 帝国と繋がっているのは、北の玄武領と、西にある白虎領だが、玄武領に王国が攻め入った以上は同じところを攻めても利は少ない。

 ならば、王国の者たちがたどり着けない白虎領を攻めることが得策になる。


 だが、王国が大規模な攻撃を仕掛けて手薄になったところを一気に攻めたい。


「歩兵部隊の指揮はゼファーが。遠距離部隊の指揮はレベッカが、騎馬隊はソレイユが指揮をとって頂戴。私はそれぞれの部隊に指揮を与える」


 この国境戦は皇国が不利でなければ意味がない。


「タイミングが命だな」


 数日、皇国を挑発するように、それぞれの部隊に巡回をさせている。

 それは夜も昼も朝も続けて、三交代制で3万人の人数を導入した。

 戦えない子供や老人であっても、門に近づいて挑発を送ることはできる。


「三交代制で一週間。相手さんも相当参ってきているみたいですね」


 ゼファーは自慢の拳を打ちつけて、戦の始まりがまだかと躍起になっている。


「ああ、そろそろ良い知らせが来る気がするんだ」


 私はソレイユからの伝令を待っていた。

 彼女は指揮官の一人でありながら、情報収集が主な活動になる。

 今回のタイミングは、彼女の情報によって変わってくる。


「ジュリア様! 王国が動きました。その数1万。玄武領に雪崩込んでいきます!」


 伝令の言葉に私は重たかった腰を持ち上げた。


「時は来た! 今こそ、帝国の強さを示すときだ。深追いは要らぬ。弱った獲物にトドメを刺す必要はない。王国と皇国に帝国の存在を知らしめるのだ! イケー!」


 ここまで我々が攻めるフリをしていたので、またフリをしに来たと思った皇国兵は油断していた。


 油断していた場所に砲撃を放つ。


「レベッカ!」

「はいよ!」


 レベッカの砲撃によって襲撃を受けた門が穴を開け、歩兵部隊が立ち上がる。


「ゼファー! 一気に雪崩こめ」

「承知」


 私の指示で皇国への侵入を果たして、指揮する4000人が皇国に傾れ込んでいく。


「やらせねぇよ」


 突如現れた真っ白に黒い波のような模様が描かれた鎧武者。


「ゼファー」

「相手にとって不足なし」


 すでに相手をするために向かってくれたことで、ゼファーと鎧武者が相対する。


 激しい戦いが始まり相手を弱らせていく。

 一人しか指揮官がいないので、確かに強いが数で圧倒できる。


 鎧武者の周りにいたものが、一人また一人と倒れていく。


「指揮官を討ち取るのだ!」


 私の言葉に鎧武者は状況を理解した様子で、ゼファーから距離を取る。


「勝負は預けた」


 捨て台詞を吐いて逃走した鎧武者を追うことはない。


「勝利だ!」


 私の言葉に歓声が上がる。

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