第263話 王国剣帝杯 6
ココロをベルーガ辺境伯邸に送り届けて、もう一度コロッセウムに戻ってきた。
怪しい仮面の女性を見たこともあり、別の変装をしてきた。
バルニャンには幼女の姿で付き従わせて、姉妹を装う。
「エリーナのところいって、アンナに伝えられたらいいな」
エリーナに話をしておこうとやってきていたが、コロッセウムの中は人が多くてなかなか前に進めない。
バルニャンと手を繋いで、なんとか進んでいこうとするが、上手くいかないため、仕方なく選手控え室へ繋がるルートへと飛び込んだ。
本来は関係者以外立ち入り禁止ではあるが、ベルーガ辺境伯から通行証を預かっているので、見張りをしている兵士に止められても問題はない。
「そこの君!」
声をかけられて振り返ると、腰まで伸びた長い金髪のイケメンに呼び止められた。目元がキラキラと光を放ち、バックには薔薇の花が咲き乱れている。
見るからにウザい相手に絡まれてしまった。
「何か?」
「呼び止めてすまない。美しい方。だが君に用はないんだ。私が用があるのは君だよ」
そう言って、金髪イケメンがバルニャンの前で膝を突いて手を差し出した。
「名前は?」
「……バルニャン」
「可愛らしい良い名前だ」
名前を答えたバルニャンは、戸惑った様子でボクを見る。
ウザい相手に絡まれて、どうしたものかと困惑していると、バルニャンの視線を追いかけて、ウザイケメンがボクを見た。
「君はバルニャンちゃんのお姉さんかな? すまないね。十を過ぎた女性は恋愛対象から入らないんだ」
あ〜こいつはダメな方のウザい人だ。
幼女をそういう目で見ているタイプの人間はウザいだけではなく、危ないやつだ。
「あんたは?」
「おや? そうだったね。レディーに名を聞いて、名乗っていなかったとは私の失態だ。教国が誇る十二使徒が一人、美しき妖星ロリエルとは私のことだよ!」
名前を聞いても全く知らない。
教国の十二使徒ということは、それなりに強いのだろう。
ただ、ここにいるということは選手なんだろう。
「あなたは強いの?」
「何? 愚問だな。私こそが今大会優勝候補筆頭だ。次代の剣帝だよ。そうだ。私が剣帝になった暁には君の妹を私の第二妃として迎えよう」
話をするたびにポーズを決めて、花が咲き乱れる姿はただただウザい。
見た目七歳ぐらいの幼女を妃に誘うロリエルにドン引きしてしまう。
「第二妃? 結婚しているの?」
「ノンノンノン」
指を左右に振りながら、キラキラとした瞳は闘技場へ向けられる。
「この大会を優勝して、あそこに座るエリーナ王女を私の妃として出迎えるんだよ。彼女が幼少の時に見たことがあるんだ。その姿は美しく。私の心は撃ち抜かれたよ! すでに成人を迎えているが、どこか幼さとあどけなさを残す彼女は素晴らしい女性だ」
エリーナを狙ってきているのか? ボクとしては、この男の真意を知りたいと話を聞いていた。どうやら害はなさそうに思える。
「そうだ! 私の勇姿を特等席で見せてあげよう! こっちだ」
強引に腕を掴まれて、選手控え室へと招き入れられた。
本日は決勝リーグの一回戦が行われるので、半分の八名が控え室に留まっていた。
顔見知りはいない様なので、問題はなさそうだ。
「決勝リーグの一回戦第一試合が私の試合だ! 存分に私の強さを見ていくがいい!」
ロリエルは最後まで薔薇の花を咲かせたまま入場していった。
「バルニャン、行こうか」
「はい!」
選手たちの顔を見ることができた。
ロリエルの腕を振り払うことなく、控え室に入ったのは他の戦士たちの顔を見るためだった。
八人いる選手の中で、一人だけ怪しい雰囲気を放つ者がいたが、気に留めておけば問題ないだろう。
全身をローブで隠していたので、正体を見ることはできなかった。
選手控え室を出て廊下を見れば、人の波が引いていた。
どうやら試合が始まったことで、観客は席について試合を見ているようだ。
スムーズに通路を進んで来賓室の前にたどり着いた。
扉の前で控える顔見知りを見つけた。
「バル様?」
ボクに最初に気づいたのはクウだった。
彼女は耳がいい。さすがはウサギの獣人だ。
ボクの足音で気づいていた様子だ。
ただ、女装をしているので不思議な顔をする。
「エリーナに会える?」
「バル様の行方を邪魔できるものなどおりません」
ボクの問いかけにクウは扉に向かおうとする。
「なっ! ちょっと待たれよ! ここは王族が見学されているのだぞ!」
「身元がわからぬ者は通せぬ。名を身元を明かされよ!」
ボクを止めたのは、警護についていた近衛騎士だった。
ガッツの部下をしているのだろう。
真面目な顔をした騎士がいうことは正しい。
「身元を明かして、ユーシュン様に確認を取るのでまで待たれよ」
ボクは無駄話をする騎士を眠らせた。
数名の騎士たちが驚いて剣を抜こうとするが、バルニャンが無効化する。
「殺す必要はない」
「はい! マスター」
「クウ、ガッツとユーシュンに会うのも面倒だ。アンナがいるなら声をかけてくれるだけでいい」
「かしこまりました」
クウは扉を開けて、アンナを呼んでくれた。
扉が開いたことで、ガッツとユーシュンはこちらに意識を向けた様だが、エリーナは試合に集中していた。
「どうしたのですか? クウさん。えっ?」
呼ばれたのがアンナだったため、それほど警戒はされなかったようだ。
外に出てきたアンナは、倒れている騎士たちを見て驚き、そしてボクの存在に気づいて、音もなく抱きついてきた。
「お会いしとうございました」
「ああ、今回はエリーナの護衛としてお疲れ様」
「何も問題はありません。私の仕事ですから」
「アンナはいつも優秀だな。今回は伝えたいことがあってきた」
ボクは抱きしめるアンナの耳元で、裏に動きがある事情を話した。
もしもの時に取るべき行動を伝えておく。
「かしこまりました。時がくれば私が必ず」
ボクはアンナの唇を塞いだ。
強く抱きしめ、彼女の骨が軋むほどの痛みを体に刻み込む。
「ハゥ! ありがとうございます」
彼女の口元から血が流れる。
最後に少しだけ、唇の端を噛んだ。
離れたとしても、少しでも余韻が残るように。
ボクは数分後に騎士たちが目覚める様にして、その場を離れた。
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