第271話 王国剣帝杯 14

《side実況解説》


《実況》「王国剣帝杯第一回戦も残すところ二試合となりました。いよいよベスト八が決まろうとしております」

《解説》「予選からこの一週間を戦い抜いたすべての戦士の勇姿を讃えたいですね」

《実況》「はい! それでは王国剣帝杯第一回戦第七試合の選手が入場です。なんと王国が誇るアレシダス王立学園在校生の参戦です! 学園剣帝杯を飛び越えての参戦は初と言えます」

《解説》「自分の力を試すため、やってきた王国貴族は素晴らしいですね」

《実況》「アレシダス王立学園の枠を越え、王国剣帝杯の予選を勝ち抜いた。《人間磁石》マグネット・コンボイ!」

《解説》「幼い見た目からは、想像もできない強力な能力ですからね。昨年の学園剣帝杯からどれだけ成長したのか見物ですね」

《実況》「対するは、教国の熟練修行僧チャーチャイ! 禅を組む姿は悟りを開き、名には、勇気や力強さという意味が込められているそうです」

《解説》「若き学生と、熟練の修行者。境遇の違う二人の戦いは必見ですね」

《実況》「それでは王国剣帝杯第一回戦第七試合開始!!!」


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《sideエリーナ・シルディー・ボーク・アレシダス》


 私は怒っています。


「ハヤセ。ダン。報告ありがとう。こちらからもベルーガ辺境伯に怪しい人物の報告をしておくわ」

「はい! よろしくお願いします」


 王国第一騎士団に務めるダンが報告に来たので、私は話を聞いてベルーガ辺境伯領の異変を知ることになる。去っていく二人を見送り、私はアンナを見た。


「アンナ!」

「はい。エリーナ様、どうかされましたか?」

「これがリュークが言っていたことかしら?」

「多分、そうなのでしょうね」

「ハァ、どうして私には会わないで、アンナだけ」

「ふふふ、それはリューク様の愛ゆえにではないでしょうか?」

「なっ!」

 

 リュークはベルーガ辺境伯領にいる。

 それも辺境伯邸に。

 近くにいるのに会うことができない。

 それを聞かされた時の私の気持ちをどう表現すればいいのかわからない。


「そんなことよりも、ロリエルが優勝したらどうするのですか?」

「ロリエル? 誰だったかしら?」

「王国剣帝杯決勝リーグ第一回戦第一試合でエリーナ様に告白した戦士ですよ」

「あ〜そんなのいたわね。ねぇ、アンナ」

「はい」

「もしも最高の男に出会った後に、他の男性を見たら普通はどうするかしら?」

「比べるのではないでしょうか?」

「そうなのね。だけど、私はもう普通ではいられないわ。最高の男を知ってしまったから、他の男なんて目にも入らないの」

「あぁ、そういうことですか。何を当たり前のことを言ってるのです」


 だから私は彼にもらった仮面をつける。


「最高の男に会うためなら手段を選んではいられないの」

「エリーナ様、さすがは我が主です。その意見に賛同します」


 互いに仮面をつけて、身代わり人形に魔力を流す。


「クウとクロマに伝えてくれたかしら?」

「はい。彼女たちは先に動いています」

「あら、主を放置して先に行くなんて薄情なメイドたちね」

「彼女たちの主は、あなたではありませんから」

「それもそうね。彼女たちは私と対等。王女である私とよ。本当に最高だわ」


 私たちはスイートルームを飛び出した。


 認識阻害が発動しているおかげで、誰も私たちには気づかない。


「どこに行くつもりだ?」


 誰にも気づかれないと思っていたのに、一人だけ。


 ユーシュンお兄様にだけ気づかれた。


 警備をしていたガッツ殿は気づかなかったのに、ユーシュンお兄様は凄い。


「身代わりは用意しました。私は自由に致しますわ」

「……そうか。好きにすればいい」

「ユーシュンお兄様」

「……なんだ?」

「皇国との戦争を止めるつもりはありませんの?」


 私はずっと聴きたいと思っていたことを口にした。

 この仮面をつけている私は、エリーナではない。

 だから、エリーナとしては聞けない言葉を口にできる。


「……今行われている戦いは、絶対的戦争ではない」

「絶対的戦争?」

「国家をあげて、互いの国家を打ち滅ぼすために行う戦いではない」

「だから止めないというのですか?」


 私は政治は勉強してきたが、戦争の思想は得意ではない。

 だから、戦争をしているのに冷静でいられるユーシュンお兄様が不思議だった。だから、ずっと聴きたいと思っていた。


「そうだ。テスタは、デスクストス家は自らの家のため。弟の名誉を守るため。皇国から謝罪を引き出すための戦いをしている」


 デスクストスの戦いが……リュークのため?


「本来ならばテスタは、王国で内戦を起こして国家転覆をするはずだった。だが、やつは他国に攻め入った。原因があったからだ。相手の国もそれをわかっているから、本気では戦わない。デスクストス家のプライドに対して、皇国の意地を競う部分的な戦争は、互いの目的をすり合わせ、力を見せ合う必要がある」


 ユーシュンお兄様の説明に私は不思議な感覚を覚えた。


「ユーシュンお兄様はどうしてそこまでご理解されているのですか?」

「……それは言えない。だが、今テスタがしていることは、王国の強さを見せ、皇国に謝らなければいけないと思わせる戦いだということだ」


 いったいお兄様たちは何を見ているのだろうか?


「ユーシュンお兄様とこれだけ話したのは久しぶりですね」

「エリーナ。お前は朕とは違う道を選んだ。朕が歩む茨の道とは別れたからこそ、朕は自分の選択した道を歩むことができる。だから迷わず進め」


 ユーシュンお兄様は、それ以上語ることはないと背中を見せた。


 私にはわからないことが多すぎる。


 でも、私の心に一つだけある気持ちは。


「リュークに早く会いたいですわ」


 ユーシュンお兄様の話を、リュークに話さなければいけない気がします。

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