第262話 王国剣帝杯 5

《side実況解説》


《実況》「剣帝杯に参加された一万百六十三名の皆様お疲れ様でした。大会中には様々な出来事があり、それらを乗り越えて大勢の人たちの夢を背負い、勝ち上がってきた十六名が選出されました」

《解説》「一週間にも及ぶ予選大会も終わりを告げましたね」

《実況》「ええ、多くの戦士たちが、夢半ばで倒れる中、彼らを倒して上がってきた者たちよ! その姿を表しなさい!」


 実況者の呼び声と共に十五名の参加者が姿を見せる。


 戦士たちはコロッセウムの中央に立って円を作った。


 コロッセウムに、はいることができた観客たちは歓声を上げて盛り上がり、さらには、はいれなかった者たちが、中へ届くように外から大きな声を出して会場を盛り上げる。

 

 どんどんと上がっていく観客の熱量。


 盛り上がりが最高潮に達した時、剣帝が姿を現した。


《実況》「前回大会優勝者、剣帝アーサー!!!!!」


 剣帝は、コロッセウムの最上階。

 そのさらに上にある旗が靡く場所から飛び降りる。


「トウ!」


 空中で何度も回転を繰り返し、戦士たちが円を作る中央に降り立った。


《実況》「なんと言うことでしょう! 地上数十メートルの高さから飛び降りました! 信じられませんが、剣帝アーサーは無傷です! 皆さん、剣帝の登場に盛大な拍手を!!!」


 会場中から拍手が巻き起こりました。

 剣帝アーサーが立ち上がって拍手に応えるために腕を振りあげます。


《解説》「さすがは、剣帝ですね。今年も彼の優勝は揺るぎないでしょう」

《実況》「何を言われるのですか! 今年は参加者たちも粒揃い! 新しい風が吹き荒れております。四年という歳月は、少年を一人の戦士に育て上げるのです。今年は剣帝アーサーの弟子であり、絆の聖騎士と呼ばれる王国の騎士ダンが圧倒的な勝利を納めたと報告を受けています。さらには、教国が誇る十二使徒より送られた刺客ロリエルは、今大会無傷で勝ち上がってきました。それだけではありません。帝国や皇国からも予選を勝ち上がってきた者たちがおります」

《解説》「選手たちの活躍が楽しみですね。それでは、王太子殿下であらせられるユーシュン・ジルド・ボーク・アレシダス様より王国剣帝杯決勝リーグを開始するご挨拶をいただきます」


 白銀の髪を靡かせ、真っ白な軍服を着こなす貴公子に女性たちは吐息をこぼした。


「十六名の戦士たちよ。よくぞ王国剣帝杯の決勝舞台へ勝ち上がってきてくれた!その勇姿を先ずは誉めさせてほしい。大義である!」


 王太子の言葉に拍手が巻き起こり、戦士たちは膝を追って頭を下げる。


「其方たちは、ここに立っただけでも名誉ではあるが、大会である以上一人の剣帝を決めねばならぬ。たった一人の剣帝に地位も、名誉も、冨も与えよう。そして、一つだけ我らが王族が叶えられる願いであれば叶えてやろう」


 王太子の言葉に、会場に集まった民衆だけでなく。

 モニターの先にいる王国に住まうものたち全てが熱狂する。


「王国が誇る最強の剣帝になって見せよ!」


 ユーシュン・ジルド・ボーク・アレシダスは腰に刺した剣を抜き放った。


「ここに王国剣帝杯の開始を宣言する!!!」


「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」



 コロッセウムだけでなく、会場の外も、モニターを見るものも、全ての人が歓声を上げた。

 王国が誇る最大のお祭りが始まろうとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《sideリューク》


 歓声がバックにコロッセウムの内部へと入り込んでいく。


「こっちです」


 先導するココロに従い、ボクは誰にもバレることなくコロッセウムの奥深くへと向かっていた。


「こんなところに!」

「はい。ここから悪い気を感じます」


 コロッセウムの地下に進む扉を開いて、中を覗き見る。

 中の状況を見て、ボクはそっと扉を閉じた。

 占いを得意とするココロが、最悪を想定して事前に占った結果。

 この場所が最も危険な場所だと判断したため、ボクは正確な場所を知るためにココロと共に訪れていた。


「そういうことだったのか!」

「何かわかったのですか?」

「一筋縄で解決できるほど簡単な話ではないかもしれないな」

「どういうことですか?」

「ココロ、ここは今来るべきところじゃない。一旦屋敷に戻るとしよう」

「わかりました。旦那様の判断に任せます」

「うん。カスミ、ついてきているんだろ?」

「はっ!」


 影の中から、カスミがメイド服で現れる。

 そこは忍び装束じゃないんだね。


「この辺りの調査を任せてもいいかな? 危険だと判断したら逃げればいい。それと、この地下に入る扉の向こうは入ることを禁止する」

「承知しました」

「うん。わかったことは報告して報酬は渡すから」

「はっ!」


 返事をするとカスミは姿を消してしまう。

 カスミは忍びとしては優秀だ。

 タシテ君の手駒ではない、情報を集めてくれる者はありがたい。

ココロからカスミは大丈夫だと事前に話も受けている。

 信頼できるのか、まだわからないが、信じてみようとは思っている。


「さて、リンシャンたちにも情報の共有と行こうか。それとエリーナにも話を通しておく必要がありそうだね」


 観客席まで戻ってきたボクは、観覧席より試合を見守るエリーナの姿を目にした。コロッセウムを出る際に、気になる気配を感じていた。

 視線を向けた先には、ボクと同じく仮面をつけた女性が立っており、あちらもボクを見るように視線を向けてきた。


「まさか、この距離で気づかないよね?」


 それはコロッセウムの端と端、意識して見なければ、こちらが見ていることなどわかりはしないはずだ。


「今回のお祭りには各国の思惑があるみたいだね」


 ボクはもしかしたらと、帝国の女性を思考の中に思い浮かべていた。


「彼女が関係しているなら、思っているよりも厄介なことになりそうだ」


 正体を確認される前に、ボクはコロッセウムを離れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです!


この度、《あくまで怠惰な悪役貴族》!!!


コミカライズ企画進行中となりました!!!!


めでたい!!!

これも日々読んでくださる読者様のおかげです!!!

本当にありがとうございます(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る