第264話 王国剣帝杯 7
《side実況解説》
《実況》「いよいよやって参りました王国剣帝杯決勝戦第一回第一試合を開始します。一回戦に登場する戦士は教国が誇る十二使徒が一人 妖星のロリエル選手です! ここまで相手に全く触れさせることなく無傷で勝ち上がってきました。その圧倒的な強さの片鱗を一回戦で見ることはできるのでしょうか?」
《解説》「ロリエル選手は、その見た目の美しさから女性ファンを虜にしておりますね」
《実況》「ええ、女性たちが声援を送っても、全く気にしないクールな態度が女性たちをさらに熱狂させております」
《解説》「対するは、皇国からの刺客、破戒僧ベイケイ選手!」
《実況》「そうです! 皇国は王国とは違う神を崇めており、破戒僧はそんな神に戦いを挑んだ者のことをいうそうです。また、破戒僧ベイケイは千手千種なる新たな武術の始祖でもあるそうです」
《解説》「皇国特有の衣装である僧着と袈裟は王国では珍しい衣装ですね」
《実況》「それではいよいよ王国剣帝杯決勝トーナメント開始です!!!」
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《sideジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロス》
一回戦が始まる少し前、私は気になる人物を目に留めた。
広いコロッセウムの中で、その人物は私にとって異彩を放っているように感じて目が離せなくなった。
紫色の仮面に高い身長、それだけ目立つ風貌をしているのに、どこか希薄な気配。相反する状態に異常性を感じて、私は目が離せないでいた。
もしかしたら?
自分が王国に来て、会いたい思う人物ではないだろうか?
やっぱり死んだというのはデマで、奴は生きている?
死んだと聞いた時、絶対に嘘だと思った。
だけど、それを調べる手立てはなく。
王国にいたなら全ての謎を解明してやりたい。
帝国にいて、知る術がなかった真実を確かめたい。
私は気持ちを抑えられずに、コロッセウムの中を走った。
「いないか」
先ほど見かけた通路には、紫の仮面をつけた者はいなかった。
しばらく近くを探索したが見つけることができなかった。
「くっ!」
もしも生きていたとしても、ベルーガ領にいるはずがない。
王国剣帝杯に興味を持つような人物ではなかった。
それに、王都から遠く離れたこの地に来る意味がわからない。
私が知る人物は、酷くめんどくさがりのくせに、憎たらしいほど頭が回る奴だ。
「まさかという疑念がある以上。計画の修正を伝えておいた良さそうだな」
奴が関与しているなら、計画の全貌は掴めていなくても、なんらかの手がかりを持ってこちらの動きを推測してしまう恐れがある。
「ウィルヘルミーナ・フォン・ハイデンライヒが、どこまで警戒しているのか知らないが、奴の存在を知らないまま計画を進めれば痛い目を見ることになる。それは帝国として避けなければならない」
自分がハイデンライヒ伯爵に代わって競い合いたい。
そんな欲を押し殺して、私は代理戦争になってしまった現状に、自分がどう動けば、奴の思考に逆らえるのか考えた。
「もしも、私が知る人物が何かしらの手がかりを掴んで、コロッセウムに来たとするなら、計画の一部を予想している可能性が高い。ならば、王国剣帝杯の決勝戦。勝負はそこで決着がつけられることになる」
私は盤面に置かれた駒を想像して、ハイデンライヒ伯爵の作戦と、奴が動くであろう行動を予測していく。
「ここが敵国であることが悔やまれる。いくら、入り込んでいたとしても、どうしても抜け穴ができてしまう。それを想定した作戦であることはわかっている。その抜け穴すら利用して、奴を嵌めて捕まえてしまいたい」
捕まえたなら、帝国に連れ帰り……。
「何を考えているのか、私の夫になどできるはずがない」
捕まえられたとしても、所詮は捕虜なのだ。
立場が違いすぎて、家族として迎えることはできない。
だが、あいつの頭脳は私に並ぶ。いや、それ以上かもしれない。
ならば横に侍らせて、共に切磋琢磨するのもいいだろう。
「必ず貴様を捕まえてやる。リューク」
私は再度仮面をつけた者を探したが、見つけることはできなかった。
だが、最悪を想定する思考に自らの脳を変換することはできた。
「盤上に見えない駒を置くのは卑怯だぞ。リューク。ならば、こちらもお前が予測し得ない方法で返り討ちにしてやろう」
ついつい、口角が上がってしまう。
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《side実況解説》
《実況》「一回戦第一試合決着!!!!」
《解説》「なんということでしょう!」
《実況》「妖星ロリエル、その実力は本物だった! 千の武器を使い、千の技を使う破戒僧ベイケイに対して、一切の攻撃を受けないまま全ての攻撃を返り討ちにして、ベイケイを倒してしまった」
《解説》「ロリエル選手の余裕は本物ですね」
《実況》「これは王国剣帝杯に波乱を巻き起こす出来事です! 破戒僧ベイケイは大丈夫でしょうか?」
《解説》「あれだけの技を返されながら、攻撃をし続けた破戒僧ベイケイは素晴らしかったですね」
コロッセウムの観客席から、ロリエルを讃える拍手が送られ、歓声が上がる。
《実況》「おや? ロリエルが何やらマイクを要求しています」
《解説》「なんでしょうか?」
「会場にお祭りの皆さん! 十二使徒が一人、妖星のロリエルです! 私は今大会で優勝した暁には、王女エリーナ殿との結婚を申し込みたい! どうか最後まで私へ声援をお願いします!」
《実況》「なっ! なんとロリエル選手、優勝宣言に、王族に求婚を願い出る暴挙に出ました!」
《解説》「前代未聞ですね! ですが、面白い!」
《実況》「これに応えるのは王族のお二人だ!」
「ロリエルよ。貴様が朕の妹を欲するならばくれてやろう。条件は優勝することだ!」
「ロリエル様、私を欲するのであれば力をお見せなさい!」
《実況》「王族の方々はどちらも美しく神々しい! そして、ロリエル選手の発言を許す度量の大きさを見せつけた!」
《解説》「お二人がいれば、今後の王国も安泰ですね」
《実況》「それでは決勝トーナメント一回戦第二試合を開始します。選手入場!!!」
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