第260話 王国剣帝杯 3

《sideエリーナ・シルディー・ボーク・アレシダス》


 ベルーガ領に到着した私たちはベルーガ領が誇る最高級ホテルのスイートルームに王国剣帝杯の間、泊まらせてもらうことが決まっている。

 王族がベルーガ領へ来るということで、ベルーガ辺境伯様が配慮してくれたためでした。

 最上階にあるスイートルームは、メインとなるスイートルームが二つあり、ユーシュンお兄様の隣の部屋へと案内されました。

 王国内でも圧倒的な最高級ホテルは、王城となんら遜色のない飾り付けに、スタッフの心遣いが見え隠れしている。


 私の護衛として、アンナとアレシダス王立学園から志願してきた者たちが従者用の部屋に控えてくれている。

 気心の知れた者たちが側にいてくれる方が気が楽だと判断してのことだ。

 リュークの専属メイドをしていたクウ。

 リュークが認めたクロマ。

 二人には、アンナと共にメイドとして、私の部屋への出入りも自由にしてもらっている。


「エリーナ様、早速寛ぐのはおやめください!」

「アンナ! そんなことを言ってもここまで来るのは大変だったのよ。少しぐらいいいじゃない」


 リュークと修学旅行に行った時は、魔物の襲撃はなく。

 馬車は揺れない。食事は暖かくて美味しかった。

 

 だけど、魔物の襲撃は朝も昼もあり、馬車は揺れ、食事は毒味の者たち食べるのを待つという形式が増えて冷たい食事だけが渡された。


「ここは城の中ではございません。誰が見ているのか、間者のことも心配して頂かなければなりません」

「え〜そんなに警戒しなくてもホテルの中は、ベルーガ領が誇るホテルマンたちが在住しているわ。彼らは騎士と変わらない強さを持っているというじゃない。それにこのスイートルームがあるフロアには、王国騎士たちが警備をしているでしょ?」


 これだけの人数が守ってくれている場所にスパイが入り込むだろうか?


「危機感が足りていません! ここは皇国との国境沿いの領なのです。戦争中の今、いつ敵国が攻めてきてもおかしくはないのですよ!」


 アンナはいつも以上にピリピリとしていた。

 それもそのはずだ。

 リュークに全く会えていない。

 前回会えたのは数ヶ月前で、しかも私たちは揃ってリュークの役に立つことができなかった。


 役に立つために参戦したはずだった。

 だけど、リュークは大量の見るのも恐ろしい虫たちを使って、敵ダンジョンを攻略してしまった。


 私たちは役立たずだった。


「だって、リュークが私に会いにきてくれないし。会いに行っても私は役に立たないし、今回もユーシュン兄様がメインで私は飾り付けの花程度でしょ? ニコニコしていればいいだけだわ」


 そうです。


 私は拗ねているのです。


 リュークにとって私って何? 必要? 私って王女でこの国の政治に関与できるかも的なポジションにいるのに、リュークにとって、王女としての政治的な関与って意味ある? ないよね?


 それを思うと、自分の価値が無いように思えて、落ち込む日々を送っているのです。


「ハァ、今更何を言っているのですか?」

「なっ! 何って何よ!」

「エリーナ様は確かにユーシュン様と同じ優秀な部類です」

「まっ、まぁね」

「容姿端麗、才色兼備、文武両道、エリーナ様を表する言葉は数あれど」


 今日は珍しくアンナが私を褒めてくれる。

 私の気分も上がっていく。


 そうよ。私は王女で魔法の才能があって、何よりも王国の宝と言われるこの美しさがある。


 私を欲しいと思う殿方はこの王国中にいるんだからね。


「されど、リューク様の輝きには遠く及びません」

「ちょっと! 今は私のことを褒め称えるところでしょ? どうしてリュークと比べるのよ!」

「リューク様はリューク様の成されることがあり、エリーナ様にはエリーナ様のなすべきことがあります」

「私がなすべきことって何よ?」

「王族として、王国剣帝杯を盛り上げることです。それにリューク様は他の方々は移動をさせたのに、エリーナ様とシーラス様は元の役職のままで残されました。それには意味があるのではないですか?」

「あっ! そうなのね! そうだったんだわ! きっとリュークは、いつかダンジョンを制覇した暁には、王になるつもりなのよ。そのために私と結婚して王族としての権力が必要だったのね!」


 そうよ。そうに違いないわ! 

 だから、私だけカリビアン領のリューに呼ばれなかったのよ。

 カリンやリンシャン、他の子達がリュークと共にいることを羨ましと思っていたけれど、それならば納得だわ。


 私は王族として、役目を果たしてリュークを出迎える準備をしなくては行けなかったのよ。


「チョロ」

「何か言ったかしら?」

「いえ、何も言っておりません。エリーナ様は最高です」

「そうよね?!」

「はい。それではそろそろ王国剣帝杯の式典が始まりますので、ご準備いたしましょう」

「ええ。楽しみね」


 本当に楽しみ。


 リュークにもこの美しい姿を見せたいものだわ。


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《side実況解説》


《実況》「さて、四年に一度の世界を揺るがす王国剣帝杯! 優勝した剣帝には、地位、名誉、賞金、様々な褒賞が与えられるだけでなく。王族になんでも一つ願いを叶えてもらう権利を頂けるそうです」

《解説》「そうですね。予選大会はベルーガ領の各地で行われ、上位16名だけがコロッセウムにて決勝リーグに参加する権利があります」

《実況》「王国、帝国、教国、そして、戦争中であろうと皇国からの参加者も認める王国側の度量の広さ」

《解説》「武芸者に戦争は関係ないということですね!」

《実況》「もちろん、厳正なスパイ疑惑の検査をした上で、参加を認めております」

《解説》「まさしく王国の懐の広さを見せつけた所業です。そして、学園剣帝杯同様にどんなことがあっても十六名に勝ち上がれば問題がありません」

《実況》「それぞれの思惑が絡み合うからこそ面白い!」

《解説》「ベルーガ辺境伯であるオリガ様と、王太子殿下のユーシュン様、並びに第一王女のエリーナ様が開会式の挨拶に現れました」

《実況》「ここからは、ご挨拶をお聞きください」


 数万人がコロッセウムに集まり、さらには王国全土に設置された受信モニターによって三人の顔が映し出される。


 若き次代の王に熱狂する民衆。

 見目麗しい三人が並ぶことに歓喜をあげる観客。


 それは、これまでの王国剣帝杯とは一味違う世代が変わったことを知らせる出来事だった。

 


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