第297話 他の動き 5
久しぶりにカリンと一緒のベッドで眠った晩は、凄く幸せな時を過ごせた。
カリンと過ごす時は、ボクに安心と幸福を与えてくれる。
「リューク、そろそろ起きて。朝食を食べましょう」
「うん。ありがとう」
カリンが作ってくれた朝食は凄くおいしかった。
やっぱりカリンの料理が一番美味しいね。
食べるだけで元気になれるんだから、バフ効果が常に付与されていて凄いよね。
「一日なんてすぐに過ぎてしまうものね」
「そうだね。今頃、カリンがいなくなって、カリビアン領は慌てているかな?」
「それは大丈夫よ。私がいなくても困らないようには一応しているから。だけど、長くは空けていられないけどね」
カリンはボクと出会ってから様々な才能を開花させた。大勢の人々から必要とされている。
ボクなんかよりも、カリンは凄いことをたくさんしてきた。
「そろそろ戻らないといけないわね」
「うん。戻りたくないや」
「ダメよ。あなたにも、そして私にも仕事があるもの」
カリンを抱きしめてバルニャンで浮き上がる。
「このままどこか遠くに行ってしまおうか?」
「ダメだったら」
後ろから抱きしめたカリンの腰に腕を回して、片方で首をこちらに向けてキスをする。
「んんん。もう」
「愛しているよ」
「ええ、私もよ。でも、ダメ」
もう一晩ぐらい一緒にいたかったけど、それをカリンは許してはくれない。
君はやっぱりボクに一番厳しくて優しいね。
「はぁ、帰ろうか」
「ええ」
ボクらはカリビアン領のシーに戻った。
執務室に帰ってきた。
「おかえり。お前」
「ただいま。あなた」
カリンが抱きしめてくれる。
「行ってらっしゃい。あなた」
「行ってくるよ。お前」
これは二人だけのルール。
ボクが告白してずっと一緒にいたいと思う人。
「そうだ。また妻が増えて」
「手紙の子達ね。皇国の」
「ああ、二人を置いていく」
「良いの? 今は皇国にいるのでしょ?」
「だからだよ」
「そう、リュークのすることだものね。わかったわ」
「ありがとう」
カリンは事情を聞いたりはしない。
度量の大きさを見せつけてくれる。
「それじゃ、行ってくるね」
「はいはい」
ボクは、カリンにココロとカスミを任せて、シロ、リン、ルビ、ユズキを連れて皇国へと戻った。
♢
時はしばし遡る。
テスタの元に、書状が届いた頃。
皇国陣営、朱雀領では二体の武装鎧神楽が先頭を進む一軍が、青龍領へ向かって進軍を開始していた。
《sideメイ・カルラ・キヨイ》
メイ専用機武装鎧神楽、
真っ赤な鎧に刻み込まれた陰陽術は数知れず、王国冒険者バルを捕えるために完全武装で出陣するのは、相手への敬意を持っているからだ。
「ヤマト隊長。準備はできたかしら?」
「拙者は隊長ではござらん。今は一人の武士にございます。聖刀クサナギ及び、拙者専用武装鎧神楽、
真っ白に金色の紋様が浮かび上がる鎧。
「これほどの機体を拙者のために用意してくれたこと、メイ様には感謝のしようもない」
「聖なる武器に選ばれたあなたを放置しておくことは、皇国の損です。今回の働きを期待しているわね。冒険者バル。それに奥方を神都にいるハク兄上の元へ連れていく」
「わかっております。屈辱を味合わされた王国の民ではありますが、捕える任務。彼をリュークだと思って捕らえまする」
「王国では伝説的な冒険者だと言われているそうよ。あの剣豪イッケイも一目置くとか」
「イッケイ殿が! それは身を引き締めなければいけませんな」
二人は領境まで辿り着いて、青龍領の守護者と対峙する。
「何ようだ? 朱雀の戦巫女よ。それほどの武装をして物々しい」
「神都に座す、ハク・キリン・キヨイ皇太子様からの命を受けてきた。冒険者バル及び、その奥方を連行せよとの命だ」
「何? 我らにはそのような話は来ておらぬぞ」
青龍の守護者が怪訝な顔を見せるので、書状を見せた。
「確かに、ハク様の印だ」
「ここを通してもらう」
「それは構わぬが、我が領を荒らされるわけにはいかぬ。我々も同行させてもらうぞ」
「好きにするがいい」
青龍の守護者を引き連れ、青龍の戦巫女がいる歓楽街へと突入していく。
「物々しいや、あらへんの? メイ皇女」
「アオイノウエ。相変わらずヤラシイ姿をしているのね」
タワワに実った胸元を現にしているアオイノウエに対して、鎧を着込んだメイはお世辞にも妖艶とは言えない。
「ふん。さっさと仕事をすませてお帰りなんし」
「その前にお前に聞いておきたい。バルなる人物を見たそうだが、どうだった?」
「どうとは? お綺麗なお人やったよ。雅な歌舞伎者はんで、トラ様も偉く感心してはったわ」
「トラが? ふん、面倒なやつがいなくてよかったわ」
白虎領の守護者であるトラは、滅法腕が立つ。
武装鎧神楽、
「それで? 何を聞きたいん?」
「バルは強いのか?」
「なるほどな。そんなことをも知らずに相手のところに行くんかいな。相変わらず猪突猛進やね。成長しいひん人やわ」
アオイノウエの言葉に、イライラしてくるが、そのための情報収集にきたのだ。
文句を言われる筋合いはない。
「うるさい。素直に教えればいいのだ」
「はいはい。バル様は、武装鎧を着てないトラちゃんを圧倒できる力を持ってはったよ。それに一切攻撃せんでも相手を屈服させる技量もある。やめといた方がええんちゃう? あんたらやったら力不足やわ」
アオイノウエの言葉にピリッとした空気が流れる。
ここで失敗するわけにはいかないのだ。
冒険者バルを捕まえる。もしくは、殺す。
そうして初めて我々の汚名は晴らすことができるのだから。
「進むとしよう」
「聞いてはったん? 無理やと言うてますやろ?」
「それでも行かねばならぬのだ。我々は、王太子の命である」
「そうか、生きて戻ってきいや」
「最終手段は用意してあるのだ」
チラリとヤマトを見て、ここまで少数精鋭できた最終手段を使うか、視野に入れることも考えていた。
もしもの時は、ヤマト隊長の命を持って……。
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