第267話 王国剣帝杯 10
《side???》
闘技場から離れたとある酒場。
普段は、常連客ぐらいしか、訪れない酒場には、珍しく奥にある個室に来客がやってきていた。
貴族が訪れていることもあり、店主には緊張が走っている。
「どうかね? 計画の方は?」
貴族の前には、三人の黒いローブを纏った者たちが座っていた。
物々しい雰囲気をした三人に対して、貴族は優雅にワインと食事を楽しんでいる。
アンバランスな雰囲気に、部屋に入った店主が、ノドが張り付くような渇きを覚えてしまうほどだった。
「予定通りに進んでおります。ただ」
「ただ?」
「前にもお話しした通り、制御ができるものではありません。我々は、これを使った後は速やかに離脱させていただく所存」
黒いローブを纏った三人の一人が、貴族に対して任務の行動を告げる。
「構わんよ。君たちの役目は仕掛けを施すことだ。後はこちらで請け負おう」
「……ならば、問題ありません」
フードを外した男は、真っ白な髪に赤い目をした魔族の者だった。
亜人と呼ばれる者たちの中でも教会が最も嫌っている人種である。
「くくく、まさか、暗部が魔族出身者とは誰も思わぬだろうな」
「……」
「どうした? 怒っているのか?」
「いいえ、そのような物言いに慣れております。それに我はハーフ。二人は我と種族が違う。不用意に探ろうとしないことです」
「ほう、私を嗜めるとは、いい度胸だ。それとも舐めているのですか?」
「我々が従うのは零様だけ」
「うむ。そうであったな。貴殿ら暗部は零様直属。良いでしょう。今の発言は聞かなかったことにいたします」
「賢明ですな」
三人が立ち上がって酒場を出ていく。
「不気味な者たちだ。魔の血を引くというだけで恐ろしい。それを使う零とはどのような人物なのでしょうね。帝王の古き友人。帝国の中では私もまだまだ新参者。まぁ賢き者は、余計なことを言わず、やらず、近づかない。私は高みの見物をさせて頂きましょう。利用できる者はどこまでも利用すればいい」
ワインを飲み干して、貴族は酒場を出た。
その姿は、闇の中へと消えていく。
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《side実況解説》
《実況》「王国決勝リーグ第一回戦第四試合が開始されます。一人目の人物が姿を現しました。その姿はベールに包まれており、男性なのか、女性なのか、それすらもわからない。ただ、流浪の身でここまで勝ち上がってきたのは、剣帝アーサー以来の偉業です」
《解説》「名だけは明かされております。偽名かどうかもわかりませんが、流浪の剣士フリーと」
《実況》「流浪の剣士フリー。その実力が第四試合で披露されるのか?」
《解説》「披露されなければ大会で敗北してしまうでしょうね。相手も甘くはない。騎士団とは関係ない王国代表者です」
《実況》「そうですね!流浪の剣士フリーに対抗するのは、王国出身であり、魔物使いとして長年王国に魔物肉を養殖しておられました。翁クーロ!!!」
《解説》「今までは魔物の飼育が忙しくて参加できていなかったと報告されております」
《実況》「冥土の土産に参加した、翁クーロは、流浪の剣士フリーにどこまで迫れるのか! 王国剣帝杯第一回戦第四試合を開始します!」
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《sideリューク》
ボクは目星い人物を特定するのに難航していた。
今回の事件には特殊な仕掛けが施されることはわかっている。だが、その仕掛けをする人物が誰なのかが特定できないでいた。
「ごめんなさい。私でも特定は無理」
そう言って謝るココロは体力を消耗しながらも、占いをしてくれた。
いくつかの手がかりに対して、リンシャンやシロップ、ルビーにも協力してもらって調べたのだが、相手の方が上手で巧妙に隠されていた。
「ココロは何も悪くない。怪しい場所には、カスミやユヅキにも協力して調べてもらっている」
「うん」
本来はクウ達にも協力してほしいが、あまりにも大人数で行動してしまえば、相手が警戒をするだろう。
「ふぅ〜本来はゲームの主人公がすることだろう」
ボクは自分がゲームをプレイしている時のことを思い出していた。
ゲームの世界でも、王国剣帝杯はベルーガ辺境伯領で行われる。
主人公は大会に出場しつつ、裏で行われていた事件を解決する。
ダンにそのような動きは見られない。
それに今回の暗躍は、時間との勝負であり、解決する内容によって、その後の展開が変わっていく。
「裏切りか」
「えっ?」
「いいや。なんでもないよ」
今回の事件を難しくしているのは、スパイの存在だ。
スパイが情報を集める方法は五つ存在している。
1、敵国の領民を使って、必要な情報を収集する方法。
2、敵国の役人を買収して内通させ、スパイに仕立てる方法。
3、元々スパイだった敵国のものを寝返らせ二重スパイをさせる方法
4、敵味方両方に偽情報をつかませ、倒したい方に嘘の情報を信じ込ませる方法。
5、何度も国同士を行き来して情報を伝える者。
4番は草と呼ばれ、生まれも育ちも他国に潜入して、何代も年数をかけて領民になっていることもあり、他国のものだと思ってもいないのでスパイとすら気づかれない。
「王国のものだと思っている奴が怪しいのか?」
ボクが知る事件の内容とは異なる出来事が多く起きているので、ゲームの内容を思い出しながら相違点を模索していた。
「旦那様」
「どうしたんだい?」
「旦那様が、あの方を寝返らせることはできませんか?」
「あの方?」
「はい。今回のキーマンは帝国です。そして、旦那様は帝国人にお知り合いがおられるはずです」
「あぁ、そういうことか」
ボクはココロの提案にしばし考えて、やってみる価値を見出した。
「うん。面白そうだ。やってみよう」
王国剣帝杯が流れるモニターには、第四試合終了が告げられ、流浪の剣士が勝利していた。
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