第245話 深海ダンジョン調査隊 4

 エメラルドの髪色は、月明かりに照らされて綺麗に輝きを放っている。

 胸元には貝殻で作られたブラを付け、腰元からスカートで包まれた下半身。

 手には三股に分かれた槍を持っている。


 神話に出てくるポセイドンを女性にすれば、彼女のような姿なのだろうか?


「ようこそ、深海ダンジョンのマスター殿」


 ボクは立ち上がって深海ダンジョンのマスターを出迎える。

 海人族とでも呼べばいいのか、カリビアン領で働くマーメイド族と呼ばれる魚と人を混じり合わせたような人たちに近い。


「静かな眠りダンジョンマスター殿とお見受けする」

「ええ、わざわざそちらから来ていただけるとはありがたい。こちらからの侵略を受けて頂けるということかな?」


《侵略を開始しますか?》


 敵が目の前にいて、初めて相手の力量が把握できる。

 彼女のレベルはボクと同等か、少し高い。

 つまりは、限界突破を持っている可能性がある。


 戦いになれば、負けることはないが少し厄介ではある。


「待て、妾はシェルフ・マーメイド。三代目深海ダンジョンマスターである。貴殿に問いたいことがあって本日は地上にやってきた」

「問いたいこと?」

「ああ、本日の海を割った所業は貴殿が行ったことか?」


 意外にも問いかけられた内容にボクは首を傾げてしまう。


「当たり前じゃないですか? ボク以外に誰が海を割って深海ダンジョンに攻撃するんです?」

「そっ、そうであったか。ならば続けて問おう」

「ちょっと待ってください。あなたは質問をした。だから、今度はボクから一つ質問をさせてください。そうじゃないとフェアじゃない」

「よかろう。なんでも聞くが良い」


 少し偉そうに感じるが、それも王として君臨してきた者ならば仕方がない態度なのだろう。


「あなたの姿は仮初か?」

「それはどういう意味じゃ? 妾は妾である」

「ふむ。その美しさは本物ということか」

「なっ! わっ、妾を籠絡するつもりかえ?」

「まぁそれも悪くはないかな? それじゃ、質問していいよ」

「なっ、なんじゃ急に雑ではないか?」

「そんなことないよ。どうぞ」


 なんとなく、エリーナと同じような匂いがする。

 優秀で、美しい容姿、どこか抜けている。

 

 ダンジョンマスター本人が敵地に一人で乗り込んできて人となりがわかった。

 自分の得意な場所から出て、地上にマスターがいる。


「ならば問おう。貴殿が海を割ることは相当な魔力を消費することだろう。あれはどのぐらいペースで使えるのだ?」


 なるほど、海を割ったことを警戒して会いにきたというわけか。

 ここで素直に手の内を晒して仕舞えばどうなる?


「うむ。それを聞いてどうするの?」

「なるほどな。手の内を知られるのはマズイということか、底が知れたな」


 うん。なんだろう。

 こっちは答えてないのに勝手に判断してくれたな。


「もう良い。妾、深海ダンジョンは静かな眠りダンジョンに対してし「いつでも使えるぞ」ん……」


 話の途中で答えると、人魚姫は口を大きく開いたまま固まってしまう。

 うーん、美人なのに残念な様子が、やっぱりエリーナに似ている。

 どうしようか? 二人も残念な王族は必要ない。


「キュ」

「キュ?」

「急用を思い出した。本日は失礼させてもらう」

「侵略を受けてくれる気はある?」

「しっ、知らん! 妾は知らんぞ」

「もしも、受けてくれないなら、深海ダンジョンごと潰すぞ」

「ひっ!」


 ボクはなんだか、人魚姫の相手をするのが面倒になってきた。

 シータゲの時にも思ったが、ダンジョンが選ぶマスターに賢い者は少ない。

 確かに、力を多少は持っているかもしれないが知恵がない。


「うっ、歌が歌えます」

「は?」


 いきなり涙目になって、何やら言い出した。


「歌なら、誰にも負けない自信があります。他にも見た目が綺麗だと言われます。海のマーメイドといえば、地上でも美しい種族として、重宝されると聞いてきました」


 えーと、どういうことだろうか?


「お願いします。殺さないでください!」


 エリーナよりも本能的というか、うーん、これは侵略不可能?


「おい」

「はい!」

「ボクは、深海ダンジョンが欲しい」

「こっ、降伏します! どうか、妾を、種族をお救いください!!」

「種族?」

「はい! あなた様が海を割った影響で、海に棲んでいる者たちが大惨事になりました。妾の軍勢はほとんどを失いました。現在戦うことができません。もしも、あなた様があのお力を使えないのであれば、被害が出ていたとしても、今のうちに倒すべきだと、妾の軍師が申しましたのでここにきました」


 人魚が土下座している。

 しかも完全に降伏してるのか、慌てすぎて下半身が魚になった。

 

 美しいマーメイドねぇ〜。

 

 完全に人魚が土下座をしている。

 綺麗な見た目とのギャップが凄い。


「お前は降伏して、ボクにダンジョンを差し出すのか?」

「はい! 妾も前のダンジョンマスターに譲渡されました」

「ダンジョンマスターではなくなったら、お前はどうなる?」

「どうにもなりません。あなた様の配下として生殺与奪の権利をマスターに委ねるだけです」


 う〜ん、最初とは偉く口調が変わって従順な人魚姫。


 エリーナはずっと残念美人だけど、従順なのはシロップか?


「お前に、深海ダンジョンの管理を任せると言ったら?」

「喜んで勤めさせていただきます」


 深海まで潜るのは面倒だから、それはそれでいいか。


「わかった。お前の降伏を受け入れる」

「ありがとうございます!!!」


《深海ダンジョンの降伏を受け入れました。これにより静かな眠りダンジョンはレベル5になり、特典を得られます》


 どうやら深海ダンジョンはボクの物になったようだ。


 海の中は、代わりに管理してもらえればいいか。




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