第276話 王国剣帝杯 19

 選択されたフィールドは岩場で、互いの陣地の間に一本道を通らなければ攻めいることができないようなアレンジフィールドだった。

 

 ボクは最初の配置として、指揮官は絶対に配置しなくてはいけないので、指揮官と兵士8、弓兵1、騎士1、商人1を配置している。


 兵士は陣地を守るように配置され、ウィルによって一体を撃破された。

 現在兵士7となり、逆に弓兵によって倒した騎士を自分の兵として自陣に置いたので騎士2になっている。


 控えとして6個の駒は後から配置するために備えており、相手は全ての駒を陣に配置していた。


「わかりませんな。なぜわざわざ不利なことをなさるのか、配置した駒はすぐには動けませぬ。すでに配置された駒を全て撃破されても困る。リソースを使うための駒をそれだけ配置していない時点でカードも使えない」

「人の心配をするほど、ウィルが余裕なら、ボクはそのスキをつくことしかできないからね」

「これはこれは手厳しい」


 定石を終えて、戦いに移行する流れができつつある中で、ボクは話題を変えることにした。


「そうだ。元々帝国で商人をしていたんだったな」

「はい。そうでございます」

「どうして王国に来ようと思ったんだ」

「それは、意なことをおっしゃる。商人たる者、商気と思えばどこへでも馳せ参じるものでございます。此度の王国剣帝杯は多くの人々が集まり、物流も動くことでしょう。こうしてバル様のような高貴なお方に会えましたしね」


 互いに駒を動かして、陣地を広げて領土獲ればリソースを増やす。

 数枚のカードを手元に置いて戦いの準備は整った。


《実況》「王国剣帝杯第二回戦第二試合一人目!!!戦争請負人ディアスポラ・グフ・アクージだ!!!最強の糸使いは、どのような虐殺ショーを見せるのか!」

《解説》「対戦相手は、かなりの強敵を相手にしなくてはいけませんね。今回の大会で優勝候補は剣帝アーサーに次いで二番目です」

《実況》「それでは対戦相手の抽選です。対戦相手はこいつだ!!!教国の熟練修行僧チャーチャイ!!!」

《解説》「これはまた異色な二人が出揃いましたね」

《実況》「戦争家と修行僧とはどのような戦いになるのか想像もできませんね」


 モニターから聞こえてくる実況に二回戦の開始が告げられる。


「ボクは帝国に行ったことがないんだ。どんなところなのか教えてくれないか?」

「そうですね。帝国は常に戦争をしている国です」

「ああ、すでに10年以上侵略戦をしているんだったな」

「ええ。そのため小国はほとんどが滅んで帝国に吸収されました」

「ウィルも滅んだ国の出身なのか?」


 ピクッとウィルの肩が揺れる。


「……いえいえ、私は元々帝国出身ですよ」

「滅んだとしても帝国だろ?」

「……バル様は王国の方なので、お分かりにならないかもしれませんが。元々帝国出身者と、滅ぼされて帝国に与した属国とでは意味が全く違うのです」

「そんなものか?」

「お間違い無いようにお願いします。そこには天と地ほどの差があるのですから」

「随分と意識が違うのだな」

「もちろんです」


 ウィルが見せる動揺は盤面にも現れる。


 激しい攻防を仕掛けるウィルだが、ボクが仕掛けた罠にじわじわとハマり出す。


「うん?」

「どうかしたのか?」

「いえ、いつの間に」


 ボクはゆっくりと兵士だけを前に出して領地の拡大をしていた。

 それに対してウィルは全ての駒を上手く使おうとして、リソースを消費していく。


「どうやらバル様の戦略にまんまとハマっていたようです。まさか、消費されるリソースを使う駒を制限することで、抑えるとは」

「なぁ、ウィル」

「はい」

「帝国は通人至上主義教に反して、亜人を多く雇用しているな」


 ボクは先ほどの帝国至上主義を唱えるウィルの態度をさらに刺激してみることにした。


「ええ。そうですね」

「亜人が帝国人に多いのか?」


 バカにした意味に取られてもおかしくない言い方をすれば、ウィルの肩がまたも揺れる。


「何をおっしゃるのですか? バル様。亜人など属国の端くれに過ぎません!」


 その表情はいつかどこかで見た宗教家のようだった。


「そうか。確か帝国のイシュタロスナイツには、巨人の末裔がおられるとか?」


 ウィルの額に青筋が浮かぶ。

 本来であれば、カードを使って攻勢に出る場面で、ウィルは駒を前に進めた。


「確かにイシュタロスナイツには、巨人の方がおられます。ですが、あれは陛下がお優しいため野蛮な巨人を雇用したに過ぎません。本来であれば帝国人のみでイシュタロスナイツを構成するべきだと私は思うのです」

「そうか、ウィルはそのように感じるのだな」

「当たり前です! 帝国の民であれば誰もがそう思うでしょう!」


 僕の兵士を攻撃した騎士が、またも弓兵に倒されてこちらの騎士は3。

 兵士は6になった。

 ウィルは兵士をリソースに変えて、特殊カードを引く。


《実況》「決着!!!戦争請負人ディアスポラ・グフ・アクージ!!! 強い強すぎる!!!」

《解説》「圧倒的でしたね」


 いつの間にか第二試合も終わりを告げていた。

 僕は盤面に増えた駒を見つめ、自陣に工作員と魔術師を配置した。


「今更遅いですよ。私は特殊カードを発動。魔術師の特殊効果発動」


 魔術はカードと合わせて魔法を使う。


「大規模魔法を発動、牛歩。今より2ターンの間。相手プレイヤーは1〜3の数字しかダイスは認めない。それ以外は無効とする」


 騎士が奪われたことで、三すくみを警戒したウィルの特殊効果にボクは笑ってしまう。

 

「ウィルは商人で、将軍では無いんだな」

「なっ! どういうことですかな?」


 ボクの言葉が相当気に入らなかったのか、これまでとは違う。

 本気の怒りを表す瞳をボクに向けてきた。

 それはこれまでの動揺が蓄積した結果なのかもしれない。


「だって、将軍なら、わざわざ不利な戦いはしないだろ?」

「それはどういう?」


 ボクは自分の駒を引いて、戦闘をしないで退却した。


「なっ! はっ恥ずかしく無いのですか?」

「う〜ん。ウィルは知らないみたいだから教えてあげるよ。戦場ではね。戦わないで、相手が自滅するのを待つのが得策なんだよ」

「くっ! 2ターンもあるのですよ!」

「好きに攻めてきたらいいよ」


 ボクの言葉にウィルはそれぞれの駒を動かせる範囲で、突撃を仕掛けてきた。


 一本道にウィルの駒が列を成して並んでいる。

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