第265話 王国剣帝杯 8

《side実況解説》


《実況》「王国剣帝杯決勝リーグ第一回戦第二試合に登場するのは、我らが王国第一騎士団団長にして、第二王子だった騎士ムーノ!!!」

《解説》「王国の誇りを胸に活躍を期待したいです!」

《実況》「王位継承権を返納された時には驚きましたが、騎士としての実力をつけて、王国剣帝杯決勝リーグに上がってこられたことは、努力が垣間見得ますね」

《解説》「ええ、決勝リーグに来るまでに相当な強者と戦ってきたのか、随分と満身創痍に見えます」


 騎士ムーノの鎧はボロボロになり、本人も決して万全な状態とは言えない。

 それでも鍛え抜かれた体躯は十分に戦う準備を終えているとも言える。


《実況》「対するは、帝国からの刺客! 髪をまとめるために巻かれたリボンが印象的。その容姿とは裏腹に一撃必殺を信条とするような豪剣。今大会に参加して決勝リーグに上がってきた女性選手が二人います。その一人であり、見た目からは想像できない力を発揮する銃剣士レベッカ!!!」

《解説》「彼女が持つ武器は銃剣と呼ばれ、魔法を打ち出す杖であり、接近戦を行う剣にもなります。元々は帝国軍で働いていたそうで、真っ赤なリボンと相反する旧帝国軍服が印象的な選手ですね」

《実況》「それは第二試合を開始します!!!」


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《sideリューク》


 アンナからエリーナに事情を話してもらうことができたはずなので、ボクは次の段階に入るために、オリガと二人で対談する時間を設けた。


 王国剣帝杯、今大会の主催者であるオリガは、王族が観覧する来賓室とは別の場所で観覧を行っていた。

 ボクは女装を解いて、バルニャンを仮面にして、オリガが待つ部屋に入った。


 豪華な作りの観覧スペースは、お世辞にもコロッセウムが見やすい場所ではない。その代わりに専属シェフが食事を提供してくれる、個室レストランの様相を呈していた。

 

 試合は、モニターに映し出されているだけで、窓ガラスに近づいても見えはしない。部屋の棚には世界各国から集められた酒たちは並び、銘柄はわからないが名品揃いなのだろう。


「いらっしゃい。バル殿」


 公式の場である手前、ボクのことをバルと呼ぶオリガに招かれて席に着く。


「ランチは食べたかしら?」

「いいえ」

「それはよかった。一緒に食べましょう」


 オリガが手を挙げれば、料理が運ばれてくる。


「バル殿はどんな料理が好きかしら?」

「カリンの料理」

「えっ?」

「カリビアン伯爵が作ってくれる料理なら、どんなものでも好きだ」

「そういえば、バル殿はカリビアン伯爵の旦那様で、リンシャンの夫だったわね。旦那様に愛されて羨ましいわ」

「……」


 ボクはオリガ・ベルーガという人物を見極められないでいた。


 常に会話は相手を優先して、ボクに対して好意を見せるような会話や行動をとってくる。その行動には余裕があり、他者に何かを望むことはない。


 ボクに対して向ける好意に、どのような意図があるのかわからない。

 

 ベルーガ辺境伯に来るにあたり、タシテ君にオリガ・ベルーガについて調べてもらった。

 家族は祖父である前ベルーガ辺境伯以外の全てが死んでおり、学園を卒業して三年後にベルーガ辺境伯を継いだ。

 現在は、ベルーガ辺境伯領主であり、バレット騎士団長。


 団長を務めているのは、ベルーガ領で一番強い人物であるからだと、タシテ君が調べた答えだった。


 コロッセウムを有していたベルーガ辺境伯領は人が集まり、物が集まり、裕福ではなかった土地を開拓を進めて、豊かにしたのが前ベルーガ辺境伯だった。

 その全て受け継いだのが、オリガであり。バレット騎士団団長になってから、騎士全員に豪華な装備を与え、騎士たちのレベルをカンストされた。


「バル殿は、随分と私のことを警戒しているわね」

「……正直に話をすれば、真意がわからない。これまでオリガ様にお会いしたことがなかったからね」

「そうね。私とあなたはアレシダス王立学園でも学年が違っていたから会う事はなかったわね。だけど、再三にわたってデスクストス家には引き取る話はしていたのよ」


 それは事実だ。


 タシテ君から、僕を引き取る話は母様が死んだ後からずっと持ちかけられている。


「どうして?」

「そうね。答えは至極簡単よ。私の家族はもうすぐ、あなただけになるから」

「えっ?」

「調べたのでしょ? 私には祖父以外に血縁者はあなただけ」

「ああ、調べさせてもらった。だけど、わからないんだ」

「何をかしら?」

「血縁者と言ってもどうして、そこまでボクにこだわるのか」


 ボクの質問にオリガは、グラスのワインを一気に飲み干して立ち上がった。


 戦闘が見えにくい窓際へと移動する。


「こんな世の中になって、いつ自分の命が散るのかわからないからよ。明日、私は死ぬかもしれない。それが暗殺や、事故、天災かもしれない」

「……」

「私が亡くなった後のベルーガ領を、その資産を全てあなたに与えたいの。血縁者としてね。それを受け取る権利があなたにはあるわ」


 デスクストス家にいて、家族をそこまで思えない。


「君は、幸せな家族の元に生まれたんだな」

「いいえ」

「えっ?」


 否定されると思わなくて驚いてしまう。


「私が生まれ、あなたが五歳になるまでにベルーガ家は、私とあなたを含めて全員が殺し合いの末に命を落としたの」

「なっ! そんな情報どこにも」

「これを知るのはブラウド・デスクストス公爵様だけよ」

「父上が?!」

「ええ、これはベルーガ家の秘密であり、あなたの母が死に、デスクストス様があなたに毒を持った理由よ」


 それは原作にも描かれていない真実。


 ゲームの世界では、オリガ・ベルーガ辺境伯は、大金持ちの女貴族としてダンの支援者になるだけだった。こんな裏設定があるなど聞いたこともない。


「馬鹿げている話よね。大罪魔法なんて」

「えっ? 大罪魔法?」

「ええ、魔王の遺伝子を持って生まれた者に宿ると言われる大罪魔法。その力の後遺症によって人は狂っていく。性格が捻じ曲がり、魔法が暴走して、本来の目的を見失っていくのよ。それは人を化け物に変えてしまう恐ろしい魔法。ベルーガ家は、その力の一旦をデスクストス家以上に強く受けているの」


 これも知らなかった事実であり、意外な人物からの言葉だった。


「私は魔王の遺伝子が受け継がれていなかった。だから大罪魔法は使えないの。それはお祖父様も同じ。だけど、それ以外の家族には、その片鱗が見られてしまった。一人、また一人と狂ってしまった」

「それは!」

「デスクストス様も知っておられたわ。だから、ご自身を」

「えっ?」

「リューク、あなたがこうして普通にしていられるのを見れば、あなたも大丈夫なのでしょ? だからこそ、私はあなたを頼りたい。私の死後、ベルーガ家の遺産を全てあなたに! 私が子を成せば、悲劇が繰り返されるかもしれない」


 オリガの考えをやっと理解できた。


 だからこそ伝えなければならない。


「それは無理だ」

「えっ?」


 ボクは自分の体から大罪魔法で生まれる魔力を生み出した。


「なっ!」

「ボクも使えるんだ大罪魔法を」

「でっでも、あなたは他の人とは違う。狂っているようには見えないわ」

「大罪の種類によるのかもしれないね」

「どういうこと?」

「ボクは、あくまで怠惰でいたいだけなんだよ」

「えっ?」

「《怠惰の大罪魔法》それがボクの魔法だ」


 怠そうに大きな欠伸をする。

 ダンジョンマスターになったおかげで少しは制御できているが、狂っていく人物をボクは目の前で見ている。


 テスタの瞳は常に嫉妬に狂っていた。


 あれが、オリガがいう狂っていくということなのだろう。


「そんなじゃあ、私はどうすれば」

「普通に子を成せばいい」

「えっ?」

「爺さんも、あんたも、大罪魔法を宿すことなく普通に生まれて来れた。なら、あんたが子を成し、その子がまた子を成して、新たな血が続ければ、いつかは大罪魔法なんて受け継がれることなく消滅するかもしれない。それまで遺伝レベルで戦い続ければいい」


 ボクは席を立つ。


「最初から、負けを認めて諦めるな。それとベルーガに蔓延る闇はボクがもらっていくよ」

「リューク?」

「ボクはバルだ。それ以外はない。だから、あんたの従姉弟はもう死んだんだ。追いかけるな。自分の道を生きろ!」


 ボクはそれ以上話すことはないと部屋をでた。

 

 何も知らなくていい。


 普通に平和な世を生きる方が幸せだ。


 闇はボクが払うから。

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