第266話 王国剣帝杯 9

《sideダン》


 決勝リーグ第一試合の二回戦が終わって、担架で運ばれていくムーノ団長を見送った。

 相手の選手が使う武器は、俺も知らない。

 姫様の旦那であるバルが使っていた銃という武器に似ている。

 だけど、その形状は異なっていて未知の存在だった。


「いよいよ俺の出番か」

「ダン」

「アーサー師匠!」


 剣帝は別室を与えられている。

 わざわざ、控え室に激励に来てくれたんだ。


「よくぞ決勝リーグまで勝ち上がってきたな」

「はい。師匠との約束ですから」

「お前の剣は凡人だ。本当はもっと時間がかかると思っていた」

「師匠に初めて会った時に言われました」


 師匠に会った時から、俺はどれだけ成長しただろう?

 それを見せたい。


「ここでお前と戦える実力を、俺に見せてみろ」

「押忍!」

「くくく、本当にそれを成した時、お前は晴れて俺の自由剣から卒業だ」

「必ず成し遂げて見せます」


 師匠が激励の意味を込めて、俺の肩を叩いてくれる。


 戦闘術から剣術、戦い方のイロハは全てアーサー師匠に教えてもらった。

 師匠に基礎を作ってもらったからこそ、今の俺はあるんだ。


「いって来い!」

「はい!」


 俺はアーサー師匠の激励を受けて、闘技場へ足を踏み入れた。


《実況》「王国第一騎士団団長ムーノ選手が敗北した今。我々はもう一人の王国騎士に期待するしかない。絆の聖騎士として、聖剣に選ばれた勇者ダン。だが、我々はもう一つの二つ名の方が馴染み深いでしょう! 性駄犬師ダン! 王国に住まう者であれば、ダンの二つ名を知らぬ者はいないでしょう。居たとすれば、それはスパイであると断言できてしまう」

《解説》「最早、彼の名より有名と言えるでしょうね」

《実況》「ムーノ団長が正統派騎士とするなら、邪道騎士、性駄犬師ダンと相対するのは?!」

《解説》「これまた帝国からの刺客ですね」

《実況》「火を噴き出す拳で、数多くの戦士たちを葬り去ってきた。生きる拳聖ゼファー!!! 帝国が誇る武術を今回の戦いでどれだけ見せてくれるのか??!! そして性駄犬師ダンは拳聖ゼファーを相手にどこまで立ち回ることができるのか見ものです!」


 俺は出てきた相手を見て、ふとリュークのことを思い出した。

 見た目は全然違うのに、拳を使う相手に超えなければいけない相手だったため、リュークとダブって見えた。


「おいおい、なんなんだ性駄犬師ってのは? ふざけてるのか?!」


 上半身裸にグローブをはめたスタイルは、男らしい筋肉を見せつける。


「別に俺はどうでもいいさ。他の者がどう言おうと勝手にすればいい。俺は俺の実力を見せるだけだ」

「ヒュー! いいね。その実力を見せてもらおうじゃねぇか」


 ゼファーが飛び跳ねるように構えを取る。


「ああ、ならやろう」


《実況》「王国剣帝杯決勝リーグ第一回戦第三試合を開始します!」


 開始の合図とともにゼファーの姿が消えて、目の前に現れる。

 それはリュークと初めて対峙した時のような、こちらの意表をつく攻撃で、あの時の俺は慌てて対処しようとすればするほど墓穴を掘っていた。


「オラっ!」


 振るわれる拳に向かって突進する。


「なっ!」

「拳を使う奴は一撃目を予備動作の一つとして使う。一撃目をジャブとして、そこから加速していく」


 なら、一撃目を止めて動きを制限する。


 前に一歩踏み出して、自ら近づけば加速ができないはずだ。


「おっ! 騎士のくせにやるじゃん。だけど、それはちょっと不用意過ぎるぜ」


 一撃目の拳を胸の鎧で受け止めた俺は剣の持ち手で突きを放つつもりだった。

 だが、次の瞬間に顎へ衝撃が走って、視界が揺れて意識が飛びそうになる。


「本当にやるじゃん」


 何が起きたのか理解しようとして、ゼファーの構えを見れば、拳ではなく肘を振り抜くような体制をしていた。


「肘?!」

「本当にスゲーな。一発で見抜くかよ。だけどな、見抜いたからってどうにかできるもんじゃねぇぞ!」


 前蹴りからの踵落として、俺は必死に距離を取ろうと転げ回る。


「どうした王国騎士さんよ! 逃げてばかりじゃ勝てねぇぞ!」


 飛び上がったゼファーは闘技場の地面にヒビを入れるほどの飛び蹴りを放った。


「俺を舐めることなく挑んできたことは褒めてやるよ。だけど、テメェ程度で勝てると思うなよ。駄犬!」


 揺れていた視界が元に戻り、俺は立ち上がって息を整える。


「ハァハァハァ」


 どこかでリュークと同じだと勝手に錯覚していた。

 ゼファーはゼファーの戦い方を確立しているんだ。


「くくく、これだから俺はいつも甘いって、言われるんだ。勝手に決めつけて墓穴を掘る。俺は俺らしく戦えばいい」


 絆の聖剣を抜き放ち、力の恩恵を受け取る。


「やっと本気になったか?」

「ああ、油断していたわけじゃない。ただ、どこかで昔戦った奴と重ねていたんだ」

「そいつは強かったのか?」

「ああ、俺が知る中で一番強い」

「そいつと重ねてもらえるとは、光栄なことだ」

「だが、ゼファーはあいつじゃない」

「そりゃそうだ」

「だから勝てる」

「自惚れるなよ!」


 ゼファーが、また消える。


 今度は受け止めようなんて思わない。


 攻撃されるのも構わない。


「グハッ!」

「なっ!」


 相打ち!


 ゼファーの拳が俺に当たる瞬間に、絆の聖剣で殴りつける。

 リーチはこちらが上。

 殴って離れるまでに当てることはできた。


「チッ、そういうことか。相打ち狙いか?」

「勘違いするなよ」

「あん?」

「俺は本気でお前を倒すだけだ。不屈の心を折れるものなら折ってみろ!」


 それから何時間攻防が続いていたのかわからない。


 昼前だった開始時刻が、いつの間にか日が傾き出している。

 闘技場全体に互いの汗と血が飛び散り、最後に立っていたのは。


《実況》「勝者ダン! 不死身の性駄犬師!!! 拳聖の攻撃をその身に全て受けても立ち続けていた。それは新たな世界へ扉を開いている者の所業だった。果たして性駄犬師は新たな世界を知っているのか?!」

《解説》「漢と漢のぶつかり合いでした。ですが、なぜか見ているこちらとしては、二人の人物に温度差を感じてしまいます」

《実況》「そうですね! 勝利したダン選手は喜びながら、攻撃を受け。片やゼファー選手は次第に後退して、ダン選手から距離を取るようになっていました」

《解説》「超接近戦の名手を引かせる性駄犬師。まさしく変態ですね」

《実況》「それでは引き続いて、王立剣帝杯決勝リーグ第一試合第四戦を行います。また第三試合があまりにも長くなってしまったため、本日は第四試合で最後とさせていただきます」


 控え室に戻っていくと、アーサー師匠の姿はなかった。

 代わりに、残っていた戦士たちは奇異の目で見られ、少しばかり恥ずかしくなってしまう。


 俺は一回戦を勝ったんだ。


 胸に勝利の余韻を噛み締めて、控え室を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


本日は予約投稿をミスしてしまいました。

いつもは、下書きして、朝に修正してから投稿という流れにしていたのですが、投稿曜日を変更することなく投稿予約をしたせいで、そのまま投稿されてしまったようです(^◇^;)


修正をする前で読みにくい文章を読んでいただいた方ありがとうございます!


本当にいつも多くの読者様に支えられております!

読んで頂きありがとうございます!

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