第272話 王国剣帝杯 15

 タシテ君に動いてもらっている間に、ボクはダラダラと休息を満喫していた。

 久しぶりにクウがボクの元に帰ってきて、クロマも連れてきた。

 二人はすぐにメイド服に着替えて、ボクに奉仕を始める。

 クウが入れてくれるお茶を飲むのも半年ぶりなので、美味しいね。

 アレシダス王立学園に通っていた二年間はずっと入れてもらっていたから、懐かしく感じるよ。 


 普段はシロップとカスミがお世話をしてくれている。

 そこにココロとリンシャンが会いに来て話をする。

 ルビーはボクが寝ていると一緒に昼寝をして、この二日間は久しぶりに怠惰な時間を過ごせそうだ。


「私が来ましたわ!」

「お邪魔いたします」

 

 くつろいでダラダラとしていたボクの部屋に、仮面をつけた二人組が突撃してきた。


「お前は騒々しいな」


 二人を出迎えたリンシャンが呆れた顔を見せる。


「リンシャン、お久しぶりですわね」

「部屋の中に入ったんだ。仮面を外したらどうだ?」

「そうでしたわね」


 リンシャンの言葉にエリーナが、仮面を外して素顔を見せる。相変わらず綺麗な顔をしている。


「リューク! 会いたかったですわ!」


 エリーナは他者の視線など気にすることなくボクの胸に飛び込んできた。

 クールで王女様として澄ましていた頃とは別人のように素直に気持ちを表現するようになった。


「うん。ボクもだよ。よく来れたね」

「実は、ユーシュンお兄様にバレてしまって」

「えっ? ユーシュンに? 大丈夫だったの?」

「問題ありませんわ。ユーシュンお兄様はどこにいくのかも聞きませんでした」

「そう」

「それに絶対的戦争がどうとか、部分的戦争とか、よくわからないことを言っていましたわ」

「それは皇国との話だね」

「リュークはわかるんですの?」

「ああ、意味はね」


 ここで説明しても意味はない。

 それに今日のボクはダラダラと過ごすと決めたんだ。


「はいはい。せっかくエリーナも来たし、みんなで王国剣帝杯でも見ながらお茶にしよう」


 シロップにお願いしてお茶の用意をしてもらう。


 第七回戦が決着をして、惜しくもコンボイ君が負けていた。


「いよいよ前回覇者の剣帝だな」


 本日はみんなで王国剣帝杯を閲覧するのに、全員がゆったりとしたソファーに座っている。

 リンシャンの言葉に、モニターの向こうでは実況と解説が会場を盛り上げていた。


《実況》「いよいよです!いよいよ前回大会覇者!剣帝、自由剣アーサーの登場だ!!!」

《解説》「これまでの戦士たちも強者揃いではありながら、やはり前回大会覇者を待ち望まずにはいられませんね」

《実況》「はい! この人の戦う姿を待ち望んでいました。その自由な戦いは人を魅力し、その強さは対戦相手を圧倒する」

《解説》「対戦相手はどうか剣帝アーサーを打ち倒す実力を示してほしいです」

《実況》「それでは挑戦者から入場です! 皇国の侍と言えば誰もが知る剣豪イッケイの登場だ!盲目でありながらも、振るう剣は最強。自由剣アーサーにここまで相応しい相手はいないでしょう。剣豪イッケイの刀術は華麗にして美麗」


 年配男性が、仕込み刀を杖代わりにして現れる。

 歓声が上がり彼は静かに手を上げて観客に応えた。


《実況》「剣豪の貫禄は、剣帝に匹敵することでしょう! それでは前回覇者剣帝の登場だ!!!」


《観客》「「「「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」


《解説》「彼の人気は本物ですね」


 本日の四試合目になって空が暗くなり始め、スポットライトが闘技場を照らしていた。しかし、剣帝の登場を告げられると同時にスポットライトが一点を照らす。


 光が当たる場所には剣帝がいて、剣舞を披露する。


 その動きは誰が見ても美しく、自由剣アーサーとしてではなく。

 剣帝アーサーとして過ごした四年前よりも確実に剣術に磨きをかけた腕は人々をさらに魅力する。

 

「あんたとやれて嬉しいよ」

「あっしは不運でなりやせんよ。どうしてアンさんのような方と当たらねばならんのか、あんさん以外であればあっしの圧勝できたものを」

「言うねぇ〜。俺にも圧勝する気だろ?」

「いやいや、流石に圧勝は難しいでござんす。精々、辛勝がいいところでしょう」

「くくく、結局勝つ気じゃねぇか」

「遅かれ早かれ、優勝するためには、あんさんに勝たなければなりませんからな」

「それもそうだ。それで? あんたは優勝したら何を願うつもりなんだ?」

「それを聞いてどうなさるんで?」

「簡単なことだ。聞いてやれる願いなら、俺が代わりに願ってやるよ」

「……本当に自由な方だ。剣には人柄が出る。あんさんに皆が惚れるのも頷ける」

「そうかい? それで負けてくれるなら安いけどな」

「こっちには、こっちの事情があるでね。勝たせてもらいやすよ」

「願いは言わないか。漢だね」


《実況》「それでは王国剣帝杯第一回戦第八試合を開始します!」


 モニターの向こうで、剣帝が試合を開始する。


 だけど、前置きが長すぎてボクは眠くなってきた。 


「ボクはもう寝るよ。エリーナ行こう」

「えっ? 試合はいいんですの?」

「ああ、もうどっちが勝つのかわかったからね。もう興味はないや」

「えっ? えっ? えっ?」

「アンナもくる?」

「もちろんです」


 ボクは、久しぶりに会ったエリーナとアンナを連れて寝室に向かった。

 せっかくの休日も彼女たちで潰れてしまうね。


「二人とも今日はいっぱいイジメてあげる」

「わっ私は……ハゥ!」

「リューク様! 存分にお踏みください!」


 たまには二人を相手にするのもいいね。

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