第270話 王国剣帝杯 13
新たな情報を手に入れた。
これを活用するために、プロに調べてもらいたい。
カスミやユヅキは、確かに情報を取り扱うプロだ。
だが、流石にベルーガ領全土は把握できない。
王国の情報を取り扱うものとして、活躍してくれる人物をボクは一人しか知らない。
「君がきてくれるとはね」
「本当はもっと早く来るつもりでした。ですが、なかなか仕事が終わらなかったもので、遅くなってしまいました」
「君が来てくれて嬉しいよ。タシテ君」
ボクの前に座るタシテ君は、冒険者のような旅装束を見に纏っていた。
「リューク様にそう言っていただけると、私も嬉しいです。微力ではありますが、ご協力できますでしょうか?」
「微力なんて、君ほど強力な助っ人をボクは知らないよ。王国全土の情報はネズール家にありと言うぐらいだ」
「そんなにお褒め頂いても何も出ませんよ」
「いいや、出してもらう」
「おや? ふふ、悪い顔をされておりますね」
「君もだろ?」
やっぱりタシテ君はボクの親友で、優秀な男だ。
ボクが本当に必要としているとき、情報を持って現れる。
「魔物使いの世界機密を提供する」
「ほう、確かにあまり魔物使いの情報はありませんね。興味深い」
「そうだろ? こちらとしてはベルーガ領に潜伏しているスパイの情報が欲しい。帝国を中心に、正規のルートで入ってきた者も、裏ルートから入った者も全て」
「リューク様、それはまたかなりの国家機密でございます」
「ああ、君なら全てわかるだろ?」
「二日いただけますか? 今の情報だけで不足していると判断しました」
「たった二日でいいのかい?」
「問題ありません。それ以上に時間をかける意味はありませんので」
自信満々に答えるタシテ君は、いつもながら執事のような雰囲気を持って一礼する。
「リューク様、久しぶりに会うあなたはやっぱり最高です。何も変わっておられない」
「そういう君はボクの親友だ」
「ありがとうございます。全てはリューク様の望みのままに」
タシテ君が部屋を出ていく姿を見て、ボクは上機嫌になってしまう。
これで全てのピースが揃う。
タシテ君は二日と言った。ボクができることはあとは待つことだけだ。
「ふぅ、ここ数日は動きすぎて疲れたな」
「少し休まれますか?」
「ああ、カスミ。膝枕して」
「かしこまりました」
メイド服を着ているカスミはソファーに座って、わざわざミニスカートを捲り上げて生足で膝枕をしてくれる。
「痛くないの?」
「むしろ、ご褒美です。リューク様の髪を肌で感じられますので」
「君は変態だね」
「ありがとうございます」
ボクはカスミの膝枕で少し眠ることにした。
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《sideダン》
決勝リーグ一回戦を終えて、休息日を挟むことになった。
「ダン先輩、こっちっす」
「ああ」
昨日はゼファーとの激闘の末に、なんとか勝利を手中に収めることができた。
激しく傷ついた体は、ナターシャの回復魔法で前日に治してもらい。
ゆっくりと寝て、昼過ぎからは動けるようになった。
そのためゆっくりした休息を、ハヤセとベルーガ領ヒレンの観光に当てることにした。
「ハヤセ、師匠の試合は見たいからな」
「わかってるっすよ。それにあれを見れば今の試合経過もわかるっす」
街の至る所にモニターがつけられて、現在の試合が報道されている。
第五試合も終盤になり、獣人ホーク対戦争請負人アクージは一方的な試合展開だった。
アクージの手袋から糸が出て、闘技場に張り巡らされた。
獣人ホークの空中戦を封じるためにの糸は、ホークの羽を剥ぎ取り、体を傷つけ、最後はホークに巻きついて締め上げた。
「グロいっすね」
「ベルーガ領の医療班は優秀だからな。なんとか一命を取り留めてくれるといいが」
「先輩も昨日はすごかったっす。今日は、たくさん食べて栄養をつけるっす」
「ああ、そうだな」
俺のことを気遣ってくれるハヤセに連れられて、ステーキハウスに入る。
オークやワイルドボアを使ったステーキハウスは盛況で、店に入る前からニンニクの香りに食欲がそそられる。
「おいおい、こんな高そうなとこ大丈夫か?」
「大丈夫っすよ。私も情報料をもらって懐が潤っているっす」
「そうなのか?」
「それに、ダン先輩が予選で勝ち進んでくれたお陰で賭け金もガッポリ稼がせてもらったっす」
ハヤセは本当にしっかりしている。
言葉に甘えて、ステーキを堪能した。
店を出て買い物に向かう途中、怪しげなフードを被った三人組が路地裏に入っていくのが見えた。
「ハヤセ」
「わかってるっす。怪しいっすね。お祭りに乗じて何かしようとしているのかもしれないっす」
さすがはハヤセだ。俺の考えていることをわかってくれる。
怪しげなフードの三人組を追いかけて路地裏に入った。
路地裏は表通りと違って建物の影になるところが多く。
入り組んでいて、フードの一団を探しながら、進むのは大変だった。
「こっちっす」
「ああ」
ハヤセの属性魔法で、特定した相手を判断していかなければ見失っていただろう。
「面倒なネズミが嗅ぎ回っておるか」
三人組が立ち止まったところで、こちらへ振り返る。
咄嗟に気づかれたと思って身を隠すが、どうやら無駄だったようだ。
「我が僕たちよ、余計な物を排除せよ」
フードを被っている男の一人が何かを呟くと、俺たちの前にサイクロップスが現れる。
「なっ!」
「行け」
こんな路地裏でサイクロップスが暴れるのは、危険すぎる。
俺は咄嗟に剣を抜き放ってサイクロップスに対峙する。
「肉体強化ブースト×5」
出し惜しみしている場合じゃない。
俺は全力でサイクロップスを倒すために属性魔法を発動した。
「倒せるっすか?」
「まかせろ」
時間をかければ確実に倒せる。
だけど、時間をかけないで、街に被害を出さないようにするためには。
一撃で終わらせる。
「全力斬り!」
ブーストをかけた状態で、絆の聖剣を振り抜いた。
「グアアああ!!!!」
魔物を相手にした時、聖剣の攻撃力が跳ね上がる。
そのお陰で再生能力が高いサイクロップスを倒すことができた。
「あいつらは見失ったか」
「はいっす。完全に私の捜索できる範囲を超えたっす」
「これは報告しておいた方がいいな」
「そうっすね。一度エリーナ様のところに行きましょうっす」
「ああ、ついでにアーサー師匠にも伝えておこう」
「はいっす」
路地から出ると、第六回戦が決着して、吟遊詩人のソレイユが勝利を収めていた。
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