第246話 深海ダンジョン調査隊 5

 キラキラと太陽の光が海に反射して、穏やからな空気が流れ始める。

 部屋にはシロップが残した香りが、ボクを幸せな気持ちにしてくれる。


 水を飲むために扉を開くと、目の前で土下座姿でボクを出迎える人魚姫。

 なぜだろうか、美しい容姿に綺麗な顔をして、気持ちの良い笑顔を向けてくれるのに顔をそむけたくなる。


「ハァ、また来たの?」

「はっ! 新たな海の支配者である海王リューク様に再び深海ダンジョンにいらしてほしいため、本日も参りました」


 僕は一度だけ、深海ダンジョンへ訪れた。

 それ以来、毎日のように宮殿の朝になるとこうやって出迎えられる。


「もう行かないって言ったよね」

「そこをなんとか! 我々マーメイド族とハンギョ族は現在交戦中なのです。妾がダンジョンマスターではなくなり、力を失ったことで。ヨヨヨ」


 うん。こいつはマジでうざい。

 

 エリーナと同じタイプかと思ったが、こいつは違う。

 小判鮫キャラだ。


「むしろ、お前たちを潰してやろうか」

「そっ、そんな! 海王様! 我々をお見捨てになると言うのですが、あの夜に妾を弄んだではありませんか」


 なぜか、大きな声で人聞きの悪いことを、歌にして叫び始める。朝からうるさい。無駄に声がいいのが余計に腹が立つ。


「一晩中歌わせただけだ。お前が歌が歌えるとか言うから試しただけだろ。意外に上手かったからな。それにお前が歌うと眠りが良くなるからな」

「ふふん! そうでしょうそうでしょう。妾の歌はリラックス効果があるんです。どうです? 眠りを愛しておられる海王様なら、妾の価値をわかってくださるでしょう」

 

 うざい。マジでうざいぞこいつ。

 自分の価値を見出したら、グイグイ来るようになりやがった。

 

 降伏を受け入れたことで、静かな眠りダンジョンに深海ダンジョンは組み込まれた。

 一回だけ深海ダンジョンに行ったところ、海の景色は確かに綺麗で、深海ダンジョンの中には空気が存在していた。

 

 だが、馬鹿でかいタイやヒラメが舞い踊る姿を見せられて。塩の無い焼き魚に、貝の出し汁。

 うん、素材の味は美味いよ。

 だけどさ、カリンの料理を食べ慣れているボクには料理の歓迎を受けても対して喜べない。


 しかも、途中で魚要素強めの半魚人が乱入してきて、撃退するとか、マジで面倒だ。


「お前って図々しくてウザいよな」

「またまた、海王様。そんなこと言いながら、妾の歌と踊りの虜でしょ。妾のこの美貌と歌は海の中で一番ですよ」


 マジでウザい。


 一回潰すか?


「ひっ! 申し訳、申し訳ありませんでした!ですが、今回は本当に急を要するのです!」


 こいつの一番ウザいところはここだ。

 危機を察知したら、すぐに土下座の態勢になって謝罪を口にする。


「はぁ、本当にお前はウザくて面倒なやつだ」


 僕は腰を上げる。


 シェルフを連れて、深海ダンジョンに移動する。


「シェルフ」

「はっ!」

「敵は?」

「爺!」

「これはシェルフ様、それに海王様!よくぞお戻りになられました」


 亀の魚人に、タイやヒラメたちが膝をついて礼を尽くす。


「現状の報告をせよ」

「はいですじゃ! 現在、ハンギョ種共は総力を結集してこちらに向かっております」

「数は?」

「海怪々を含め1000はいるかと」

「何! 奴らはまだそれだけの戦力を!」


 数万とか言われると思ったけど、意外に少ないのか?

 巨大なタイが1000匹で攻めてくるのを想像するだけで嫌だな。


「お前たちの戦を、この一度で終わらせる」

「おお! さすがは我らが海王様!」

「「「海王様!!!!海王様!!!!海王様!!!!」」」」


 シェルフ・マーメイドと契約してからわかったことだが、カリビアン領全域に存在する海人種は全てマーメイド族であり、シェルフはその女王だった。


 こいつ自体は他人の力を頼りにするウザキャラだが、女王としては、マーメイド族の者たちに慕われている。

 カリビアン領とも友好的な付き合いをしてきた。


 それらを考慮して、今回はマーメイド族を助けてやることにした。


「DMPを使えば、海の中でも息ができるじゃないか?」


 ダンジョンレベルが5になったことで、出来ることが増えた。

 その一つとしてカリビアン海域と呼ばれる一帯を、ダンジョンと化すように範囲を広げて、海でも動けるようになった。


 ボクはバルに身を預けて海へとでる。

 ダンジョン中では空気も存在するが、今のボクは確認をしたかっただけだ。


「一撃で終わらせる」


 海を割るほどの魔力は必要ない。

 ダンジョン内は、ボクの力とリンクしている。

 もっと明確に、もっと凝縮した力を放つために。


「深海ダンジョン特別魔導砲発射準備」


 ダンジョンではない陸地では、ボク自身が砲台になって打たなければいけなかった。

 だが、ダンジョンの中であれば、イメージして砲台を作り出し、魔力を吸収させて放つ魔力を貯めることができる。


 もちろん、DMPを消費するので使えるのはダンジョンマスターであるボクだけだ。


「さぁ、ハンギョ種ども、終わりにしよう。お前たちとの因縁を断ち切って、この海域はボクのヒロインたちの海水浴場にするんだ! 特別魔導砲発射!」


 ボクの命令を聞いたバルが魔導砲を発射した。


「発射!!!」


 海から、空へと撃ち出された魔力は、迫り来るハンギョ種たちを全て消滅させて海を切り裂いた。


「任務完了」

「( ̄^ ̄)ゞ」


 バルが敬礼のポーズを取る。


 振り返ったボクが見たのはキラキラとした瞳をしたシェルフ・マーメイドの顔だった。


 なぜか、凄くウザい。

 

 


 

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