第291話 招待
ボクらが皇国に入って一週間が経とうとしていた。
イッケイが紹介してくれた温泉宿を根城にして、ボクはベイケイに先生となってもらい陰陽道の勉強をしている。
陰陽道は学べば学ぶほど奥が深く。
陰陽術から派生した二つの勉学まで存在した。
陰陽術は、陰と陽の相互関係、自然の法則、五行の相克や相生などを研究し、それを応用して人間や自然の健康や幸福を追求するもので、占いや、魔力と合わせた術を使うことができる。
この術は、魔術や呪術的な要素が含まれることがあり、魔力を使ったり、妖怪との交渉や制御を試みる。
鬼術は、妖怪や鬼の力を操ることで、保護や攻撃、使役などの目的に使用されることがある。
星の運行や星座、宇宙のエネルギー、天候の変化などを研究し自然を操る力とも言われている。
それを利用した占星術や天文学的な予測、天候制御などが含まれていることがあり。天術は、宇宙の力や天の摂理との調和を追求し、人間の運命や繁栄に関わる要素を考えるものです。
陰陽術は、様々な場面で応用が効く術として知られており。
鬼術は、魔物を使役したり、相手を呪うなどの禁術とされ。
天術は、湿度や温度、風の流れを読むことで天気を読み、地震や津波などの災害を予測する。
ベイケイは博識で、様々な知識を教えてくれる。
ボクはダンジョンマスターとして、すでに鬼術に似た力を持っている。
さらに、天術は学問として気象予報師のようで面白い。
ボクが勉強を楽しんでいる間。
シロ、リン、ルビ、はイッケイの元で剣術を習い。
ココロはのんびりとご飯を食べて昼寝をしている。
そんなボクらの元へかすみが招待状を届けてきた。
「ハク・キリン・キヨイからか」
カスミは膝をついて、ボクとイッケイに手紙を渡す。
「名義上は、あっしとバル様宛で送られて来ておりますな」
「だね。どうやら垂らした糸に食いついたようだ」
手紙の内容をイッケイが教えてくれた。
剣豪イッケイに対して、これまでの功績を称えて褒美を与える。
また、剣帝アーサーと互角に戦った実績を認め、神都の兵士に対して指南役として務めよ。
明らかに命令するような言葉に、皇国の上下関係が伺える。
皇国では、お館様と言われる皇帝が絶対的な存在として、国民には知られている。
その皇太子であるハクの命令に逆らう者はいないとされていた。
そして、ボクに対しての手紙には、海外からの旅行者を歓迎する文面と、お連れの奥様方を連れて、神都にきてほしいという願い。
それは王国からの客人を歓迎する準備ができているという内容だった。
テスタと戦争しているとは思えない歓迎っぷりに裏があることは、すぐに読みとれる。
「どうするんです?」
着物の中へ手を入れて腕を組み、自分の髭をさするイッケイが問いかけてくる。
ボクはバルにもたれさせて、深々と息を吐いた。
「イッケイこそどうするの?」
「本来であれば、お断りして終わりでしょうな」
剣豪イッケイは縛られない。
強さだけを求めているから、国やルールに縛られて自由に動けないことを嫌う。
ボクから見て、剣豪イッケイは良い歳だ。
この機会に士官して、安定した職に就くのは良いと思うが、そう思わない御仁なのだろう。
「だね。イッケイは、自由に生きているからね」
「くくく、それをわかってくださるバル様はやっぱり面白い人だ。バル様が力添えを望まれるのでしたら、あっしはお供させて頂きますよ」
ここまでカッコいいオジさんにお供をしてもいいと言われるのは嬉しいね。
「その代わり、前から話している通り。あっしと真剣勝負をお願いしたいですな」
熱烈な死合いの申し込み。
剣帝アーサーとの戦いでイッケイは死に損なった。
剣豪イッケイは、自分の敗北を恥じ。
剣帝アーサーを超える人物との戦いによって死にたいと言っていた。
「ブレないね」
「それがあっしの望みでござんす」
剣豪イッケイをこの旅に誘ったとき、お願いされて一度だけ模擬戦をした。
その一度で剣豪イッケイは、ボクとの死合いを条件にこの旅に参加した。
ボクは承諾してないけどね。めんどうだから。
「まぁそのうちね」
イッケイのことは一先ず話を終え、ボクは手紙の内容に目を落とす。
皇国の中枢に行くということは、陰陽術でどんなことをされるのかわからない。ベイケイがボクの先生としてよくしてくれている。
だが、そのベイケイから、陰陽術は使う者によって全く異なる力として使えてしまうとも教えてくれた。
「まだ、時ではないよ」
「時ではない?」
「うん。この手紙の招待をボクは受けるつもりだ」
「ほう、相手の腹の中へ飛び込むと?」
「まぁそうだね。だけど、博打を打ちに行くわけじゃない。その前にやらなくちゃいけないことが二つほどあるからね」
「やらなくちゃいけないことですかい?」
「うん。だから、カスミ。返事はこう書いて」
「はっ!」
ボクは、ハク・キリン・キヨイに対して手紙を代筆してもらう。
『皇太子陛下ハク・キリン・キヨイ様
拝啓
ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
神聖なる御言葉を頂戴し、心より感謝申し上げます。
このたび、貴殿の御召しにより、拝命を賜りましたことを心より光栄に存じます。誠にありがたく、喜んで御招待にお応えいたします。
ただ、現在は体調が優れず、すぐに参上するわけには行きません。
この重き招きに心からの返事を致します。
尚、訪問の日時や詳細につきましては、体調が戻り次第、決定させて頂きたいと思います。
謹白 冒険者バル』
「くくく、あはははははは」
ボクの手紙を聞いたイッケイが笑い出した。
「うん? 何か面白かったか?」
「ええ、ええ。面白いところだらけですよ。あっしはそんなにもひねくった文章を知りやせん」
「そうか? 体調が悪いからすぐにはいけませんと言った文章だぞ」
「ふふ、まず相手を立てているようで、全く立てておりません。皇太子の命令は絶対だと思っているでしょうから、それを自分の体調で延期して、しかも決定するのはこちらだと言っておりますからな。気位の高い者が読めば怒り狂うでしょうな」
イッケイの言葉にカスミも頷く。
「そうか、う〜ん、まぁいいか」
「いいのですかい?」
ボクが面倒そうにいうと、イッケイは驚いた顔を見せる。
どうやら指摘すれば、修正すると思っていたようだ。
「ああ、このままで十分だ。カスミ」
「はっ! お届けしてきます」
「イッケイは返事どうするの?」
「そうでござんすね。ならば、私もお受けはしますが、目が見えぬ身。バル様にお供して頂き馳せ参じます。と書いてくだせぇ」
「おいおい、ボクをダシに使うのか?」
「それで面白いでしょ?」
「まぁね」
カスミは二人分の代筆をして、ハクの召使いに手紙を渡した。
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