第299話 他の動き 7
前書き
暴力描写が含まれております。
お嫌いな方は、どうぞ飛ばしてください。
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《sideアイリス・ヒュガロ・デスクストス》
わたくしはベルーガ辺境伯であるオリガに挨拶を来ましたの。
「アイリス。あなたは何のために皇国へ?」
「決まっているじゃないんですの。弟の仇を討つためですの」
「弟の?」
「ええ、わたくしの可愛いリュークのことですの。優しくて、美しくて、弱い子だったんですの。昔から、弱々しいとは思ってはいましたの。皇国のゴミに殺されてしまうなんて、可哀想な子ですの。姉として仇ぐらいは討ってあげますの」
「うん???」
わたくしの言葉にオリガは首を傾げましたの。
オリガには、リュークの愛おしさがわかりませんの。
家系としては、従姉妹になりますの。
それでもわたくしとは血の繋がりがありませんの。
それにオリガとはあまり話したことがありませんの。
会う機会が学園だけだったので、何を考えているのかもわかりませんの。
「君は、いや、いい。そういうことなら頑張ってね。後ろの二人を連れていれば問題はないでしょ」
わたくしの後ろに立つ二人は、
ディアスポラ・グフ・アクージ
チューシン・ドスーベ・ブフ。
「まぁ、二人がいなくてもわたくしは一人でも行きますの」
「そう。そうだ、皇国に行くなら、この秘境の温泉街にいくと面白い物が見れるわよ」
「温泉ですの?」
「ええ、お肌にもいいそうよ」
「行きますの!」
わたくしは早々にベルーガ領を出て皇国にまいりましたの。
オリガが教えてくれた温泉街を目指して出発ですの。
「アイリス様! どこに向かうんですか?」
「レイ、決まっているじゃないですの。温泉に行きますの」
わたくしたちは、温泉街を目指しましたの。
皇国は道路が整備されていないので、馬車を走らせても揺れて面倒ですの。
「アイリス様、どうやら誰かが戦闘をしているようです」
「温泉街はもうすぐですの。面倒ですの」
「どうされますか?」
「どのような状況ですの?」
決闘の邪魔をするなど無粋なことはできませんの。
「どうやら、皇国兵が二人の浪人を捕まえようとしているようです」
「そんなことですの? 罪人か何かですの?」
レイが報告した方角を見れば、美しい剣技を使うオジ様が、氷を纏って多勢を相手に二人だけで応戦してしましたの。
「美しいですの」
「えっ?」
わたくしは剣技に見惚れましたの。
百対二という状況でも輝くオジ様は素敵ですの。
ですが、意外な結末を迎えそうですの。
「チューさん。ディアスさん。行きますわよ」
「えっ? アイリス様?」
「レイ、援護射撃の用意を」
「はっ、はい!」
わたくしは迫る刃を傘で弾いてあげましたの。
「失礼、お邪魔しますの」
赤い鎧武者に白い鎧武者。
彼らが行った行為は、全く美しくありませんの。
「ごめんあそばせ」
「誰だ!」
「あら、人を名を尋ねるときは自分から名乗るように教わらなかったのかしら? 育ちが悪いお猿さんなのかしら? チューさん。ディアスさん」
「「はっ!」」
わたくしの意図を察して、ディアスさんが、刺されたお坊さんを助け出し。
チューさんが回復魔法をかけますの。
「なんのつもりです? 我々に敵対する意志があるとみなしますよ」
「敵対? はて、猪武者かと思えば、話をするお猿さんに敵対する気はありませんの」
「なっ! バカにしているのか?」
「おや、それはわかるんですの? 少しだけお利口なお猿さんですの」
「もういいです! あなたを敵と認識しました」
ふぅ、おバカさんを相手にするのは面倒ですの。
「ディアスさん。少し遊んであげなさい」
「はっ!」
お猿さんの相手を任せて、わたくしは座り込んだ盲目のオジ様に視線を向けますの。
「お邪魔しましたの。こちらで処理してもよろしくって?」
「あんさんは誰ですかい? 物凄くあっしの知り合いと似た気配をなさっておられる。なのに全く別だとも思える。不思議なお方だ」
「あら? あなたもお馬鹿さんかしら?」
「あっ、これは失礼しやした。あっしはイッケイ。命を救って頂いたのはあっしの友人でベイケイさんといいます。しがない浪人をしておりやす」
オジ様は、頭を下げてご挨拶してくれましたの。
先ほどの素晴らしい剣技といい、お猿さんとは違って素敵ですの。
「どうやら、あっちのお猿さんよりはマシのようですの」
「しかし、どうして?」
「美しくありませんの」
「えっ?」
「大人数で弱者を痛ぶるのも、勝てないからと卑怯な手で相手を貶めるのも、美しくありませんの」
「あっしらが弱者ですかい? いや、勝てないから卑怯。ふむ、なるほど。戦いに美学をお持ちということですかい?」
オジ様はわたくしを理解しようとしましたの。
ですけど、そんな浅い理解は入りませんの。
「そうではありませんの。全てのことは美しくないといけませんの。美しいは正義ですの。オジ様の剣技と氷はとても美しかったですの」
「はは、こんな歳になって美しいと言われるのは照れますな」
「だから卑怯で、卑劣で美しくない行為をしたあちらのお猿さんが許せませんの」
ディアスさんは本当に時間を稼ぐ程度に、糸を使ってお猿さんを翻弄していますの。チューさんを見れば、治療は完了したみたいですの。
周りの兵士は、脅威にもなりませんの。
残った中で目につくのは、白い鎧を纏った殿方。
顔は眉毛が太くはありますが、悪くはありませんの。
「あなた。お名前は?」
「人に名を聞くときは? ではござらんのか?」
「あら、女性同士のやり取りに口を出すだけでなく、揚げ足を取るなど心が狭い殿方ですの」
「ぐっ! 我が名は聖なる刀クサナギに選ばれし、聖刀使いヤマトでござんす」
「ヤマト? あなたがヤマトですの?」
「そうだ」
「リュークを殺したヤマトですの?」
「どうしてそれを? うん?」
「やっと会えましたの!」
妖艶にして、誰よりも美しい微笑みをプレゼントして差し上げましたの。
だって……。
「ぐはっ!」
わたくしの腕がヤマトの胸を貫いて、脈打つ心臓を抜き出しましたの。
真っ赤な花が咲きましたの。
「なっ!」
「ハァ〜! これはリュークに捧げますの!」
「か・え・せ」
醜く手を伸ばすヤマトに必要はありませんの。
わたくしはヤマトの心臓を高々と掲げて、握りつぶしましたの。
これはリュークに捧げる供物ですの。
事切れるヤマトに、もう一度微笑みをプレゼントしてあげますの。
「あなたの死すら美しくして差し上げますの」
「なっ! 何をしている!!!!」
ディアスさんの相手をしていたお猿さんが叫び声をあげますの。
「うるさいですの。お猿さん。ディアス。遊びはもういりませんの。チューさん、ディアスさんやっておしまいなさい」
「承知しました」「かりこまりました」
「舐めるな!」
雄叫びを上げるお猿さん。
チューさんは大規模魔法を持って、兵士を全て倒してくれましたの。
ディアスさんは糸を使って、お猿さんが着ていた鎧を切り刻んで捕えますの。
「あっ、あぁ」
ボロボロに切り刻まれて、仲間を失い、やっと自分の状況を理解したのか、絶望に顔を歪ませましたの。
「ふふ、やっと綺麗な顔をするようになりましたの。あなたはお猿さんだから、キキと名付けてあげますの。落ちなさい《色欲》よ」
「やっ、やめ!」
大罪魔法は恐ろしい魔法ですの。
魅力では成し得なかった精神の崩壊を可能にしますの。
「ウキっ?」
「キキ、いい子ですの。今日からあなたはわたくしの物ですの」
「これは!」
オジ様が驚いた顔をしますが、わたくしはオジ様を一瞥しますの。
「事情は説明しませんの」
「結構。助けて頂きありがとう存じます」
「ふふ、良いですの。美しい剣技と魔法の共演を見せてくれたお礼ですの」
「はっ!」
わたくしはキキとレイを連れて温泉に向かいましたの。
目的を達成できて気分がいいですの。
リュークへ捧げる供物はもうありませんの。
もう戦争なんてどうでもいいですの。
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