第269話 王国剣帝杯 12
ボクはジュリから得られた情報によって一人の人物に疑いをかけた。
王国人として登録はされているが、スパイではないと断言はできない。
「何じゃお前は?」
酒場で顔を赤くして酒を飲む魔物使い、翁クーロ。
決勝リーグ第一回戦第四試合で敗北をしたジジイ。
「ボクはバル。冒険者をしている」
「うむ。冒険者が何の用じゃ。ワシャ、この一杯を飲んだら家に帰る。用がないのならさっさと立ち去るがいい」
「あんたの試合を見たよ。一杯奢らせてくれ」
「ほう〜見どころがあるではないか、座れ座れ」
翁クーロの前に座り店員を呼ぶ。
「は〜い」
「こちらの方に好きなだけ酒を」
「おっ! 良いのか?」
「ああ、好きに飲んで食べてくれ」
「ホッホッホッ、最高じゃな。名はバルであったな。よし! バルよ! 今日はワシャと飲み明かそうぞ」
「ええ、付き合います」
ボクはどんどん翁クーロに酒を飲ませた。
「ふむ。つまりは、お前は帝国の魔物使いを探したいから、ワシャのところにきたということじゃな」
「はい」
酒を飲み二時間ほど話をしたところで、ボクはこの男が白であると判断した。
そこで、同じ魔物使いを探す手がかりがないのか問いかけた。
「バルよ。魔物使いをどう思う?」
「魔物使いですか? そうですね。本来、人の言うことを聞かない魔物を使うと言うことは、特殊な技能か、魔法が存在しているのだと思います」
「技能か、それがのう。魔物使いの共通点は、魔族の血を受け継いでおると言うことなのじゃ」
「魔族の血?」
「そうじゃ、通人至上主義教会が世界中に広がりつつある原因であり、亜人の中でも最も忌み嫌われ、教会が作られる理由となった魔族。その血を受け継いだのが魔物使いなんじゃ」
それは国家級の秘密を超える世界級の秘密だ。
「それは……」
「教会も知らぬ真実じゃ。墓場まで持って行けよ」
「はい」
「そして、魔族の血を引くと言うことは特徴がある」
「特徴ですか?」
「そうじゃ。魔族の特徴は三つ、角、赤目、色素を持たぬ髪じゃな」
翁は自分の白髪をめくって小さな角を見せてくれる。
目は黒いがコンタクトをしており、赤目を隠していた。
「ほう」
「どうじゃ?」
「そのような特徴があったとは思いませんでした」
「そうじゃない。魔族に初めて会ってどうじゃと聞いておる」
「あ〜、そう言うことですか、全く何も思いません」
「ホッホッホッ! そうかそうか、お主は豪胆じゃのう」
翁は優しい顔で笑う。
「凄い秘密を教えてもらったお礼にボクも秘密を教えます」
「うむ」
「ボクも魔物を使役できるんです」
「なっ! しかし、貴様の目は」
「はい。普通の目をしていますが、魔族の血を引いているのかもしれません」
ボクは情報量として、金貨100枚と酒場の支払いを済ませた。
「なっ! 多すぎじゃ!」
「それだけ貴重な情報だと言うことです。情報には価値があります。それに魔物を飼育する環境を整えるのにお金も必要でしょう」
「何じゃ知っておったのか、ワシャがそのために大会に出たことを。ハァ、せっかく飲んだ酒が一気に冷めたわい。これだけあるんじゃ飲み直すとするかのぅ」
「お好きに」
ボクは席を立った。
「お主は良い奴じゃ。こんなジジイと酒を飲み交わし、話を聞いてくれた。早死にするでないぞ」
「ありがとう。翁も長生きしてくれ」
「あんがとよ」
ボクは酒場を出た。
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《side実況解説》
《実況》「日をまたいでやってまいりました! 王国剣帝杯決勝リーグ第一回戦第五試合を開始します」
《解説》「本日は最終戦に剣帝アーサーが登場しますからね。それまで存分に祭りを盛り上げていきましょう」
《実況》「そうですね! 今大会唯一の獣人種の登場です。圧倒的な身体能力はさすがと言える。獣人の国よりの挑戦者獣人騎士ホーク!」
精悍な顔をした鷹の獣人が、その大きな両翼を広げてコロッセウムより高く飛び上がる。
登場を派手を演出するホークに会場中が響めき、着地と同時に拍手が巻き起こる。
《実況》「獣人の身体能力は凄いです! 人がその身一つで空を飛ぶことができてしまうとは! 驚きですね」
《解説》「一部の鍛え抜かれた獣人にしか行えないそうですが、今大会に出場しているホーク選手は選ばれた存在ということなのでしょう」
《実況》「対するは、王国を代表する名家の一つ。アクージ家からの参戦です。勝てば良い。勝てば正義。それがアクージ家の教えであり、今大会出場選手の中で王国人であれば恐ろしくて道を譲ってしまう一族から送られてきた戦争請負人ディアスポラ・グフ・アクージ!!!」
黒髪長髪の柔和な笑みを浮かべた男が会場に現れ、闘技場に相応しくない黒いスーツに黒い手袋と言う何とも異常な出立ちで現れる。
《解説》「両者は特徴的な見た目をしており、方やコロッセウムの上空まで飛び上がるパフォーマンスを見せてくれたのに対して、もう片方が静かに会場の観客など見ていない様子で現れましたね」
《実況》「ええ、動と静。相反する二人の存在に会場が固唾を飲んで見守ります。それでは王国剣帝杯決勝リーグ第一回戦第五試合開始します!」
第一回戦の後半戦が始まろうとしていた。
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