第295話 青龍の湖
青龍領は一年を通して気候が穏やかで緑が多く。
花々が咲き乱れ、住みやすい温暖な気候と時間が流れている。
のんびりとした雰囲気は、人々からせわしなさを奪い。
規律に縛られる窮屈さを取り除いた。
彼らの生活はボクにとって好ましく。
時間にも、人にも、お金にも縛られないまま、自由で優雅に、のんびりと怠惰を貪っている。
この素晴らしい場所をボクは心地良く感じている。
だからこそ、ボクはユヅキが持ち帰った情報を元にある場所へと辿り着いた。
潜伏している皇国の者に調査してもらうことで、情報は正確に、そして迅速に集めることができた。
「綺麗な場所だね」
「はい。桃源郷とも言われているとか?」
ボクの言葉にユズキが答えてくれる。
今回はシロ、リン、ルビ、ココロ、ユズキの五人を引き連れて、美しい桃源郷へと足を踏み入れた。
花々に囲まれた美しい巨大な湖が存在する。
桃源郷シコ。
皇国全ての飲み水を賄う湖があり、そこには一つの伝説が存在する。
青々しい風が泉より春の訪れを知らせる。
この穏やかでゆったりとした気候を作り出している存在。
皇国では神と崇められる存在が、この地に眠っているという。
「なんじゃお主らは?」
湖の畔に釣りをする一人の老人がいた。
面長な老人というには些か日焼けして健康的に見える相貌は、穏やかにも見えた。
「ご老体。この地に伝説の青龍がいると聞いて来たのですが。本当ですか?」
「青龍? はて、お主らは夢幻を探す冒険者かの?」
「そうです。王国から来ました冒険者のバルと言います」
「そうかそうか、こんな片田舎まで遠路遥々ようきなすった。しかし、ここは皇国の飲み水を賄うシコの湖じゃ。そのような青龍などという神はおらん。まぁ、飲み水が豊富にあるで、神様のおかげかもしれんがの」
糸の先に針はなく。
釣りをしているのは見た目だけで、ご老体は何も釣る気がないようだ。
「お久しぶりです。カザト・ソウショウ様」
ボクが話している横から、ココロがご老人に声をかける。
ココロの姿に、老人はしばし眼光鋭くこちらを見た。
「うむ。これはこれは珍しい客を連れてきおったな。星読みの姫巫女様ではありませんか」
「はい。ココロです。ユヅキが集めた情報と、私の星読みによって、この場へと導かれました」
これは嘘だ。
ボクはココロに占いをさせていない。
「うむ。なるほどのぅ、それでは言い逃れができんのぅ」
「はい。青龍様はここにいます。そして、カザト様が青龍の使いとして、この地を収めていることはわかっております」
「そこまで知ってどうだというのだ? 青龍などは、伝説上の生き物じゃ。存在せぬ」
「それはどうだろうな」
「なんじゃ?」
「あんたはどうやら違うようだが、そっちの少女」
老人の後にある古屋から、水色の髪をした少女がこちらを見ていた。
そして、ボクの目の前には、青龍の湖ダンジョンと表記されている。
目の前にダンジョンマスターの選択肢が現れる。
《侵略を開始しますか?》
《青龍の湖ダンジョンのダンジョンマスターがいます》
「お前は彼女に譲ったのか? それとも元々ダンジョンから生み出された化け物か? どうでもいいさ。ここからはダンジョンマスターとしての戦いをするだけだ」
《侵略を開始します》
ボクはダンジョンマスターに侵略を宣言する。
宣言によって、水色の髪をした少女がビクッと震えた。
「拒否せよ!」
彼女の反応から、老人が怒鳴るように拒否を口にする。
「黙れよ、爺さん。ここからはダンジョンマスター同士の戦いだ」
「うるさい! 小童が、我が孫を殺すつもりか? 許さぬ。許さぬぞ!」
五大老と言われた老人は姿を大蛇へと変化させていく。
「貴様らなど、我の敵ではないわ! 殺してくれる」
ボクは魔力障壁を作って大蛇の体当たりを受け止めた。
「なっ! 我の蛇人化を止めたじゃと! 貴様! 何者なのじゃ! 名乗れ!」
「さっきも名乗ったぞ。王国の冒険者バルだ。ランクはSSSだがな」
「なっ! SSSじゃと! そのような出鱈目を言うでない! 貴様のようなイレギュラーは知らぬ! ミソラよ。もっと我に力を寄越すのじゃ! こやつらに、この湖を奪われても良いのか?!」
大蛇の叫びに、ミソラと呼ばれた少女が何かを念じる。
すると、大蛇の頭が一つ、また一つと増えて、八つの頭を持つようになった。
「シャシャシャ! 力が漲ってくるぞ! レベルなど超えた超常者の力だ。わかるか小僧? すでに貴様の勝ち目はないのだ!」
「なら、ダンジョン侵略を受けるか?」
「よかろう。貴様の力など、この力があれば問題ない」
《静かな眠りダンジョン 対 青龍の湖ダンジョン の侵略戦が合意されました》
「死ね!」
互いのボス部屋とダンジョンコアだけの特別な侵略戦。フィールドが決まれば侵略が開始される。
侵略戦が成立すると同時に、八岐大蛇はボク以外の五人に対して同時に襲いかかった。
「頭は八つでも胴体は一つなのに、どうしてそんなに強気なんだ?」
ボクはバル装甲を右手一本に集中して、八岐大蛇の胴体を貫いた。
「なっ!」
「そんなにもデカい図体をしているんだ。撃ち抜かれる覚悟はしていたんだろ?」
胴体の次は、頭一つ一つを魔導銃で撃ち抜いていく。
「再生能力は、ダンジョンの力だったのかな? シロ、リン、ルビ、次は任せた」
「「「はい!!!」」」
ボクは八岐大蛇の倒し方を教えて、三人に託した。
「貴様!!!」
すぐさま復活した八岐大蛇に対して、三人がイッケイに学んだ剣術で、首を飛ばしていく。
ユヅキは指示を出さなくても、ココロを守るように後にさがり、ボクは八岐大蛇の後ろにいる少女に話しかけた。
「貴殿がダンジョンマスターだな」
ボクの問いかけに涙目になった少女。
見た目は15、6歳に見えるが、精神年齢はもっと幼いのかもしれない。
ココロとは違った少女の様子に、もう一度問いかける。
「降伏して、我が配下になるか、それともあの爺のように反抗して切り刻まれるか選ぶがいい」
青龍の湖は、八岐大蛇と言われる強力なボスモンスターだけで守られているようだ。
もしも、あの老人が青龍と言われているなら大層な名前であり、名前負けもいいところだ。
「ダメ!!!!!! お爺ちゃんをイジメないで!!!!!!!」
少女の涙と叫びは、膨大な魔力を溢れさせて、老人の再生速度を上げていく。
自分の体にも鱗を発生させる。
次第に、それは鱗が全身に広がり、身長が伸びて人と龍の間。
神秘的な見た目をした美しい女性が現れる。
「我は青龍!」
「黙れ!」
膨大な魔力を放出する青龍と名乗る女性。
だが、ボクはそれ以上の怠惰の魔力を溢れさせて少女の言葉を威圧した。
「黙れ、下郎。力で解決したいなら、二人とも消滅させるぞ! 降伏なら命を助けると言っているんだ」
ボクの魔力に青龍の女性と、八岐大蛇は動きを停止する。
この場に青龍の戦巫女や、守護者がいれば厄介だったのかもしれないが、現在の青龍領はそれどころではない。
「選べ。降伏か、死か?」
ボクは魔力を高めながら、全身にバルを纏っていく。
全身が紫の鎧に包まれ、魔力が拳に集まっていく。
巨大な青い龍は、八岐大蛇を凌駕するほどの大きさだったが、ボクと対峙したまま固まっていた。
「死んでみるか?」
ボクの問いにくたびれた老人と泣いている少女が姿を見せる。老人が膝を負って頭を下げた。
「孫を生かして頂けますか?」
「約束しよう」
「ならば、我が命を持って敗北を宣言いたします。どうか、孫だけでも」
「うっうぇ! お爺ちゃん嫌だよ。私を置いていかないで」
「仕方ないのだ。青龍は自由。ミソラ、お前は自由になり、春の訪れを告げる風がやってこられたのだ」
「お爺ちゃん死なないで!」
涙を流す祖父と孫にボクは力を納める。
「殺しはしないさ。お前らが従順であるならな」
「バル様に残りの生涯を尽くします」
「つっ、尽くします!」
降伏を宣言された。
《勝利者は静かな眠りダンジョンマスターバル。勝利者特典が開示されました》
・ダンジョンの吸収
・ダンジョンレベルアップ
・ダンジョン内転移範囲拡大
・召喚種族の増大
・神獣の召喚
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