第261話 王国剣帝杯 4

《sideダン》


 王国剣帝杯は、ベルーガ領の各地に設けられた予選会場で予選を勝ち抜く必要がある。

 全世界から集まる強者たちは、様々な装いや武器を携えている。

 見た目だけでは、戦い方が予測できない者までいるから面白い。


「コラ、ダン先輩。気を引き締めるっす」


 参加者を見てウキウキしていると、ハヤセに怒られた。


「ハヤセ、本当に良かったのか?」

「何がっすか?」

「みんなと一緒にスイートルームで過ごさなくてだよ」


 セコンドとして、ハヤセが一緒に予選会場へ来てくれた。

 ハヤセが見ていてくれるのは嬉しい。

 王国剣帝杯には、俺とムーノ隊長が王国の代表として参加している。

 他にも王国出身者たちは多く存在しているが、王国の騎士として、正式な立場で出場するのは二人だけだ。


「本当にそうっすよ。私もスイートルームでのんびりしたかったっす」

「なら」

「嘘っす。ダン先輩といる方が私は嬉しいっす」

「そっ、そうか」

「だから、私に恥をかかせないで欲しいっす。予選なんかで負けないで欲しいっす」

「ああ、任せろ」


 一回戦に参加するため、ハヤセが見守る前で予選会に参加する。


「ああ? なんだお前? ガキがこんなところに来てんじゃねぇよ」


 パワーファイターという見た目をしている。

 筋骨隆々なハゲ頭が俺の前に立ちはだかる。

 

「オッサンは?」

「俺か? 俺の名はゴーアング! お前を倒して王国剣帝杯で優勝するものだ!」

「そうか、なら胸を借りるつもりで頑張るよ」


 ゴーアングからは何にも感じない。

 

「それでは絆の聖騎士ダンと、剛腕のゴーアングによる一回戦を始める!」


ーーカン!!!


「オラっ! 死ねっ!」

「殺されるつもりはないよ。あんたの拳は、あいつの拳に比べれば大したことはない」


 リュークの拳は見えなかった。

 拳闘術に憧れて、真似てみようと思ったことがある。

 だけど、リュークのように華麗に拳を振るうことはできなかった。


「俺ができたのは、ただ力いっぱい殴ることだけだ」


 ゴーアングの拳が俺に向かってくる。


 だからそれを避けて顔面に俺の拳を全力で振り抜いた。


「ブベブッ!!!」

「あっ!」


 オッサンは、予選場の壁に激突して意識を失う。


「しょっ、勝者! 絆の聖騎士ダン」

「ありがとうございました」

「やったっすね! ダン先輩」


 ハヤセが嬉しそうな笑顔で俺を出迎えてくれる。


「ああ」

「どうしたっすか? 剣も使わないで戦って勝ったのに、嬉しくないっすか?」

「いや、嬉しい。だけど、物足りないんだ」

「何を言っているっすか? ダン先輩のくせに」

「そうだな」


 それから順調に勝ち進んで、準決勝までやってきた。

 途中の試合では、妨害を受けそうになったこともあったが、ハヤセが先じて情報を集めて対策をとってくれた。


「これに勝てば決勝トーナメント進出っすよ」

「ああ」

「本当にどうしてしまったっすか? 全然気持ちが入っていないっす」

「こんなものなのかって考えてしまうんだ」


 学園剣帝杯の方が厄介な相手が多かった。

 それはリュークだけでなく姫様やエリーナ、他の者たちと競い高め合っていたからか? 物足りなさを感じる。


「どうしたっすか? ダン先輩は強いっすよ。それでいいじゃないっすか?」

「そうだな」

「ほら、準決勝っすよ!」

「ああ、わかってる」


 コロッセウムよりは小さい会場で準決勝が行われる。


 相対した男は柄が悪そうな男で、お世辞にもここまで上がって来れそうな見た目をしていない。


「おい、いいのか? 俺ばかりを見ていて」

「何?」

「お前の可愛い彼女が攫われるぞ」


 振り返れば、ハヤセの近くに怪しい男たちが集まり始めていた。


「なっ! 何するっすか? 離せっす!」


 腕を掴んだ男に、ハヤセが抵抗を見せる。


「くくく、どうだ? 助けに行かなくていいのか? 試合なんてやっている場合じゃないぞ? それとも俺を倒す方を優先して彼女を見捨てるのか?」


 この男がどんな手を使って、ここまで勝ち上がってきたのかハッキリした。


 アレシダス王立学園では、どんな汚い手段を使っても勝てばいい。


 それがルールであり、学園長が教えてくれた教えでもある。


「お前はアレシダス王国の騎士を舐めているのか?」

「はっ?」

「審配、開始の合図を!」

「けっ、女を見捨てるクソやろうか?!」

「それでは毒蛇のスネークと、絆の聖騎士ダンの試合を開始する!」


ーーカン!


 俺は聖剣を抜き放って斬撃を飛ばす。


「なっ!」


 ハヤセの周りに群がっていたものたちが、飛ぶ斬撃によって地面に倒れる。


「それで?」

「くっクソが! 死ねや!」

「人の力量を正しく判断できないくせに、挑むのか?」


 容赦することなく男の腕を切り落として首に剣を添える。


「ひっ! 降参する! 命だけは!」


 力だけで戦う者にも、裏工作だけで勝ち上がる者にも勝利は訪れない。


「勝者! 絆の聖騎士ダン!」


 全てを打ち砕く力有るものしか、剣帝杯の舞台には立てない。


「ダン先輩! 信じていたっす!」

「すまない。怖い思いをさせたな」

「何言ってるっすか、先輩が守ってくれるって信じてたいっす」

「そうか、ああ、ハヤセは俺が守るよ。どんなことからでも」

「先輩! 好きっすよ」


 ハヤセが抱きついてキスをしてくれる。

 大きな胸が体に当たって、心地いい。


「やぁ、どうやら君も勝ち上がったようだね」


 綺麗な金髪の髪をかきあげるイケメンの登場に、俺は怪訝な顔を向ける。


「そう警戒しないでくれたまえ、私は教国のものでね。何かあれば君の彼女を助けようと思っていたんだよ。その必要はなかったようだけどね」


 気配には気づいていた。


 目の前の男は軽薄そうに見えて、強い。


「そうか、感謝する」

「いやいや、結局私は何もできなかったからね。それにしても君は強いね。優勝は僕で決まりだと思っていたけど、厄介な相手になりそうだ」

「何が目的だ?」

「目的? そうだね。優勝をすれば王族に願いを叶えてもらえるという話だ。僕はこれでも教国でそれなりの地位を与えられているものでね。今回の剣帝杯で優勝できたなら、エリーナ王女との結婚を頼もうかと思っているんだ」


 この男は嘘をついていない。

 

 本気でエリーナ王女に求婚するために、この大会に参加しているんだ。

 

「それは無理な願いだな」

「どうしてだい? これでも教国では十二使徒に名を連ねるものなんだ。弱くはないよ」

「俺が阻止するからだ」

「ふ〜ん、君にできるのかな? その腕で?」

「あいつがいない今。エリーナ様のことを守るのは俺の役目だ」


 リュークがいたなら、自分の婚約者を守っていただろう。

 だけど、奴はもういない。

 だから、エリーナ様が望む相手と結婚するまで、このような形でエリーナの意思に反した結婚などさせない。


「ふ〜ん。楽しみにしているよ! 性駄犬師のダン君」


 最後まで男は名乗ることなく、軽薄な態度で去っていった。


「大丈夫っすか?」

「ああ、あいつの代わりに俺が王国を守るんだ。アーサー師匠に勝って、あいつにも負けない」

「その意気っす! いつにも増してかっこいいっす」

 

 ハヤセがキスをしてくれて、俺たちはその日は二人の時間を過ごした。




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