第296話 サプライズ
《sideカリン・シー・カリビアン》
カリビアン伯爵となった私は日々の激務に疲れが見え始めていた。
時代の変化という大局を見定める緊張感。
領地を守る防衛力。
そして、様々な王国内のバランスを考えるために神経をすり減らす日々。
お父様から領地を受け継いでから一番に取り組んだことは、食糧事情の改善だった。戦争が始まることで、食料自給率は低下する。
王国、皇国、帝国、全ての国で自給率の低下が起こり食料問題がやってくる。
リュークは、それを先に予測して、私に食糧難に対する救済処置を提示してくれていた。
特に海産物に関しては、海の整備が行えたことで安心して海の幸を取れるようになり、海を挟んだ他国への輸出も上手くいっている。
そのため他の食料に関しても輸入することで、王国の食料問題を一手に引き受けても問題ない程度には貯蔵と管理ができている。
それもこれもリュークが管理する深海ダンジョンで保存ができるようになったことも大きい。
マーメイド族がリュークの配下になったことで、保存できる場所の確保と温度の管理をしやすくなった。
さらには船の運行時に海怪々たちが船の護衛に回ってくれている。
船に乗っているマーメイド族も、リュークから力を授かることで、レベルはカンストさせて、他国への輸送で襲ってくる海の魔物たちに遅れをとることはない。
海怪々と呼ばれる巨大魚たちは、リュークが支配するダンジョンの外を泳いでいる。それはダンジョンへやってくる外敵からの守護となっていた。
広い範囲でリュークが私たちを守ってくれていた。
「全てはリュークのおかげで上手くいっているけれど、彼はいつになったら帰ってくるのかしら?」
書類仕事ばかりをやっていたので、疲れて肩を叩いてしまう。
そっと肩に手を置かれて、驚いた私が振り返ると。
「ただいま。カリン」
リュークが私を後ろから抱きしめた。
「えっ? どうして? 今は皇国にいるはずじゃ?」
手紙が届いていたから、ベルーガ辺境伯領から、皇国に入ったとばかり思っていた。まさか皇国に行くと言って帰って来たのだろうか?
私にサプライズをするために?
「七月七日はカリンの誕生日だからね。君に会うために急いで来たんだ」
「覚えてくれてたの?」
「もちろんだよ。何年経とうと君が生まれた日だけは忘れない」
リュークは本当にズルい人。
「皇国での目的は半分果たしたからね。帰って来ちゃった」
「そんなあっさりと! リュークらしいわね」
「だって、ダンジョンを手に入れたら、ダンジョン内は移動が可能になる。温泉はいいんだけど。やっぱり家がいいね」
リュークは私を抱きしめながら、全身に回復魔法をかけてくれている。
疲れているのを悟って、癒してくれようとしているのだ。
こういうところが抜け目がない。
私が会いたくて、疲れたと思った時にいきなり現れて、サプライズで喜ばせてくれる。
「今回はどんな旅をしてきたの?」
「カリンのお仕事はいいの? いつまでも待つよ」
「今日ぐらいは、あなたのために時間を使ってもいいでしょ?」
「もちろんだよ。ありがとう」
私が立ち上がると、彼はダンジョン内転移を使って深海ダンジョンに移動して、海の景色を見せてくれる。
美しいシェリルたちによるダンスや歌を披露され、海で皇国の料理だという牛鍋をリュークが作ってご馳走してくれる。
いつもは私が作るのに、本日はリュークのお手製に驚きながら頂くと甘い醤油タレがとても美味しい。
「筆頭正室であるカリン様、お誕生日おめでとうございます」
「「「「「「「「「おめでとうございます!!!!!!!!!」」」」」」」
大きな魚が舞い踊り、私の誕生日を盛大に祝ってくれる。
煌びやかなショーが終われって、食事を済ませる。
また、彼が私を抱き上げると空中へと飛び上がった。
柔らかなクッションの感触が懐かしい。
「空の旅をしながら、帰ろう」
そう言って星が瞬く夜の散歩を終えると、王都にあるダンジョンルームへと降りたった。
領地からも離れたことで、すっかり私の肩の荷が降りてリラックスしてしまう。
「本当にありがとう、リューク。あなたからのサプライズに驚いているわ」
「数ヶ月前まではここで一緒に過ごしていたんだけどね」
「そうね。シロップとバルニャン、それにクウと暮らしているのは楽しかったわ」
「君が望むなら」
「ダメよ。リューク」
「えっ?」
彼は優しいから私が望めば、全てを切り捨てて私を選んでくれる。
だけど、それをすれば大勢の女性が涙を流してしまう。
「私は領地を放って置けない。それにあなたには私以外にもたくさんのあなたを慕う子たちがいるじゃない。彼女たちを蔑ろにしてはダメよ」
「ふぅ、やっぱり君が一番僕を働かせるよね」
リュークはやれやれと言った顔で怒られてくれる。
世界中を敵に回すようなことをしているのに、初めて出会った時から変わらない。飄々として、突拍子もないことをいうくせに私の前では戯けて、私を大切にしてくれる。
「ねぇ、リューク」
「うん? どうしたの?」
そんな飄々としたリュークに抱きついた。
今だけは誰もいないから、私だけのリューク。
「おっと、本当にどうしたんだい?」
「今日のあなたは私だけのものよね?」
「もちろん」
「なら、あなたにたくさん甘えさせて欲しいわ」
「いいよ。そのために今日は帰って来たからね」
きっと、今もどこかでリュークは大変なことをしている。
その旅に私がついていくことはない。
その代わり、いつでも帰ってくる場所でありたい。
「おかえりなさい。あなた」
「あなた? ふふ、ただいま。カリン」
「そこはカリンではなく、お前よ」
「お前? 失礼じゃない?」
「いいの。失礼なぐらいの扱いを受けたいの。リュークの特別な物って感じがするでしょ?」
「そういうものかな? わかったよ。お前に会いに帰って来たんだ。ただいま」
リュークは私を抱きしめて、お前と呼んでくれる。
お前と呼ばれて、私はリュークの物だって言われている気がして嬉しい。
恥ずかしくなって離れようとした私をリュークが抱きしめる。
「ダメ」
「えっ?」
「今はカリンが可愛いから離したくない」
「あっ」
《パチン》
彼が指を鳴らすと部屋の景色が変わってベッドが現れる。
「それと」
「それと?」
「ボクは思うんだ。最初はカリンがいいって」
「最初?」
「うん。ねぇ、カリン。家族を作ろうよ」
「えっ?!」
「君と子供を作りたい」
「あっ!」
彼はプロポーズの時も、今も本当に突拍子がない。
だけど、誕生日に帰って来てくれて、私を一番にしてくれる。
彼に私は惚れているのだ。
「たくさん愛し合いましょう」
「ああ、離さないよ。カリン」
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あとがき
どうも作者のイコです。
この話が書きたくて、前話の青龍の湖ダンジョン攻略を端折りすぎたかもです(^◇^;)
カリンの誕生日は七月七日ということで。
普段会えない主人公とメインヒロインを七夕で会わせてあげたいww
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