第273話 王国剣帝杯 16

《sideダン》


 俺は目の前で繰り広げられた光景を一生忘れることはない。


 剣を極めた者同士の最高峰の戦いが始まろうとしていた。

 

《実況》「風雲急を告げる!!! 剣豪と剣帝が運命の戦いを繰り広げます。空気が緊迫し、二つの剣が交わる瞬間、物語の舞台は激しい戦闘シーンへと変わっていく!」

《解説》「剣帝アーサーは美しく風格ある姿勢で、優雅な雰囲気と冷徹な眼差しを向けていますね」

 

 剣豪イッケイが一刀を震えば空気が振動して、凛とした氷の刀が舞い、敵に対して容赦ない攻撃を繰り出した。


 対する剣帝は燃え盛る炎を纏った剣を携えて、圧倒的な剣技をもって、氷の刃を焼き尽くす。


 戦闘が始まると、二つの剣は、剣豪と剣帝の間で交錯して、無数の衝撃波が生まれた。

 剣豪の氷華の刀は冷たい風を纏い、剣帝の炎舞の剣は熱い炎を纏いながら吹き荒れる。

 空中で交わる剣の音と炎の踊りは、まるで天地の力がぶつかり合うようだった。


《実況》「息をすることも忘れてしまう、両者のぶつかり合い! これが剣を極めし者同士が剣を交えると言うことなのですね!」


 剣豪イッケイの氷華は冷静かつ精密な剣技で剣帝アーサーの攻撃を受け流し、機敏に反撃する。

 剣帝アーサーの炎舞は力強い一撃で氷華の剣を押し返し、炎の渦で剣豪イッケイを包み込もうとしていた。


《解説》「剣豪は敏捷さと鋭い洞察力を駆使し、剣帝の攻撃をかわし続けます」


 瞬時に相手の弱点を見抜き、必殺の一撃を狙っている。

 息ができないほど緊迫した時間は長くは続かない。


 究極の瞬間が訪れた。


 剣帝アーサーの炎舞が一瞬間に剣豪イッケイの氷華に迫る。


 剣豪イッケイは剣帝アーサーの予測を超えた速さで反撃し、氷の刀が燃え盛る炎に突き刺さった。


「アーサー師匠!!!」


 俺は気が付けば叫んでいた。


 炎と氷が交じり合い、壮絶な光景が広がっていく。

 剣帝アーサーと剣豪イッケイの力が衝突し、闘技場が凍りついた。


 しばらくの間、静寂が続き……。


 両者の力が嵐のような風を巻き上げ、雲が割れる。

 その場には倒れた剣帝アーサーと、傷ついた剣豪イッケイの姿があった。


 どちらが勝利したのか、その答えがどっちなのか、会場中がザワザワと騒がしくなって、皆決着を告げらるのを固唾を飲んで見守った。


 剣豪イッケイと剣帝アーサーによる両者の死力を尽くした、最高の戦いだった。


《実況》「今夜の戦いは伝説として語り継がれる戦いでした」

《解説》「人々は、この壮絶な戦いを未来永劫忘れることはないでしょう」


 倒れていた剣帝アーサーがゆっくりと立ち上がり、傷つきながらも立っていた剣豪イッケイはそのまま前へと倒れていった。


《実況》「勝者!!! 剣帝アーサー!!!」


 会場中が今までにないぐらい騒がしく歓声を上げる。


《解説》「最高の試合で、第一回戦を終えることができました」

《実況》「これにて王国剣帝杯第一回戦全試合を終了します。八強が出揃いました」


・教国が誇る十二使徒が一人 妖星のロリエル

・銃剣士レベッカ

・邪道M騎士、性駄犬師ダン

・流浪の剣士フリー

・戦争請負人ディアスポラ・グフ・アクージ

・吟遊詩人ソレイユ

・教国の熟練修行僧チャーチャイ

・剣帝アーサー


 俺はアーサー師匠の控え室へと飛び込んだ。

 闘技場から帰ってきた師匠は、控え室に入ってくるなり倒れた。


「師匠!」

「おう、ダン」


 俺は倒れるアーサー師匠を受け止め、用意されているベッドに運んだ。


「悪いな」

「いえ、凄かったです!」

「おう。俺にとって、史上最強の敵だった」


 剣豪イッケイは意識を失って、担架で運び出されていく。


「最高の戦いを見せていただきました」

「おいおい、まだ戦いは終わったわけじゃないぞ」

「はい! 師匠。俺があなたを倒します」

「くくく、言うじゃねぇか。あの戦いを見ても俺を倒せるか?」

「わかりません。ですが、俺はアーサー師匠に憧れるのをやめます!」

「ほう」

「この王国剣帝杯だけは、師匠の敵として勝ちにいきます」

「くくく、やってみろ」


 師匠はボロボロの体で聞き腕を上げて拳を握る。


 俺は師匠の拳に自分の拳を当てた。


「待っているぞ、ダン。戦うときを」

「はい!」


 控え室の扉が開き、ハヤセに呼んでもらっていた医療班が入ってくる。


「今は、ゆっくり休んでください」


 それ以上アーサー師匠は語ることなく治療が始められた。

 俺は部屋を出て、外で待っていたハヤセを見る。


「話せたっすか?」

「ああ、俺は本気で優勝するよ」

「顔付きが変わったっすね。男前っすよ。ダン先輩」

「おう!」


 師匠の戦いは凄かった。


 あれに負けない戦いをしよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《sideタシテ・パーク・ネズール》


 ベルーガ辺境伯領ヒレンにも、薄暗い路地は存在する。

 人が集まる場所には影ができ、影の中で蠢き金を稼ぐ者たちは後を経たない。


「情報を買いたい」


 荒くれ者たちしか立ち寄らない酒場の店主に、特殊な王国金貨を見せて情報を求める。


「これは! あんたほどの大物に出会えるとはな。ウチで扱っている情報なんて、オタクなら全て揃っているんじゃないのか?」


 店主は嫌そうな顔をして、手に持っていたグラスを拭き始めた。


「御託はいい。私はある方の命を受けて早急に情報を調べる必要があるのだ。本来であれば自分たちで調べる情報を買い取ると言っている」


 本当ならば、時間をかけて確実な情報をリューク様にお届けしたい。

 だが、二日と自ら口にしたことを違えることはできない。


「そうかそうか、それは光栄なことだな。だが、安くするつもりはないぞ」

「もちろんだ。情報こそ金になる。それをわかっている者から安く買うつもりはない。金でも情報でも取引しよう」

「いいだろう。なら……」


 店主から買い取った情報と自分達独自で調べた情報を照らし合わせる。


「どうやらここに来て正解だったようだ。それで? 何を欲する?」

「金貨100枚もしくは、王国貴族の情報を三つだ」

「ふむ。王国貴族は聞きたい情報によって金貨100枚以上の価値があるが?」

「……エリーナ王女様、ゴードン侯爵様、セシリア侯爵令嬢のスリーサイズを知りたい」

「それを知ってどうする?」

「……貴族のスリーサイズは高く売れるんだ」

「わかった。エリーナ王女が80枚、ゴードン侯爵100枚、セシリア侯爵令嬢50枚の価値がある。どうする?」

「くっ! わかった。もう一つ特大のネタを提供する」


 酒場の店主から得たベルーガ辺境伯の情報は、これからのリューク様にとって有益と判断した。


「よかろう。そのネタで全てを売ろう。悪用はするなよ」

「もちろんだ」


 交渉が成立して、私は店を出た。


 

 

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